優しさだけで、きっと。
決意を固めてからの私は、毎日のように寮長室に行っては玄関の前に立ち尽くす生活を送っていた。
いざ目の前にすると、氷のような鋭く冷たいドアから、
寮長の気配を感じ取って怖気付いていた。
なんと情けない、寮長に、嘘にこだわる理由、
正義感の振りかざし間違いを正そうとあれほど意気込んでいたのに、
今日も扉の前でノックもできずに佇んでいると、
1人の寮生が話しかけて来た、
「あんた、毎回寮長室の前で立ち尽くしてなにしてんの、入りたいなら入ればいいじゃない?」
例の魔女狩りされた子の仮友達であった、
美鳥瀬奈(みどりせな)だった。
「いや、その、えっと」
なんて言おうか戸惑っていると、美鳥はこう言った。
「あんたみたいなのがいるから、この寮陰気臭いのよ」
嘲笑いのターゲットを私に変えたように美鳥は声高らかに行った。
「私は、もう何人ものルームメイトと友達になったわ、あんたは一人もいないんじゃない?友達と呼べるような人が、可哀想ね」
「それは、、、」
たしかに正しかった。私には友達がこの寮にはいない、
話しかけてくれる子もいなかったから、
でも、それでも、私は、
ガタン
寮長室の扉が開いた。
すごい形相の寮長が私たちを見下ろして
「私の部屋の前で何グダグダ喋っている」
「寮長、これはですね、こいつが、寮長に歯向かおうと、寮長の座から引きずり下ろそうとしているんですよ」
「違う、私はそんなこと!!」
ビーーーーーー
グリップの音だ、
美鳥のはめた嘘発見器のグリップが赤く光っていた。
「美鳥、明日は君かな」
寮長のあの薄気味悪い笑顔がまた横を掠めた。
カラフル。
炎の中の彼女は失礼かもしれないが綺麗だった。
私の目にはそう写った。
灰となって散りゆく姿に見とれてしまっていた。
寮長は灰となった彼女を見つめて、うっすら笑った気がした。
「君たちもこうならないように」
寮長はそう言ってどこかへ行ってしまった。
カラフルだった目の前の景色が一気にモノクロになった。
寮長はこれを楽しんでいるのだろうか、
人を殺めることを、魔女狩りとして正すことを、
嘘を無くすことを、
正義感の強さ以上の憎しみを感じた。
嘘は人をダメにする、嘘は人を救う、
嘘は人を_______________
私はこの日から決めた。
寮長を正しい道へ送り出すことを。
楽園。
sidestory
ここが楽園だと気づいたのは、私が児童養護施設を出てまもない頃だった。
両親は酒やギャンブルに溺れ、私を玩具のように扱う。
日に日に増えていくアザと心の傷に耐えられなくなり、
雪の降る夜に家を飛び出したことがあった。
手足が悴んで歩けなくなった時に、シスターに会ったんだっけ。私の事を抱き抱えて、教会みたいなところに連れていかれた記憶はある。
児童養護施設と呼ばれるそこは、私にとって、監獄のようだった。幼い私は、身なりも悪く、教養も何も無いため、シスターたちの世話を焼いた。両親はどこかと聞かれたが、またあの家に戻されたくなくて、死んだと咄嗟に嘘をついた。私が最初についた嘘はこれ。
その後、何事もなく、成長し、児童養護施設から、ここの寮へと入居することになったのだが、いわゆるお嬢様学校のようなここは、私の自由が聞く素晴らしいものだった。寮生も暖かく、嘘をついてはいけないというたった一つのルールを守れば、あとは何をしても何も言われない。なんて素晴らしい場所なのだと思った。
私のルームメイトは小柄で小動物のような子だった。
私の事を気にかけてくれて、初めて友達が出来て、私は嬉しかった。と同時に、私はいつか自分の過去がバレてしまうのではないかと疑った。児童養護施設に入っていたこと、親にまともに育てられなかったこと、疎ましい自分を隠し続けることも出来なくなりそうだった。
ある日、その日は来た。
「そーいえば、あなたの家族ってどんな人??」
恐ろしい質問が飛んできた。顔が引き攣りそうなのを堪えて私は、私は、嘘をつくしか無かった_______________
「立派なお屋敷に住んでるの、最近は海外への出張で忙しいみたい」
嘘をつかざるおえなかった_______________
目の前に滾る炎を感じながら、目隠しを外されて、
初めて私は目の前の炎を綺麗なものだと認識した。
括り付けられる腕と、迫り来る炎を見ながら私は叫んだ
「覚えとけよ、私の勇姿!!!!!!」
最後くらい綺麗に死にたかった_______________
魔女狩りNo.12046
市城 鈴菜
友人へ嘘をついたことにより火炙りとする。
風に乗って。
そのまま消えてしまった
刹那。
寮長の目の前には、目隠しをされた1人の少女が立っていた。寮長の目はいつにも増して笑っていない。
「君は何をしたかわかっているか」
少女は怯えた様子だった。唇を震わせながら、呟く。
「嘘をつきました、嘘を、嘘をつきました」
「この寮でのルールは」
「嘘をつかないこと、です」
「そうだな、なぜ破った」
少女は黙った。寮長は黙ったままの少女を睨みつけ、
片手で首を掴みあげた。
「うぐっ」
少女の顔は白布で隠れているにも関わらず、真っ赤に染まっているようだった。
「たす、けて、く、ださい、」
「無理だ、ルールをやぶったからな」
寮生の前で晒しあげられる少女を誰もまともに見れなかった。
「離してあげてください、」
友達だろうか、涙目で訴える声が聞こえた。
「君も火炙りになるか?」
寮長の声は容赦ない。
その子は黙りこくってしまった。
「自分の命の方が大事だろ?こいつは、君を友達なんかと思っていない。」
「そんな、そんな、う、そ、だ、」
首を掴まれた少女は必死に叫ぶ
「君が彼女のためについた嘘は無駄だったんだ、彼女は周りの子と君について話していた、君のことなんて呼んでいると思う?」
寮長は間を長く置いて言った
「異端児」
耳元で囁かれた少女は、辛そうだった。
途端に少女の首を寮長は離す。
「おえっゲホゲホッゲホッ」
少女は苦しそうだったが、きっと白布の奥の目を見開いて言った
「私は、あんたが苦しんでるって言ったから、助けてあげようと思って、寮長に嘘を…」
涙目だった少女は何事も無かったように口を開く。
「あんたなんかどーでもいいの、私のおもちゃになってくれてありがとう!!私は正直者だから嘘なんてつかないわ!!最初からあんたのこと友達なんて1ミリも思ってないわよ!」
ケラケラ笑う彼女は醜かった。
一欠片の友情が刹那の如く散ってしまった。