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 天空の城、ラピュタ。
 空高く浮かび、誰も訪れたことがない秘境
 かつては高い文明があったラピュタ。
 しかしある時人間は滅び、動物の楽園となった。

 ――というのは昔の話。

 今やラピュタは、たくさんの人が訪れる観光名所になっていた。
 人類の科学の発展が、ラピュタの行き来を可能にしたのだ。
 イルミネーションに彩られたラピュタは既に秘境ではない。
 ここは世界第台規模の一大レジャーランドなのだ。

 フィクションでも露出の多いラピュタを一目見ようと、今日もたくさんの観光客が訪れる。
 あるいはバズリ狙いのユーチューバー、あるいは観光客相手の商売人。
 様々な事情を持つ人々がやって来ていた
 その中に、とある男性がいた。

 彼はムスカ。
 映画『天空の城ラピュタ』に出てくる悪役、ムスカ大佐の生まれ変わり。
 ラピュタの正当な王である。

 ――と思い込んでいるただの一般人である。

 本名もマイケル、これといった特徴のない青年だ。
 彼は『天空の城ラピュタ』が大好きで、子供のころから繰り返し見ていた。
 そしていつからか、自分の前世がムスカだと思い込んだのだ。

 そんな感じでヤバいアニオタであるマイケルが、ここへ何しにここへやって来たのか?
 決まっている。
 ラピュタの王となるためだ。

 彼は、飛行船から降りると目的の場所へと歩き出す。
 ラピュタは広大で、初めての人間は必ず迷う。
 同じような道が多く、慣れてない者は必ず迷子になるのだ。
 しかし、マイケルは何度も来た道であるかのように、迷いなく足を進める

 それもそのはず、マイケルはラピュタに関する多くの資料も読み込んでいるのだ。
 さらに脳内で何度もシミュレーションを行い、もはや目を瞑ってもたどり着ける領域である。
 彼に迷子の二文字は無い。

 彼はしっかりとした足取りで、目的の場所に向かう。
 目指すは『王の間』。
 彼にふさわしい場所である

 そして歩くこと十分。
 ようやく『王の間』にたどり着く。
 もう少しで王になれる。
 彼は、夢が現実になることに彼は高揚する。

 だがそんな彼を阻むものがいた
 警備員だ。

「すいません、ここは関係者以外立ち入り禁止なんですよ」
 警備員たちは言葉こそ優しいが、マイケルを警戒していた。
 しかしマイケルは歩みを止めない。
 警備員は、不審者としてマイケルを取り押さえようとしたその時だ。

 マイケルがポケットから何かを取り出す。
 飛行石だ。
 飛行石こそ、まごうことなき王の証。
 それを見たて警備員たちは、先ほどの警戒をやめ、マイケルをエスコートし始めた。

「失礼しました。
 王の間まで案内させていただきます」
 警備員たちは恭しく扉を開け、マイケルを案内する。

 それと同時に、ラピュタ全土にアナウンスが流れる。
「ラピュタを訪れている皆様にお知らせがあります。
 先ほど、ラピュタの王が帰還されました。
 お時間がある方は是非、広場までお越しください」

 観光客たちは驚きつつも、好奇心から広場に集まる。
 玉座に座っているマイケルが、モニターに映し出される。
 そしてマイケルの側に立つ執事は、恭しく礼をして告げた

「ではラピュタ観光地化10周年を記念した、ラピュタ貸し切りイベント。
 厳正なる抽選の結果、幸運にも王の座に当選したのは、ここにいるマイケル様です」

12/15/2024, 1:40:07 PM