虹のはじまりを探して
朝から降ったりやんだりの雨を、窓から見上げている憎らしげな顔が急に明るくなったような気がした。手に持っていただけで対して読み進められてもいない新聞を適当に置いて、どうしたのかと尋ねれば随分とご機嫌を取り戻した声が、ほらみて!と鼓膜を揺らした。
窓にくっつける様に指す、細い人差し指を追って視線を向ければ明るくなった表情と比例する様に随分と明るくなった青空に虹が浮かんでいる。
天気の変わりやすいこの地域で虹はそう珍しいものでもない。それでもこんなにも表情が変わるのだから不思議なやつだ。普段はもう少し大人ぶってみせる凪いだ青空の瞳がこんなにもキラキラと輝いていることの方が珍しい気もする。
「虹の端でも、探しに行くか?」
幼い頃、初めて虹を見た彼女がおんなじキラキラの瞳で見上げて来た日を思い出したらふとそんな言葉が口をついていた。
そういえば、あの日も雨で不機嫌だったのに虹を見たとたんにご機嫌になって、そして有無を言わさず小さくてやわっこい手で俺を虹の麓まで連れていこうとしていたっけ。
その手を離さないように、傷つけないように、握りしめながら一生懸命虹の端というものは存在しないのだと科学の説明をしたことを思い出す。きっと同じようなことを思い出したのだろう俺をみあげる白い顔にさっと朱が走った。
「もう子供扱いしないでよ!」
拗ねた様に尖らす唇に湧き出す想いには蓋をして、白いおでこにキスを落とす。だから子供扱いしないでってば!という声にハイハイと答えて虹を見上げる。
虹のはじまりを探しているのは、いつだって俺の方だ。
7/28/2025, 11:39:46 AM