G14(3日に一度更新)

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12/19/2024, 1:41:53 PM

 猫は自分が快適に過ごすことが出来る場所を探すのが得意である。
 夏は涼しい場所へ、冬は暖かい場所へ。
 常に探求を怠らない。
 自分が快適に過ごすためだが、それ以上に重要な理由がある。

 猫は体温調節が苦手なのだ。
 特に寒さには敏感で、暖かい場所を探すことは死活問題でもある。
 自分の体温を最適に保つために、今日も最高の場所を探す。

 しかし快適な場所というのは、季節や時間、日の当たり具合や風向など、様々な要因で変化する……
 先ほどまでは快適だった場所も、すぐに凍えてしまうことがある。

 そういった意味で、家に飼われている猫は幸運である。
 人間が快適に過ごすための道具は、全てでないにしても猫にとっては有用だ。
 コタツは童謡でも歌われているように丸くなるし、エアコンは言わずもがな。

 だが一点、家で飼われている場合特有の問題がある。
 その問題を説明するために、実際のケースを説明するとしよう
 これは、とある家で飼われているタマの話である。

 ◇

 タマは窓辺で日向ぼっこをしていた。
 冬にもかかわらず、部屋の中は春のように暖かい。
 至福の中でうたた寝している時、彼の主人が帰って来る。

「タマァァァ、タダイマァァァ!」
 ……奇声を上げながら。

 猫は大きな声が苦手だ。
 彼は条件反射的に飛び起きて逃げ出そうとする。
 しかし寝起きのために反応が遅れ、すぐに捕まり抱きかかえられる。
 
「カワイイィ、アタタカイィ」
 彼の主人は長い間外にいたのか、手は冷たくタマの体から熱を奪っていく。
 タマは不快になり、もがいて脱出しようとするも、彼の主人は手放さない。

「暴れちゃだめだよう」
 そう言いながら、彼の主人は座る。
 タマをがっちり捉えながら……

 ◇

 こうして時折、人間に至福の時間を邪魔されるのが、家で飼われる猫の問題である。
 猫によっては非常にストレスフルな出来事だが、悪い事ばかりでもない。

 人間は気の済むまで猫を抱いた後、膝に乗せるのだ。
 この膝の上というのが、意外と穴場である。

 暖かく、寝心地がいい。
 信頼している存在の匂いに包まれるのもポイントが高い
 なにより一番いいのは、一度奇声を上げた人間はしばらくは奇声を上げないということ。

 この場所にあって、初めて心の底から安心して寝ることが出来るのだ。

 『冬は一緒に人間といること』
 それが、猫にとって快適に過ごす秘訣である。

12/18/2024, 2:44:55 PM

 今日の短編はお休みです

 理由は、仕事で久しぶりに

    大☆残☆業

 したからです(^_-)-☆(ヤケクソ)






 残業なんて嫌いだ

12/17/2024, 1:41:16 PM

「やあ、タケシくん、ご機嫌いかがかな?」
「誰だ!?」

 タケシが8歳の誕生日にもらったおもちゃで遊んでいると、部屋に知らない男が入ってきた。
 タケシは驚き、不審な男から距離を取る。

「勝手に入ってくるな!
 ボクの部屋だぞ」
「そんな事を言わないでください。
 呼ばれたから来たというのに……」
「お前なんか呼んでない!」

 タケシは男を睨みつける。
 しかし男は意に介さず、微笑むばかり。
 そのことが、タケシを苛立せる

「お前は一体誰なんだ!
 お母さんの友達じゃないだろ!」 
「おっと失礼、自己紹介がまだでしたね。
 お初にお目にかかります。
 わたくし、『風邪』でございます」
「風邪だって!?」

 タケシは驚いた。
 風邪の事は、絵本で読んで知っていた。
 風邪とは、人間を苦しめる悪い奴だ。

 けど目の前の男は、絵本に書かれたものとは大きく違う。
 『男は自分が何も知らないと思って、からかっているのだ』
 タケシはそう思い、鼻で笑う。

「おかしな事を言うやつだ。
 だいたい風邪なんかが、なぜ僕の所に来るんだ」
「心当たりが無いと?」
「全然無い」
「では、お教えしましょう。
 あなた、最近手を洗ってませんよね?
 ああ、うがいも……」

 タケシは心臓がドキドキした
 男が言っている事は本当だったからだ。
 なぜ男はそんな事を知っているのか?
 タケシが聞く前に、男は答えた。

「なぜ知っているのかという顔ですね。
 それはもちろん、わたくしが風邪だからです」
 男はニヤリと笑う。

「普通の方は、手洗いうがいをして、わたくしを追い返します。
 わたくしは嫌われていますからね。
 ですがあなたは違った。
 玄関まで来た私を、快く受け入れて下さいました」
「違う、受け入れてない!」
「ですが手洗いはしなかったでしょう?」
「う、ぐ。
 いいから帰れ!」
「そうも行きません
 私は風邪です。
 こうして中に入った以上、当分居座らせてもらいますよ」
 男はそう言うと、床に座る。

