G14

Open App
10/22/2024, 1:39:45 PM

「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!
 外国から取り寄せた珍しい品がたくさんあるよ!」

 辺りに威勢のいい声が響き渡る。
 ここは多くの店が立ち並ぶモウカリマッカ通り。
 『ここで手に入らないものは無い』と言われるほど、多くの品が取引される大通りだ。

 ここには多くの買い物客がやってくる。
 彼らは見たことが無い珍品や、高品質な品々に心を躍らせていた。
 そして商人たちは、買い物客に自分の商品を買わせようと、声が枯れるまで――枯れてもなお叫び続けていた

 そんな賑やかな場所に一人の少女がやってきた。
 彼女の名前はオフィーリア。
 この国の第一王女である。

 そんな彼女がここにいるのは社会勉強のため。
 この国には『王族は国一番の商人であるべし』という教えがある。
 その教えに基づき、商売の腕を磨くべくここにやってきたのだ。

 とはいえ、商売の道を究めるには、師の教えが必要だ。
 ということで、オフィーリアは師のもとへとやって来た。

「こんにちは〜、師匠いますか~」
 オフィーリアは店に入るなり、間延びした声を出す。
 この喧騒では掻き消されそうな声だったが、目当ての人物は聞こえたようで、商品を並べていた妙齢の女性はオフィーリアの方に振り向いた。

「お、ヒメサマ。
 よく来たね」
 声をかけられた女性は、気さくにオフィーリアに返事をする。
 彼女の名前は、アニー=ゴウショウ。
 オフィーリアの商売の師であり、ゴウショウ商会の支店を一つを仕切る女丈夫である
 そしてゴウショウ商会は、王家が懇意にしている商会でああり、その繋がりから同性であるアニーが、オフィーリアの教育係に選ばれたのだ。

「ヒメサマ、相変わらず小さな声だねえ。
 そんなんじゃあ、客に舐められちまうよ」
 アニーは、オフィーリアに砕けた口調で話しかける。
 不敬ともとれる態度だが、この国では商人が王族に対して不躾な態度をとっても罪に問われない。
 この国では王族に対する敬意より、商売の腕が尊ばれるのだ。

「はあ、大きい声は苦手なもので……」
 だがオフィーリアは顔をしかめる。
 アニーの言動が気に障ったからではない。
 単純に、アニーの指摘が的を得ていたからだ。

「そんなんじゃ立派な商人にはなれないよ!
 そうだわ!」
 アニーは手をパンと叩く。
 それを見たオフィーリアは、とてつもなく嫌な予感がした。

「今日は声を出して呼び込みの練習ね」
 オフィーリアは、アニーの言葉を聞いて凍り付く。
 さっき言ったようにオフィーリアは、大声を出すのが苦手だ。 
 彼女はどうすれば大声を出さずに済むか、頭を回転させた。
 
「えっと、申し訳ありません……
 城に帰った後、歌の習い事があるんです。
 今喉を傷めるわけにはいきません」
 嘘である。
 呼び込みをしたくないオフォーリアがでっち上げた、在しない用事だ。
 だがアニーは、オフィーリアの心中を知ってか知らずか、おかしそうに笑う。

「安心しな。
 よく効くのど飴があるんだ」
 アニーは『問題ない』と言わんばかりに、近くの棚を指さす。
 そこには『特価』と書かれていた飴が大量に鎮座していた。

「あの……
 これって効果はあるけど、すさまじくマズイのど飴ですよね?」
「そうだよ。
 マズ過ぎて全く売れないんだよね。
 ヒメサマの今日の課題は、このマズイのど飴を売り切る事」
「えええ!」
「ほら、呼び込みをしな!
 声が枯れたら、こののど飴舐めていいから」
「いやです」
「帰る時間までに売れ残ったら、残りは全部持って帰っていいよ。
 弟子だけの特別価格で売ってあげる」
「絶対、在庫を押し付けたいだけですよねぇ!
 最初からこのつもりだったんですか!?」
「ほら、さっさと外に出て呼び込みをしな!」
「私の話を聞いてください~」

 こうしてアニーに押し切られ、オフィーリアは呼び込みを行う羽目になった。
 マズイ飴を売り切るため、声が枯れるまで呼び込みをした結果、少しだけ大きな声が出せるようになったオフィーリアであった。

10/21/2024, 1:34:58 PM

 私には、三十年連れ添った夫がいる。
 夫は外でお金を稼ぎ、その間私は家事をする。
 結婚する前、話し合って決めた。

 今どき珍しいスタイルだけど、結構うまくいっていた。
 ――のは結婚して一年間だけ。
 一緒に暮らし始めてから夫の欠点が目に着くようになり、不満だらけになってしまった。

