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3/20/2025, 3:30:42 PM

"手を繋いで"
君と見た景色
記憶


 そのうち書きます

3/19/2025, 6:03:01 AM

"大好き"


 「あの、これ」

 控えめなノックの音に答えると、苦々しげな顔をした部下が顔をだして、まるで汚物でも触るかのように隅をつまんで手紙を差し出した。
 テーブルのうえに置かれた、白いレースの装飾がされた封筒の差出人は不明で、ただ真ん中にパソコンの初期フォントで私の名前だけが記されている。
 こんな不審な手紙、普通であれば私の手元に届く前に不審物として処分されてもおかしくないだろうに、こうしてイヤイヤながらも律儀に届くのは、この手紙が毎年毎年こうして送られてきて、そして毎年私が受け取っているからだろう。

 最初こそ、今すぐ破り捨てようと身を乗り出していた部下も数年経つうちに苦々しげな顔で睨む程度にはこの手紙に慣れたらしい。いつもありがとう、と手元にあったチョコレートの包みを手渡して労ってやるといくらかその顔からは険しさが抜けたようにみえる。

 「……では、失礼します」

 渋々、といった顔でチョコレートをしまった部下は部屋をでていく。最後の最後まで、手紙を睨みつけることは忘れていなかった部下の姿に思わず一人笑ってしまう。
 随分と、嫌われているなお前。差出人の名前を書いても書かなくっても、どちらにしてもあの部下の表情は変わらないだろうといつかこの差出人に伝えてやりたいものだ。
 封筒の中には揃いの便箋が2枚、どちらもまっさらなままに入っている。これも毎年のことだ。今となっては透かしてみることもせず軽く覗いてみるだけだ。
 どうせ炙ったって濡らしたって、透かしたって塗ったっとこの便箋にはなにも綴られてはいないのだ。唯一の情報といえば、切手の上におされた郵便局の消印くらいか。今回は随分と近くから発送されている。
 つい先日その辺りで会ったばかりの古い知り合いの澄ました顔を思いだす。いつも通りの癇に障る澄まし顔でいつも通りの口喧嘩をして、そして相変わらずだなと不愉快な捨て台詞を吐いて返っていったその足で、この手紙をだしに郵便局に立ち寄ったのかと思うと笑えてくる。

 「……ばかなやつ」

 思わず漏れた言葉は自分でもぎょっとするほど柔らかくて、ああばかなのは自分もかと思い知る。


 "   "の代わりに手紙を
 

3/14/2025, 1:37:07 PM

"君を探して"




そのうち書きたいので保留

2/15/2025, 2:42:01 PM

君の声がする



 朝、ベッドの上で目覚めた時。朝食の目玉焼きにケチャップをかけた時。実のない会議からやっと開放された時。コーヒーにミルクを入れすぎてしまった時。へとへとになりながら帰宅した時。いつか、君の声がするんじゃないか、と耳をすます。
 随分とお寝坊さんじゃないか。ケチャップを跳ねさせるなよ。お疲れ様、どうだった。ちょうどミルクたっぷりのコーヒーが飲みたかったんだ、ありがとう。おかえり、今日もお疲れ様、君の好きな夕飯を用意してるよ。きっと君ならそういって、涼し気な印象の強い目を緩ませてへにゃりと笑いかけてくれるだろう。うんと昔の君の姿を思いだす。あれから何年経ったかな。君も私もまだ学生服を着ていたけれど、もしも君がここにいたら、今はどんな服を着ているのだろうね。
 真っ暗なリビングの明かりをつける。帰り道で買った夕飯をレンジにぶち込んで、カーテンをしめてテレビをつける。
 君と二人で夕飯を食べる時はいつもテレビは消していた。どれだけ一緒に暮らしていたっておしゃべりな君の話はつきなくて、テレビなんて見ている暇もなかったっけ。

 またコンビニ弁当か?全くずぼらなんだから。呆れたふうに、でも底抜けに愛おしそうに笑う君の声が聞こえた気がした。

2/9/2025, 4:35:52 PM

君の背中。


 背中の傷は、逃げ傷というのだという。敵に背を向けて無様に敗走した者にのみ残る傷、ということらしい。背中の傷の一つひとつに軟膏を塗りながら背後で君がやわく笑う。

 「実にお前らしいな、敗走兵」
 「……君は顔面を大怪我していたけどね」

 顔面の大怪我はいったいどれほどの誉れなんだろうね、皮肉っぽく言ってやろうと思った言葉は、傷を触る彼の指先の優しさに感化されたのか思いの外甘い色になっていた。ふふん、と不満を現す彼の鼻息もどこか甘い。
 楽しげに傷をなぞる指先は、やわくて繊細でよく手入れがされているようだった。昔はもう少しささくれだっていて指の皮も固くて、荒れていた気がする。指の付け根には様々な武器によるタコなんかもよくできていた。
 ふ、と自分の指を見る。記憶の中の彼の指の様に俺の手のひらは相変わらず手入れが足りてない荒れた手のひらだった。それでも、もうこの手のひらにタコも怪我もない。

 「君の背中は、きっと綺麗なんだろうね」
 「……お前よりはずっと、な」

 ギシリ、とベッドが軋む音がして背後の彼が立ち上がる気配がした。放り投げていたTシャツを掴みながら振り向くと、彼は既に部屋のドアに手をかけていた。ありがとうと声をかけると、振り向かずにヒラヒラと手を振って去っていった。

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