立花涼夏

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 ふさふさのしっぽがぱたぱたと揺れる。子犬の時に比べてその勢いは衰えたけれど、玄関先で座って待ってくれているのはいつになっても変わらない。
「ちゃちゃー、お迎えありがとねー! いいこにしてた?」
「わふ!」
 わっしゃわしゃと毛並みをかき回してやれば、ハッハッと舌を垂らしてその手を受け入れてくれる。硬っ苦しいスーツのジャケットをイスにかけて手を洗っている間、ちゃちゃは私の足元を落ち着きなくうろうろと歩き回っている。昔は足に飛びついて大変だったけれど、それがなくなってしまった今となってはなんだか寂しいような気がする。
「ご飯にしよっか!」
「わふ!」
 買ってきた惣菜をレンジに押し込み、ちゃちゃの皿を取り出す。そこに乗せるのはドッグフード────ではなく、さっき買ってきた犬用のケーキだ。
「十二歳のお誕生日おめでとう、ちゃちゃ! たんと召し上がれー!」
 私が言い終わるより早く、ちゃちゃは既にケーキに飛びついていた。まったく、いつまで経っても食い意地の張ったやつだ。愛いやつめ。
「気に入ったー? んふふ、そうかそうか! 来年も買ってきてあげるからねぇ」
 相変わらずふさふさの、けれど昔よりくすんだ背中をゆっくりと撫でる。
「だから長生きしてね、ちゃちゃ」
 私が言っていることが分かっているのかいないのか。口の周りをベタベタにしたまま、キョトンと私を見上げている。
 やがてレンジが仕事の終わりを知らせても、私はちゃちゃを撫でたまま、しばらくそこから動かなかった。

お題:どこにも行かないで

6/23/2025, 3:19:13 AM