『好きな色』
好きな色は何ですか。子供のような質問。大人になるにつれこんなことを聞かれることは無くなっていた。それと共に私の目の前にある世界は、色を失って行った。
気づいたら、私の世界はわたしだけが真っ黒になっていた。反対に色づいている人々が私を苦しめた。苦しみながら私は大人になるんだと思っていた。
ある時、色のない現実に疲れてしまった。綺麗な世界に嫌気がさした。私は不意に電車に乗った。窓から見る家々の灯りが思った以上に眩しかった。
私が住む場所よりもこの街はやはり眩しかった。でも、薄暗かった。少し汚い空気を吸うと私は少しだか色を取り戻したような気がした。今なら好きな色を答えられるかもしれない。無駄に明るい街を見て私はそう思っていた。
『あいまいな空』
今日の天気は晴れ、とも言いきれない天気。雨が降るわけでもなく、雲が消えていく訳でもない。この街は何も変わらない。でも空だけは毎日色を変えた。どんなに辛くても、どんなに楽しくても。空は色々な色を見せた。もうすぐ、私はこの景色を見れなくなってしまうのか。
私は今日もいつも通りビデオカメラを開いた。
「―月―日水曜日。今日は久しぶりにきょーじゅのところに行ってきました!」
画面の中で少女はそういった。色んな表情がここには映されていた。楽しそうな顔、泣いてぐじゅぐじゅになってる顔、怒ってる顔。空みたいな少女は多分、この先も私の中で生きていくのだ。最近、少しずつ歪んでいく視界に私はサヨナラを言わなければいけない。
[これともお別れだね。]
私はビデオカメラの画面を閉じ、袋の中に入れた。最後に更新された動画に映っていた少女と同じように私はぐしゃぐしゃになりながらビデオカメラにサヨナラを告げた。
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あのカメラを捨てたあと、私の世界は変わってしまった。もう、少女の顔も空の色も見ることが出来ない。
[ねぇ、今日はどんな空?]
「今日はね。晴れてるよ、暖かくなりそー」
真っ暗な世界のなか、私を助けてくれた人がそう言った。今日は晴れだと言うが、何故か暖かい太陽の匂いがしなかった。
『世界の終わりに君と』
もう、何も出来ないのだろうか。急に脳裏にこんな考えが過った。「この世界から消えたい」そう思っていたはずなのに。私は最後のひとときをこのくだと共にするのか。そう考えるとなんか嫌になった。私は、いつもをいつもどうり過ごすことにした。一日はたちまちすぎ、太陽が月とバトンタッチをした頃、私はあの子の元へ行くことにした。カーテンを開けるといつも通りあの子は空を見ている。
「今日も時間どーりだね」
そう言うとあの子は微笑むように笑った。まるで全てを知っているかのようだ。
「どーした急に」
その顔を見た瞬間。何も言えなかった。心配そうにする顔から見るに、どうやら私は涙を流しているようだ。
『いや、なんでもない』
ひとつの曇もない涙に私のぐじゃぐじゃな顔が写った。
『なんでもないから。ほんとに、』私は百点満点の笑顔を見せた。そしてあの子を抱きしめた。私がわたしであるうちに。
朝、起きると私は家のベッドにいた。昨日は…何やったっけ?体にはたくさんの管と口に着いたなんか透明なマスク。ベッドの上では泣きながら女の人がないている。ずっと寝てるみたいだけど、私この人の事、知らない。
『正直』
この世に正直にものを言い合える人なんていない。そう思い始めたのは私が小学校3年生の頃だった。友達に愚痴を言ったら、数日経ったある日その友達に呼び止められた。
『私のことどう行ってもいいけど、友達のことは悪く言わないで。』
一瞬思考回路が止まった。体の中の体温が全部ランドセルに吸い込まれていくような感覚に陥った。気づいたら私は息を切らしながら走っていた。その数年後学校という社会から固執した人間になった。
「今日掃除じゃん。」
1人の男子がそれに気づいた瞬間、箱と中は一気に倦怠感で溢れた。たんたんと掃除の準備を始める人々の中、私は少し恐怖を覚えながら準備を始めた。今日も私の机はちゃんと運ばれるだろうか。
こんな馬鹿なことを考えてしまうのはこの箱の中で私だけだろう。
『無垢』
「次の秋祭りは絶対いく!」
そう豪語した彼は今にも飛び出しそうなくらいの勢いでLINEをしてきた。『わかったから笑』と送った彼女は今年はもう出番がない浴衣をしまい始めた。白無垢の綺麗な浴衣だ。彼女は今、自分の家にはいない。規則的に並んだベットが少し不気味だ。浴衣をしまうと言っても、小さいクローゼットだからシワにならないだろうか。そんなくだらないことを考えていた。手にはたくさんの管が彼女を現世に押しとどめるようについていた。
浴衣の出番が来ることを信じて彼女は眠りについた。
彼女がすべてを手放したのは彼の無垢な願いが叶う前だった。