「泣かないで」
そう伝えたいのに...
もう声が出ない...
貴方の 泣いている顔がぼやけて
視界が、霞む
(ごめんね...) もっと 貴方と
一緒に 過ごしたかった。
貴方の 隣に居たかった。
貴方の顔に手を伸ばす事も
もう 出来ない...
心電図が ピッ ピッと 不規則になる。
呼吸が だんだんと 苦しくなる。
浅く息を吐くのも 難しい
最期にこれだけは、貴方に
伝えたい
(愛してる...)
声にならない声で私は、呟く
ああ...最期まで 泣かせて
心配掛けてばっかだったね...
バイバイ 私の愛しい人
ピーーーィ心電図が 長い電子音を
響かせ 私は、この世を後にした。
冬になったらの続き
冬のはじまり
「メリークリスマス!」
パア~ンと クラッカーが破裂する。
紙吹雪が 夏樹の頭に掛かる。
不機嫌そうな顔で夏樹は、
紙吹雪を払う。
「夏樹~もっと楽しそうな顔してよ!」
「高校生にもなってクラッカーって...」
夏樹は、呆れる様にため息を吐いた。
「お前 他に友達居ないのかよ~」
「何よ~幼馴染みのよしみでしょ!
付き合ってよ!」
私は、頬をぷくっと膨らませる。
夏樹は、またため息を吐いて
右手を差し出す。
「ケーキ切るからナイフ貸して」
私は、言うとおりにナイフを
差し出す。
「私イチゴ乗ってる所ね!」
「はい はい...」
別に 他に友達は、居る。
だけど...
「冬美 夏樹君と仲良いでしょ!
誘ってみてよ」
そう言う友達が大半だから
なんだかつまらなくて....
私をダシにしないでよ
話し掛けたいなら自分から
言えば良いでしょ?
そう言えば
「だって何か緊張しちゃって
話し掛けられないんだもん
冬美は、幼馴染みだから
分かんないだろうけど...」
何だろう前は 夏樹が人気者なのが
嬉しかったのに...
何だか 最近・・・
「どうした?」
夏樹が訝しげに 私を見る。
「何でもな~い」
まあいいや 考えても 答えが
出ない 問題は、考えない様にしよう
「ロウソク立てよう!」
「はぁ 何で クリスマスだろう」
「細かい事気にしないの」
私は、夏樹の嫌そうな顔を無視し
ケーキにロウソクを立てる。
「メリークリスマス!」
私は、嫌な気持ちを吹き飛ばす為に
思いっ切りロウソクを吹いた。
メリークリスマス!!
「終わらせないで!!」
私は、倒れている者に駆け寄って
必死に 訴える様に叫んだ。
泣きじゃくり 冷たく見下ろす瞳に
慈悲を請うた。
私が 今背に庇っている者に
侮蔑の視線を向け
腕を振り上げた状態から
動かず
私に 向かって口を開いた。
「ならぬ 其奴は、罪を犯した。
罰せねばならぬ!!」
「罪...罪とは、何ですか...」
私は、キッと視線をきつく結び
侮蔑の視線から 彼の者を
守る。
「其方を誑かした よって死を
もって償って貰う」
「なっ!!」
私は、その言葉に 驚愕し 目を
見開いた。
「何故ですか?神様 私達は、
愛し合って居ただけです...
それが 何故罪になるのですか?」
「ならぬ 天使と悪魔が 交わるなど
あっては、ならぬ!」
その言葉に私は、失望した。
裏切られた気分だった。
神様は、常日頃 等しく人を愛せよと
私達に説いていた。
人と悪魔それだけの違いで
差別し 刃を向け 殺そうと
する神にどちらが 悪魔か教えてやりたい
私は、はっきりと告げた。
「この者の命を終わらすと 言うのなら
私の命も終わらせて下さい。」
これには、神様だけでなく
後ろに 庇われていた
悪魔も声を上げた。
「ばっ 馬鹿 何言って!」
これには、神様も一瞬怯んだ。
「じ 自分が何を言っているのか
分かっているのか!!
天使が血を流す事は、堕天する事を
意味する。
悪魔とも天使とも違う輪廻の輪の中にも
入らず 一人孤独を味わう事になるぞ」
「構いません!」
「駄目だ!!」
悪魔が 手を伸ばして
天使を 引き寄せる。
「馬鹿な事をするな!!
お前との事は、一時の迷いだ
何の情も無い」
「嘘...じゃあ何で泣いているの?」
天使は、悪魔の頬に そっと手を
伸ばす。
その雫が指先に 触れる。
「愛しているわ...」
天使は、呟き ....
自らの手で 自分の心臓を鷲摑み
胸に穴を開けた。
鮮血が飛び散った。
「わあああああああぁーっ」
慟哭が 谺し 響いた。
「愚かな....」
神は、冷淡に 天使を見下ろし
悪魔に刀を向ける。
悪魔は、最後の力を振り絞り
黒い翼を広げ 天使の体を抱え
神様の 祭壇を飛び降りた。
天使の体を抱えた悪魔は、神様達の
包囲網を潜り抜け姿を消した。
その後いくら探しても行方は、
分からなかった。
数年後...
