Unm

Open App

星を追いかけて



 夜空を、無数の流れ星が世話しなく駆け抜けていく。まるで飴がたっぷり詰まったキャンディージャーを思いっきりひっくり返した様な騒がしさだ。
 流星群を眺めるために外に出たらしいファミリーの、幼い子どもがあげる歓声が聴こえてくる。

 あの歓声をあげる子どもと同じくらいに小さな頃に、少し前を歩く兄の丸い後頭部に向けて問いかけた言葉がふいに頭を掠めていった。

 「ねえ、あのお星さまはどこへ行くの?」

 兄はそこでやっと空を駆ける星々に気づいた様で、はたと足をとめ空を仰いだ。やっと兄に追いついた僕も、兄と同じように空を見上げる。
 夏の間は沈まぬ太陽に照らされていた空も、気付けばもう夜の闇を取り戻していた。これからどんどんと闇が深くなり、やがて太陽はしばらくこの島を留守にする。
 まるで、そんな太陽の様にふと僕を置いてどこかへ行ってしまうことのある兄を引き留めたくてモコモコの兄の上着の裾を掴む。行かないでよと、言えない代わりに。
 あの時、結局兄は僕の質問になんと答えたのだったかすっかりと忘れてしまったけれど、兄を追いかけられない僕の代わりに兄の元へと向かってくれたらいいなと、思った。

7/21/2025, 1:54:22 PM