 世の夫婦は長く連れ添うと色々諦めがつくらしいのだが、私の場合は諦めるどころか不満は増えていくばかり。
 一応好きで結婚したのだが、今では後悔しかない。
 子供がいたころはなんとか堪えたが、みんな独り立ちをしてからは、一気に我慢できなくなった。
 今では喧嘩のしない日は無い。

 喧嘩の始まりは、いつも夫のグウタラぶりだ。
 パジャマは脱いだら脱ぎっぱなし、脱いだ靴下は裏返し、食器は片付けない、お菓子は食べ散らかす、風呂を沸かせても入らない、そのくせ一番風呂じゃないとキレる、エトセトラエトセトラ。
 数え上げたらキリがない。

 特に許せないのは、『何食べたい?』と聞いて、『何でもいい』と返ってくる事だ。
 これほど腹ただしいことはない。

 『何でもいい』と答えるのはまだ許せる。
 けれど、料理が出てから『肉が食いたかった』は無いだろう!
 じゃあ『肉食いたい』って言えよ!

 何度言っても治らない、夫の悪癖。
 我慢の限界だった。
 いつ離婚届を突き付けてやろうかと思っていたある日の事、私は天啓を得た。

 どうせ何を作っても文句を言われる……
 ならば逆の発想、本当に『何でも』を――私の好きな物を出そうじゃないか。
 ちょっとした復讐である。

 リビングに行くと、夫はけだるげにテレビを見ていた。
 しかもつまらないのか、あくびをしていた。
 なんという堕落っぷり。
 少しくらい家事を手伝ってくれてもバチは当たらないと思うが、一度も手伝ってくれたことは無い。

 けれど、今回は腹を立てている場合ではない。
 すすす、と夫に近づいて質問をする。

「ねえ、あなた。
 今日何食べたい?」
「何でもいい」

 よし来た。
 いつもは聞きたくない言葉だけど、今日ばかりは心の中でガッツポーズ。
 私はあらかじめ用意していた言葉を紡ぐ。

「今、『何でも』って言った?」
 私は確認のため、夫に問い返す。
 だが夫は何かに気づいたのか顔をしかめた。

「……言ってない」
 否認ですか、そうですか。
 夫は都合が悪くなるとすぐこれだ。
 だけど言質取ったんだよね
 私は手に持っていたスマホを操作する。

『ねえ、あなた。
 今日何食べたい?』
『何でもいい』
 スマホから、先ほどの会話が繰り返される。
 そう録音である
 これで言い訳できまい

「悪かった。
 謝るから許してくれ!」
 録音を聞いた夫の顔は、見る見るうちに青ざめていきついには土下座した。
 離婚して慰謝料でも取られると思ったのだろうか?
 それも面白そうだが、今回の目的はそうではない。

「あなた、顔を上げて。
 別に怒ってないの」
 そう、怒ってない。 
 楽しみはこれからなんだ。
 むしろ笑いがこみあげて来る。

「じゃあ、離婚は……」
「ばかね、するわけないじゃない」
 夫が笑顔になる。
 どうやら安心したらしい。
 このあと、どんな試練が待っているかも知らずに。

「それで話を戻しますけど、『なんでもいい』と」
「それは!」
「いえいえ、咎めたりはしませんよ。
 ただ……」
「ただ?」
 私は一拍置いて、口を開く。

「ただ、これからは私の得意料理を作りたいと思ってます。
 好きなように!」
「君の得意料理って……
 あっ」
 夫の顔が再び曇る。
 どうやら思い出したようね。

 私の得意料理を!
 私がマヨラーだということを!

「待ってくれ、これからは何でもは言わない――いや俺が作ろうじゃないか!
 だからマヨネーズだけは!」
「あなたは昔からマヨネーズが嫌いでしたからね……
 でも私が作ります。
 料理は私の担当なのですから。
 ちなみに、今日のメニューはマヨネーズをふんだんに使った『マヨネーズ丼』です」
「あ、あああ」

 夫がうな垂れる。
 後悔しても遅い。
 私の積年の恨みを思い知れ!

 一日の始まりはいつもマヨネーズ。
 そこから終わりまでマヨネーズ。

 これから楽しい人生になりそうだ。
 私はマヨネーズを買い足さないといけないと考えながら、買い物の支度を始めるのであった。

10/20/2024, 1:26:35 PM

 私は走っていた。
 恋人の拓哉との待ち合わせに、遅刻しそうだからだ。
 目覚まし時計との悲しいすれ違いで、起きたのが待ち合わせの三十分前。
 まさにギリギリ。

 私は最低限の身だしなみをして、待ち合わせ場所の駅に向かって走る。
 お腹痛いし、とりあえずセットした髪も乱れてるけど仕方ない。
 遅れないのが最優先だ。

 そして何もかもを殴り捨て走り、到着したのが約束の時間五分前。
 どうやら間に合ったようだ。
 私は息を整えつつ、先についているはずの拓哉を探す。
 
「あれっ?」
 けど、私は驚きの声をあげた
 肝心の拓哉がいなかったからだ。
 どういう事だろう?