一人の青年が白い丘に立っていた。
灰色の翼を携えて...
その 傍らには、黒い翼を携えた
女性が立っていた。
「馬鹿ね.... 悪魔が更生するなんて...
天使の堕天と一緒じゃない....」
「先に馬鹿な事をしたのは、どっちだよ!
大変だったんだぞ!!
善行を積むなんてやった事ないから
最初の数年は、苦労したし...」
「ふふっ お疲れ様」
二人は、お互いの手を絡ませ
しっかりと繋ぐ
もう離れない様に
二人の時間を誰にも邪魔され無い様に
終わらせ無い為に......
太陽の下での続き
愛情
「どうしても 冬に会って欲しいの?」
君は、頑なにそう言って居たのに・・・
何故 僕は、あんな事を呟いて
君と一緒に出掛けてしまったんだろう...
すぐ 冗談だよと返せば良かった。....
君が 出掛けようと言った時に否定
すれば良かった。....
君が僕の前から 姿を消して
一年が 過ぎた。
初めの内は事件や 何かに巻き込まれたの
かと思い 気が気じゃ無く
方々を探し回った。
だけど 君は、どこを 探しても
見つから無かった。
君と最期に会った 暖かい春の日
木漏れ日の中で 君と一緒に
草の上に寝転んで 君は
とても嬉しそうに笑って居たね
まるで 焦がれていた物に
初めて 触れた様な
そんな笑顔だった。
帰り際に交わした君とのキス
君から 言い出した時は
びっくりしたけど...嬉しかった。
僕は、照れくさくて
躊躇う様にキスを
したけど...
君は、僕の頭を引き寄せ
情熱的なキスを返した。
瞬間 頭の中が 真っ白になった。
君は、貪る様に
必死に記憶する様に
僕の唇に吸い付くから
僕の体は 背筋から
甘い 歓喜の痺れが
走っていた。
思えば あれが君との最期だった。
君が結局 何者だったのか 僕は
知らない
だけど...
「冬にしか会えない...」
君が言った その言葉を
僕は、もっと深く考えるべきだった...。
ねぇ 僕は君に愛情を注げていただろうか...
結局 君に愛情を貰ってばっかで
何も返せていない様な気がする。
僕がそんな風に考え込んでいると
ふと カーテンの隙間から
冷たい風が吹き込んで来た。
そうして 僕の耳朶に...
「馬鹿ね... そんな事ある訳無いじゃない」と そんな君の声が
飛び込んで来た様な錯覚を覚えた。
僕は、顔を上げ
目から流れる水滴が これ以上流れない
様に 必死に堪えた。
落ちていくの続き
微熱
38・5分
俺は、体温計の数値をみる。
完全に風邪だ。
「あ~あくそッ」
俺は、ベッドで悪態を吐く
兵士時代は、風邪なんて
ひく暇なんか無かったって言うのに...
コンコン とノックの音が聞こえた。
返事をする前にドアが開いた。
「やっほ~お見舞いに来たよ!!」
「何だお前か...」
ドアから 入って来たのは、
白衣を着た痩せぎすの青年だった。
「ちょっと ちょっと 昔馴染みに
結構な反応じゃない」
俺は へらへらと笑う其奴の顔を
睨み上げた。
「そう思うなら さっさと帰れ!」
「熱があるのに凄い怒鳴るね...」
其奴は、肩を竦めると
見舞いの品を机に置いた。
「とりあえず スポーツドリンクと
熱さましと ゼリー買って来たから
熱下がったら食べなよ!!」
「ああ...」俺はベッドの壁側に顔を向け
背中を見せて答えた。
「早く治ってあげないと ニフジちゃん
寂しがってるよ!!」
「・・・」
「全く仮にも元殺戮兵器に 風邪が移るとか心配するとか お門違いだと思うよ」
俺は 其奴が 放った言葉にピクリと
反応し 其奴の顔を睨み上げた。
「おお~ 怖い 怖い」
其奴は、この言葉を言うと 俺の
機嫌が悪くなる事を知っていて
あえてその言葉を返す。
殺戮兵器
2FG
それを もじって
ニフジと付けたあいつの名前
「ニフジちゃんの事となると過保護なんだから」
其奴は、やれやれと肩を竦める。
「そんなんじゃ無い あいつが 居ると
うるさいから 追い出しただけだ」
「まぁ そう言う事にしておこうか
じゃあ 僕は もう帰るね!」
そう言って バタンと ドアを
閉めて 其奴は、出て行った。
「くそ~あいつ 余計な事を言いやがって」
俺は 片腕で顔を隠し 話題に上った
少女の顔を思い出さない様に
必死に取り繕った。
油断すると あの陽だまりみたいな
笑顔がちらつくのを
頭を振って堪える。
「余計 熱が上がるだろうがぁ~」
余計な 置き土産を残した
見舞い客のせいで
熱が 微熱に下がるのは、
まだまだ当分先の様だ。