立花涼夏

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 ほかほかと湯気の立つコーヒーに、ミルクを一つと角砂糖を二つ。スプーンでくるくるかき混ぜて、一口含む。深みのある香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。相変わらず、ここのコーヒーは飲みやすくていい。
「お待たせしました、ラズベリーのワッフルです」
 落ち着いたクラシックにマスターの声が混じる。机に置かれたワッフルの上には生クリームとベリーのソースがかけられており、その脇にはルビーのように輝くラズベリーがいくつも添えられていた。
「ありがとうございます」
 外はサクサク、中はもちもちのワッフルは、甘みと酸味のバランスが絶妙で何度食べても飽きがこない。先週食べたばかりなのに、誘惑に勝てずにまた来てしまった。
「実はこれ、今日で最後なんですよ」
「えぇ、そうなんですか? とても美味しかったから、残念です」
「そう言ってもらえて嬉しい限りですよ。明日からはレモンのケーキを出すので、よかったらまた食べに来てくださいね」
「もちろんですよ」
 店主は目尻のシワを深めて笑うと、そのまま奥に引っ込んでしまった。レモンのケーキ、魅力的だ。しかし、これが来年まで食べられなくなるのは惜しい。
 生地にナイフを入れ、出来たてのそれを口に入れる。
「あ〜、幸せ」
 せめてもう一回くらい食べたかったなぁ。そんなことを思いながら、サクサクもっちもちのワッフルに舌鼓を打った。

お題:これで最後

5/28/2025, 10:13:29 AM