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 昔々、とある山奥に『ユキマチ村』と呼ばれている村があった。
 この村は比較的寒い地域の山奥にあるたが、冬になっても雪が少し降るだけで、過ごしやすい場所であった。
 しかし周辺の土地は非常に痩せており、農業には不向きであまり収穫物は取れない。
 年貢で農作物の取られた後は、次の年の農作業に使う分しか残らないという有様であった。

 にもかかわらず、この村の人々は飢えるどころか、とても裕福な暮らしをしていた。
 それは、この村の特産品のおかげである。

 ユキマチ村の名産――それは『庭を駆けまわる犬』と『コタツで丸くなる猫』。
 雪が降ると、変わった行動をとる動物たち。
 それを『まるで雪国にいるような気分が味える』と触れ込み、他の地域に売っていたのだ。
 売れ行きは順調で、とくに熱い南の地域には飛ぶように売れたのである。

 農業が出来なくなる冬に収穫出来る事、雪が降らないので冬でも活動しやすい事から、ユキマチ村の有力な収入源であった。
 そのため、儲けの少ない農作物より名産品に力を入れ、さらに天皇にも献上されたこともある。
 そのため村人たちは、一年中雪を待っており、他の村からは専ら『ユキマチ』と呼ばれていた。
 この村で農業とは、あくまでも冬までの暇つぶしなのだ

 雪が降り、犬が喜び庭駆けまわり、それを人間が算盤をはじきながら眺め、そして我関せずと猫がコタツで丸くなる。
 それがこの村の真の姿であった。

 しかし、ある年に非常事態が起こる。
 その年は暖冬で、雪が全く降らなかったのだ。
 暦上は真冬なのに、雪が積もるどころか、ちらつく気配すらない……

 何も知らない子供たちは寒くない冬を喜んでいたが、大人たちは頭を抱えた。
 雪が降らないと、名産品の生産が出来ないので、文字通り死活問題なのだ。
 そこで村人たちは集会所に集まり、連日激しい議論が繰り広げられていた。

 様々なお呪いを行い、奇妙な風説すら信じて雪乞いなるものも行った。
 それでも雪は降らず、いよいよ他の地域から雪をかき集めなければいけないかと議論されていた時だった。

 祈りは届き、ついに雪が降り積もった
 これには村人たちは大喜び。

 大人は、これで食いつなげると……
 子供たちは、なんだかんだで雪遊びをしたかったから……
 各々の理由から、大人と子供が一緒になって喜び庭駆けまわる

 その様子を猫は『今日はご馳走かな?』と眺め、犬は『寒いのは嫌』とコタツで丸くなる。

 例年とは違う、ユキマチ村の冬の光景であった。

12/16/2024, 1:44:32 PM