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12/21/2024, 3:38:07 PM

 シャンシャンシャーン♪
 シャンシャンシャーン♪

 クリスマスイブの夜。
 ベルの音が、街中に鳴り響く
 今日は、子供たちが一年の中でもっとも待ち望んでいる一日。
 どんなに手がかかる子供も、今日だけは良い子になって眠りにつく。

 しかし深夜になっても布団に入らず、机に向かって勉強している少年がいた。
 彼の名前はツトム。
 中学受験を来年に控えた小学六年生である。

「チッ……」
 しかしツトムは家の外から聞こえるベルの音に、憎々し気に舌打ちをする。
 なぜならば彼にとってサンタクロースのプレゼントは害でしかないからだ
 ツトムは自分の意思が弱いことを自覚している。
 だからゲームなんてもらった日には勉強そっちのけで遊ぶと思っていた。

 しかもツトムには、自分のとこにサンタがやって来る確信があった。
 なぜなら自分は客観的に見て『いい子』だと思っていたからだ

 ツトムは勉強もさることながらボランティアにも精を出していた。
 ボランティアに参加することで、内申点を良くしようという魂胆である。
 それ以外にゴミ拾いや困った人を助けるなど、色々な活動を行い周囲を行った。
 そのおかげで評価は上々、あとはテストでいい点を取るだけであった。

 下心があるとはいえ、どこに出しても恥ずかしくない『いい子』のツトム。
 サンタが来るのは必然であった

 そのためツトムは、対策を練ることにした。
 しかしサンタに来てほしくない子供が少ないためか、調べてもサンタを遠ざける方法は分からなかった。
 だからいつ来てもいいよう、机の横に金属バットをたてかけていた。
 これでサンタを追い払うのだ。

 と、部屋のドアの向こうに、誰かが来た気配がした。
 ツトムは、『サンタかもしれない』と思い、バットに手を伸ばす。

「ツトム、入っていいか?」
 声をかけてきたのはツトムの父だった。
 ツトムは安心して、答える

「入ってきていいよ」
 そう言うと、ツトムの父は湯気のたったカップを持って入って来る。

「ココアを入れた。
 これを飲んで休みなさい」
 ツトムはココアを受け取ると、おいしそうに飲み始めた。

「ツトム、そろそろ寝たらどうだ?
 いつもはもう寝ている時間だろ。
 寝不足は勉強の大敵、合格するためにも今は寝なさい」
「分かってる。
 寝ている間にサンタが着たら大変なんだ
 起きてないと……」
「前から言ってたサンタを追い払うって話か……
 お父さんが子供の頃は、毎日来て欲しいくらいだったのに」
「今は令和だからね」
「令和は関係ないな」
 ツトムの父は少し笑うと、すぐに何かを考えるように腕を組む

「しかし、やはり遅くまで起きているのは感心しないな」
「でもサンタが!」
「そこでだ。
 お前の代わりにお父さんが見張っておく。
 ツトムは寝なさい」
「それだとお父さんが寝れないじゃんか!
 お仕事で疲れてるでしょ?」
「お父さんは大人だから、少し寝なくても問題ないんだ」

 父の提案を聞いて、思い悩むツトム。
 しばし考えた後、顔を上げて父親を見る。

「分かった。
 ボクは寝るから、見張りはお願いします」
「よし来た。
 じゃあ、ツトムは歯磨きしてきなさい」

 ツトムは頷くと、そのまま部屋を出て行った。
 父親は、これで安心だとばかりに息を吐く。
「まったく、サンタを困らせるなんて悪い子だなあ……」

 そして歯磨きから戻って来たツトムは布団に入る。
 その間、ツトムの父はサンタが入ってこないよう監視をするのであった。

 しかし父の頑張りも虚しく、サンタのプレゼントは届けられる。
 自分の父親の不甲斐なさに憤怒するツトム。
 しかしプレゼントの中身が文房具セットだと知ると、ツトムは飛び跳ねるように喜び、ウキウキしながら勉強を始めるのであった

12/20/2024, 3:33:30 PM

「はあー、寂しい……
 彼氏欲しい」
 友達の沙都子の部屋でゲームをしていると、心の声が漏れてしまう。
 いつもはアクションゲームをしていたのだけど、飽きたからと趣向を変えて乙女ゲーをしたのが悪かったかもしれない。
 寒い冬なのもあって、妙に人肌が恋しい

「相変わらず急ね、百合子……」
 私の独り言に、呆れたように返す沙都子
 普段は私の独り言を無視する癖に、今日は律義に反応する。
 ひょっとして、沙都子も寂しいのかな?

「急じゃないよ。
 クリスマスまで一週間。
 世間様のカップルはクリスマスを待ち遠しく思っているって言うのに、私には恋人どころか仲のいい異性すらいない!
 女子高生としてあるまじき事態!
 あゝ、独り身は寂しい」

 私は熱弁する
 けれど、私の熱量とは対照的に、沙都子は意外そうに私を見ていた。
 え、私変なこと言った?

