ひらひらと舞う赤いもみじに、幼い頃の息子の面影を見た。真っ赤なほっぺを黄色いマフラーで覆い、ふくふくとした、もみじのような手でありったけのどんぐりを集めていたあの子。都会に働きに出たあの子は、元気にしているだろうか。
『こっちはすっかり葉っぱが色づくようになりました。もし時間ができたら、ご飯食べに帰ってきてくださいね』
なれない手つきでスマートフォンを操作し、鞄にしまい直す。返事は来るだろうか。
近くのベンチに腰を下ろす。あの子が小さかった時に比べれば、多くの建物が入れ替わっていて、中には潰れて寂れてしまっている場所もある。それでも、この並木道が美しいことに変わりはない。ぼうっと眺めていると、カバンがブルブル震えた。
『週末帰る』
素っ気ない文言。こんな所まで主人に似なくてもいいのに、とくすくす笑う。
どうせ不健康な生活をしているのだろう。たんと栄養のあるものを食べさせなくては。
何を振舞おうかと考えながら、足は自然とスーパーを目指していた。
お題:秋
普段より少し張り切ってオシャレをして、鏡に映る自分を眺める。髪型よし、メイクよし、服装よし。鏡の前でくるりと回れば、長いスカートがふわりと膨らんだ。
ワイシャツはブラウスに。プリーツスカートはフレアスカートに。ローファーはパンプスに。スクールバッグはハンドバッグに。服装はすっかり変わってしまったけれど、あの子に会う度心が踊るのは変わらない。
連絡なんてほとんど取らないし、1年に2回しか会わないけれど、いつも離れていた時間を感じさせないくらい話が弾む。名残惜しいほどあっという間に時間が過ぎる。彼女と過ごす時間はいつだって私に力をくれる。
バッグの中に白いラッピング袋が入っていることを確認して、私は気分よく家を出た。彼女にいっとう似合いそうな、オレンジのリップ。先週誕生日を迎えたばかりの彼女は、これを見てどんな反応をするのだろうか。
お題:友情
ようやく寒さが緩み始めた頃、梅の花が1輪、ぽつんと花開いているのを見つけた。きっと昔の私だったら、気にかけることもなく、足速に通り過ぎていただろう。まだ開ききっていない、小さな花弁。一体私はいつから、花を眺めるということを覚えたのか。
春を待たずに旅立ってしまった妻は、この花を見て何を思っただろう。小さな花さえ見つけては私の腕を引き、花に疎い私にひとつひとつ教えてくれた。ああ、見て、綺麗に咲いているわ。昔より増えた目尻のシワをいっそう深めて無邪気に咲っていた妻の顔は、昔と変わらず喜びに満ちていた。
なあ、空の上にはどんな花が咲いているんだ。無機質な石の前に、妻がいっとう好きだった花を供える。どうか彼女の好きな物で溢れていますようにと願いながら。
お題:花咲いて