「ママー」
「呼んでも来ませんよ」
「来る!
 絶対来る!」
「来ませんよ。
 タケシ君は、何度お母さんに言われても手を洗わなかったでしょう?
 そんな君に、お母さんは愛想を尽かしてどこかに行ってしまいました」
「そんな……」

 始めは男の言うことを無視していたタケシ
 しかし、全く来る気配のない母親に、男の言うことが正しいと思い始めた。

「そこまで落ち込むことはありませんよ。
 キミのお母さんがいなくても、わたくしがいます。
 だから仲良く――」

「そこまでよ!」
 女性が、乱暴にドアを開けて入って来る。
 その女性は、タケシの母親――キョウコだ。
 それを見て、タケシは叫んだ。

「ママ!」
 タケシは、泣きながらキョウコの元へと走り寄る。!
「待たせたわね、タケシ。
 寂しい思いをさせてごめんね」
 キョウコは、タケシを優しく抱きしめる。
 その尊い光景を、男は悔しそうに見た。

「馬鹿な!
 お前は仕事で、家にいないはず!
 なぜここにいる?」
「ふん、そんな事も分からないの?」
「何!?」
「そんなの、休んだからに決まっているでしょう!」
「くっ」

 キョウコの迫力に、男が一歩後ずさる。
 明らかに男は、キョウコに怯えていた。

「さあ風邪よ。
 年貢の納め時よ」
「ふん、簡単に殺されてたまるか!」
 男は決死の覚悟で、キョウコに襲い掛かる。
 だがキョウコは、怯えることなくあるものを辺りに振りまいた。

「げえ、苦い!
 まさか、これは!」
「そう、にがーい風邪薬よ。
 風邪よ、滅びよ!」
「ぎゃああああああ」

 ◇

「こうして、わるーい風邪は、苦しみながら消えていきました。
 めでたしめでたし」
「面白かった」

 パチパチパチ。
 響子が話し終えると、武史が拍手をする。
 武史は、熱が出て赤い顔でオデコには冷えピタが貼ってある。
 さらには体を冷やさないため何枚も厚着をしていた。
 ゴミ箱は鼻水を噛んだティッシュでいっぱいであり、典型的な風邪の症状だった。

 そのため、響子は武史に薬を飲ませたいのだが、頑なに飲まない。
 だから知恵を振り絞り、響子は自作の物語をきたせたのだった。
 そして反応は上々。
 これはチャンスだと感じた響子は、ここぞとばかりに畳みかける。

「だからタケシ、その悪い風邪を治すためにも、少しだけ苦いお薬飲もうね」
 出来る限り優しく微笑む響子。
 それを見たタケシは、満面の笑みで答える

「飲まない」

12/16/2024, 1:44:32 PM

 昔々、とある山奥に『ユキマチ村』と呼ばれている村があった。
 この村は比較的寒い地域の山奥にあるたが、冬になっても雪が少し降るだけで、過ごしやすい場所であった。
 しかし周辺の土地は非常に痩せており、農業には不向きであまり収穫物は取れない。
 年貢で農作物の取られた後は、次の年の農作業に使う分しか残らないという有様であった。

 にもかかわらず、この村の人々は飢えるどころか、とても裕福な暮らしをしていた。
 それは、この村の特産品のおかげである。

 ユキマチ村の名産――それは『庭を駆けまわる犬』と『コタツで丸くなる猫』。
 雪が降ると、変わった行動をとる動物たち。
 それを『まるで雪国にいるような気分が味える』と触れ込み、他の地域に売っていたのだ。
 売れ行きは順調で、とくに熱い南の地域には飛ぶように売れたのである。

 農業が出来なくなる冬に収穫出来る事、雪が降らないので冬でも活動しやすい事から、ユキマチ村の有力な収入源であった。
 そのため、儲けの少ない農作物より名産品に力を入れ、さらに天皇にも献上されたこともある。
 そのため村人たちは、一年中雪を待っており、他の村からは専ら『ユキマチ』と呼ばれていた。
 この村で農業とは、あくまでも冬までの暇つぶしなのだ