「何か言いたい事でも?」
「誤魔化すような物じゃないからハッキリ言うわね。
 正直百合子が彼氏欲しいって言うとは思わなかったわ。
 てっきりゲーム以外には興味ないかと……」
「そんなことないよ!
 コイバナ大好きだよ!」
「ゲームと彼氏、選ぶとしたら?」
「ゲーム」

 私の返答に、再び呆れたような顔をする沙都子。
 私、なにかやっちゃいました?

「いつも通りのあなたで安心したわ。
 あ、邪魔して悪かったわね。
 ゲーム、再開してもいいわよ」
「なんだか含みがある言い方だなあ……」
 なんとなく、
 さてどうしたものか……

「そういう沙都子はどうなのさ?
 そっちも浮いた話無いでしょ?」
「失礼ね。
 毎日告白されて大変なのよ」
「へえー、そうなんだ。
 まあ、男子共は沙都子の黒いところ知らないからなあ……」
「ゲームみたいにぶっ飛ばされたいの?」
「……じ、冗談じゃんか。
 本気にしないでよ」

 私は殺気に身がすくむ。
 沙都子は気が短すぎる。
 この事を男子が知れば、きっと付き合おうだなんて思うまい。

「それはともかく!
 私はクリスマスまでに彼氏を作る!
 そしてクリスマスデート!
 その時に悔しがっても知らないんだから!」
「別に、彼氏作るなまでは言ってないわよ……

 あ!
 これは確認なんだけど、百合子のクリスマスの予定は埋まってるという認識でいいのよね?」
「そう言ってる」
「そう、残念ね。
 我が家主催のクリスマスパーティ、百合子は不参加と伝えておくわ……
 百合子のリクエスト通り、凄いケーキを用意する予定だったのに……
 本当に残念だわ」
「すいません、調子に乗りました。
 クリスマスは暇です」
「あなた、本当にブレないわねえ……」

 今日何度目か分からない、沙都子の呆れた顔。
 でも気にしない。
 腹の膨れない彼氏よりも、美味しいケーキ!
 どんぬ寂しい思いをしようとも、ゲームとケーキさえあれば何もいらない!
 私はクリスマスに予定を入れないことを、心に固く誓うのであった。


「で、『彼氏を作って一緒にパーティに参加』とは思いつかないわけね」
「あ」

 ちゃんちゃん。

12/19/2024, 1:41:53 PM

 猫は自分が快適に過ごすことが出来る場所を探すのが得意である。
 夏は涼しい場所へ、冬は暖かい場所へ。
 常に探求を怠らない。
 自分が快適に過ごすためだが、それ以上に重要な理由がある。

 猫は体温調節が苦手なのだ。
 特に寒さには敏感で、暖かい場所を探すことは死活問題でもある。
 自分の体温を最適に保つために、今日も最高の場所を探す。

 しかし快適な場所というのは、季節や時間、日の当たり具合や風向など、様々な要因で変化する……
 先ほどまでは快適だった場所も、すぐに凍えてしまうことがある。

 そういった意味で、家に飼われている猫は幸運である。
 人間が快適に過ごすための道具は、全てでないにしても猫にとっては有用だ。
 コタツは童謡でも歌われているように丸くなるし、エアコンは言わずもがな。

 だが一点、家で飼われている場合特有の問題がある。
 その問題を説明するために、実際のケースを説明するとしよう
 これは、とある家で飼われているタマの話である。

 ◇

 タマは窓辺で日向ぼっこをしていた。
 冬にもかかわらず、部屋の中は春のように暖かい。
 至福の中でうたた寝している時、彼の主人が帰って来る。

「タマァァァ、タダイマァァァ!」
 ……奇声を上げながら。

 猫は大きな声が苦手だ。
 彼は条件反射的に飛び起きて逃げ出そうとする。
 しかし寝起きのために反応が遅れ、すぐに捕まり抱きかかえられる。
 
「カワイイィ、アタタカイィ」
 彼の主人は長い間外にいたのか、手は冷たくタマの体から熱を奪っていく。
 タマは不快になり、もがいて脱出しようとするも、彼の主人は手放さない。

「暴れちゃだめだよう」
 そう言いながら、彼の主人は座る。
 タマをがっちり捉えながら……

 ◇

 こうして時折、人間に至福の時間を邪魔されるのが、家で飼われる猫の問題である。
 猫によっては非常にストレスフルな出来事だが、悪い事ばかりでもない。

 人間は気の済むまで猫を抱いた後、膝に乗せるのだ。
 この膝の上というのが、意外と穴場である。

 暖かく、寝心地がいい。
 信頼している存在の匂いに包まれるのもポイントが高い
 なにより一番いいのは、一度奇声を上げた人間はしばらくは奇声を上げないということ。

 この場所にあって、初めて心の底から安心して寝ることが出来るのだ。

 『冬は一緒に人間といること』
 それが、猫にとって快適に過ごす秘訣である。

12/18/2024, 2:44:55 PM

 今日の短編はお休みです

 理由は、仕事で久しぶりに

    大☆残☆業

 したからです(^_-)-☆(ヤケクソ)






 残業なんて嫌いだ

12/17/2024, 1:41:16 PM

「やあ、タケシくん、ご機嫌いかがかな?」
「誰だ!?」

 タケシが8歳の誕生日にもらったおもちゃで遊んでいると、部屋に知らない男が入ってきた。
 タケシは驚き、不審な男から距離を取る。

「勝手に入ってくるな!
 ボクの部屋だぞ」
「そんな事を言わないでください。
 呼ばれたから来たというのに……」
「お前なんか呼んでない!」

 タケシは男を睨みつける。
 しかし男は意に介さず、微笑むばかり。
 そのことが、タケシを苛立せる

「お前は一体誰なんだ!
 お母さんの友達じゃないだろ!」 
「おっと失礼、自己紹介がまだでしたね。
 お初にお目にかかります。
 わたくし、『風邪』でございます」
「風邪だって!?」

 タケシは驚いた。
 風邪の事は、絵本で読んで知っていた。
 風邪とは、人間を苦しめる悪い奴だ。

 けど目の前の男は、絵本に書かれたものとは大きく違う。
 『男は自分が何も知らないと思って、からかっているのだ』
 タケシはそう思い、鼻で笑う。

「おかしな事を言うやつだ。
 だいたい風邪なんかが、なぜ僕の所に来るんだ」
「心当たりが無いと?」
「全然無い」
「では、お教えしましょう。
 あなた、最近手を洗ってませんよね?
 ああ、うがいも……」

 タケシは心臓がドキドキした
 男が言っている事は本当だったからだ。
 なぜ男はそんな事を知っているのか?
 タケシが聞く前に、男は答えた。

「なぜ知っているのかという顔ですね。
 それはもちろん、わたくしが風邪だからです」
 男はニヤリと笑う。

「普通の方は、手洗いうがいをして、わたくしを追い返します。
 わたくしは嫌われていますからね。
 ですがあなたは違った。
 玄関まで来た私を、快く受け入れて下さいました」
「違う、受け入れてない!」
「ですが手洗いはしなかったでしょう?」
「う、ぐ。
 いいから帰れ!」
「そうも行きません
 私は風邪です。
 こうして中に入った以上、当分居座らせてもらいますよ」
 男はそう言うと、床に座る。

「ママー」
「呼んでも来ませんよ」
「来る!
 絶対来る!」
「来ませんよ。
 タケシ君は、何度お母さんに言われても手を洗わなかったでしょう?
 そんな君に、お母さんは愛想を尽かしてどこかに行ってしまいました」
「そんな……」

 始めは男の言うことを無視していたタケシ
 しかし、全く来る気配のない母親に、男の言うことが正しいと思い始めた。

「そこまで落ち込むことはありませんよ。
 キミのお母さんがいなくても、わたくしがいます。
 だから仲良く――」

「そこまでよ!」
 女性が、乱暴にドアを開けて入って来る。
 その女性は、タケシの母親――キョウコだ。
 それを見て、タケシは叫んだ。

「ママ!」
 タケシは、泣きながらキョウコの元へと走り寄る。!
「待たせたわね、タケシ。
 寂しい思いをさせてごめんね」
 キョウコは、タケシを優しく抱きしめる。
 その尊い光景を、男は悔しそうに見た。

「馬鹿な!
 お前は仕事で、家にいないはず!
 なぜここにいる?」
「ふん、そんな事も分からないの?」
「何!?」
「そんなの、休んだからに決まっているでしょう!」
「くっ」

 キョウコの迫力に、男が一歩後ずさる。
 明らかに男は、キョウコに怯えていた。

「さあ風邪よ。
 年貢の納め時よ」
「ふん、簡単に殺されてたまるか!」
 男は決死の覚悟で、キョウコに襲い掛かる。
 だがキョウコは、怯えることなくあるものを辺りに振りまいた。

「げえ、苦い!
 まさか、これは!」
「そう、にがーい風邪薬よ。
 風邪よ、滅びよ!」
「ぎゃああああああ」

 ◇

「こうして、わるーい風邪は、苦しみながら消えていきました。
 めでたしめでたし」
「面白かった」

 パチパチパチ。
 響子が話し終えると、武史が拍手をする。
 武史は、熱が出て赤い顔でオデコには冷えピタが貼ってある。
 さらには体を冷やさないため何枚も厚着をしていた。
 ゴミ箱は鼻水を噛んだティッシュでいっぱいであり、典型的な風邪の症状だった。

 そのため、響子は武史に薬を飲ませたいのだが、頑なに飲まない。
 だから知恵を振り絞り、響子は自作の物語をきたせたのだった。
 そして反応は上々。
 これはチャンスだと感じた響子は、ここぞとばかりに畳みかける。

「だからタケシ、その悪い風邪を治すためにも、少しだけ苦いお薬飲もうね」
 出来る限り優しく微笑む響子。
 それを見たタケシは、満面の笑みで答える

「飲まない」

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