 雪が降り、犬が喜び庭駆けまわり、それを人間が算盤をはじきながら眺め、そして我関せずと猫がコタツで丸くなる。
 それがこの村の真の姿であった。

 しかし、ある年に非常事態が起こる。
 その年は暖冬で、雪が全く降らなかったのだ。
 暦上は真冬なのに、雪が積もるどころか、ちらつく気配すらない……

 何も知らない子供たちは寒くない冬を喜んでいたが、大人たちは頭を抱えた。
 雪が降らないと、名産品の生産が出来ないので、文字通り死活問題なのだ。
 そこで村人たちは集会所に集まり、連日激しい議論が繰り広げられていた。

 様々なお呪いを行い、奇妙な風説すら信じて雪乞いなるものも行った。
 それでも雪は降らず、いよいよ他の地域から雪をかき集めなければいけないかと議論されていた時だった。

 祈りは届き、ついに雪が降り積もった
 これには村人たちは大喜び。

 大人は、これで食いつなげると……
 子供たちは、なんだかんだで雪遊びをしたかったから……
 各々の理由から、大人と子供が一緒になって喜び庭駆けまわる

 その様子を猫は『今日はご馳走かな?』と眺め、犬は『寒いのは嫌』とコタツで丸くなる。

 例年とは違う、ユキマチ村の冬の光景であった。

12/15/2024, 1:40:07 PM

 天空の城、ラピュタ。
 空高く浮かび、誰も訪れたことがない秘境
 かつては高い文明があったラピュタ。
 しかしある時人間は滅び、動物の楽園となった。

 ――というのは昔の話。

 今やラピュタは、たくさんの人が訪れる観光名所になっていた。
 人類の科学の発展が、ラピュタの行き来を可能にしたのだ。
 イルミネーションに彩られたラピュタは既に秘境ではない。
 ここは世界第台規模の一大レジャーランドなのだ。

 フィクションでも露出の多いラピュタを一目見ようと、今日もたくさんの観光客が訪れる。
 あるいはバズリ狙いのユーチューバー、あるいは観光客相手の商売人。
 様々な事情を持つ人々がやって来ていた
 その中に、とある男性がいた。

 彼はムスカ。
 映画『天空の城ラピュタ』に出てくる悪役、ムスカ大佐の生まれ変わり。
 ラピュタの正当な王である。

 ――と思い込んでいるただの一般人である。

 本名もマイケル、これといった特徴のない青年だ。
 彼は『天空の城ラピュタ』が大好きで、子供のころから繰り返し見ていた。
 そしていつからか、自分の前世がムスカだと思い込んだのだ。

 そんな感じでヤバいアニオタであるマイケルが、ここへ何しにここへやって来たのか?
 決まっている。
 ラピュタの王となるためだ。

 彼は、飛行船から降りると目的の場所へと歩き出す。
 ラピュタは広大で、初めての人間は必ず迷う。
 同じような道が多く、慣れてない者は必ず迷子になるのだ。
 しかし、マイケルは何度も来た道であるかのように、迷いなく足を進める

 それもそのはず、マイケルはラピュタに関する多くの資料も読み込んでいるのだ。
 さらに脳内で何度もシミュレーションを行い、もはや目を瞑ってもたどり着ける領域である。
 彼に迷子の二文字は無い。

 彼はしっかりとした足取りで、目的の場所に向かう。
 目指すは『王の間』。
 彼にふさわしい場所である

 そして歩くこと十分。
 ようやく『王の間』にたどり着く。
 もう少しで王になれる。
 彼は、夢が現実になることに彼は高揚する。

 だがそんな彼を阻むものがいた
 警備員だ。

「すいません、ここは関係者以外立ち入り禁止なんですよ」
 警備員たちは言葉こそ優しいが、マイケルを警戒していた。
 しかしマイケルは歩みを止めない。
 警備員は、不審者としてマイケルを取り押さえようとしたその時だ。

 マイケルがポケットから何かを取り出す。
 飛行石だ。
 飛行石こそ、まごうことなき王の証。
 それを見たて警備員たちは、先ほどの警戒をやめ、マイケルをエスコートし始めた。

「失礼しました。
 王の間まで案内させていただきます」
 警備員たちは恭しく扉を開け、マイケルを案内する。

 それと同時に、ラピュタ全土にアナウンスが流れる。
「ラピュタを訪れている皆様にお知らせがあります。
 先ほど、ラピュタの王が帰還されました。
 お時間がある方は是非、広場までお越しください」

 観光客たちは驚きつつも、好奇心から広場に集まる。
 玉座に座っているマイケルが、モニターに映し出される。
 そしてマイケルの側に立つ執事は、恭しく礼をして告げた

「ではラピュタ観光地化10周年を記念した、ラピュタ貸し切りイベント。
 厳正なる抽選の結果、幸運にも王の座に当選したのは、ここにいるマイケル様です」

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