 けれど拓哉が来ていないということはあり得ない。
 さっきLINEで『遅れそう』と送ったとき、『待ってる』と返事があったからだ。
 見落としたのかと思って、再度周囲を見てもどこにもいない。
 向こうからも声をかけてこないのもおかしい……
 自分で言うのもなんだが、結構派手に到着したからね。

 怒って帰ったとか?
 ありえない。
 まだ約束の時間前だ。
 となると、私が遅れることを見込んで、飲み物を買いにコンビニに行ったかな?

 スマホを取り出して、LINEを起動する。
『今着いたけど、拓哉どこにいる?』
 送信するとすぐに既読が付く。

『待ち合わせ場所にいるよ。
 咲夜はどこにいるの?』
 ここにいる?
 もう一度見渡せど拓哉の姿は見えない。
 どういうこと?
 もしかして待ち合わせ場所を間違えたかな。

『確認なんだけど、待ち合わせ場所って駅の改札口だよね』
『そうだよ、西の改札口』
 そういうことか!

 この駅は、西と東の二つ改札口がある。
 そして私がいるのは東口で、拓哉は西口。
 そりゃ会えないはずだ。

『私は今、東口にいる』
『ああ、そういうことね。
 じゃあ俺がそっち行くよ』
『私もそっち行くね』
『意味なくない?』
『拓哉に早く会いたい』
『分かったよ』

 ということで私は西口に向かうことになった。
 ここから西に向かうには、陸橋を使うのが早い。

 寝坊したときはどうなる事かと思ったが、よやく合流できる。
 でもまあ、走って乱れた髪を直す時間が出来たと思えば、そんなに悪い事ではない。
 私は髪を手櫛で直しながら、陸橋を登るのであった。

 ◇


 会わなかった。
 なんで?
 私は拓哉とすれ違わず、駅の東口にいた
 駅の反対側に向かうには陸橋しかない。
 人通りも多くないから、人ごみに紛れてという事もない。
 それなのに、お互い気付かなかった?
 そんな馬鹿な。

 私が悩んでいると、拓哉からLINEが来た
『今、東口に着いたんだけど、どこかですれ違った?
 全然分からなかった』
『私も。
 私が拓哉を見つけられないわけないのに……』
『人少ないんだけどなあ……
 俺、もう一度そっちに行くね』
『私も行く。
 って言いたいけど、また気づかずにすれ違ったら大変だから、私はここで待ってるね』

 LINEで返信を送ったあと、私は陸橋の階段の前に立つ。
 ここにいれば、拓哉がすぐに私を見つけられるからだ。
 ちょっと周囲の視線が気になるけれど、これくらい我慢しよう。
 拓哉と会えないよりはましだ。

 そしてしばらく待っていると、拓哉からLINEが来た。
『着いたよ
 どこにいる?』

 着いただって?
 それはおかしい。
 私はずっと陸橋を見ていたが拓哉は見ていない。

『私、ずっと陸橋の前にいるんだけど……』
『おかしいなあ』
 信じられない事態に、私の背筋が凍る。

 同じ東口にいるというのに、会えないとはこれ如何に?
 もしかして、うっかり異世界に入っちゃった?
 ありえないけど、同じ場所にいて会えないのはそれくらいしか……
 でもそれは非科学的だし、拓哉と会えなくなるから困るし……

 私が思考の迷宮に迷い込んでいると、スマホが震えたことに気づく。
 拓哉からのLINEだ。

『見つけた』
 『何を?』と返しそうになって、踏みとどまる。
 私を見つけたのに決まってるじゃないか!
 しっかりしろ私。

『後ろ見て』
 拓哉の指示の通り、後ろを振り返る。
 すると、遠くの方で手を振っている拓哉が見えた。
 いつのまにあんな所に。

 そう思って拓哉を見ていると、あることに気づく。
「拓哉、もう中に入ってたのか……」

 拓哉は改札口の向こう、駅の中にいた。
 つまり、私は駅の外を行ったり来たり、拓哉は駅の中を行ったり来たり……
 そりゃ出会えないよ……

『今行くね』
 私はLINEでそう送って、拓哉の元に歩き出す。

「疲れた」
 独り言が、口から出る。
 まだ何も始まってないんだけどなあ。
 私は変な疲労感を感じながら、拓哉の元へと向かうのであった。

10/19/2024, 3:18:23 PM

 秋の良く晴れた空の下。
 気配を殺しながら、遠くにいるウサギを狙って矢を放つ。
 シュッと音を立てて放たれた矢は、寸分の違いもなくウサギを射抜く。

 久しぶりに弓を使ったが、腕は落ちてないようだ。
 この村を出て冒険者として過ごした十年間、弓なんて触りもしなかった
 けれど今朝持った瞬間、まるで自分の手の様に弓を扱うことが出来た。
 子供の頃とは言え、昔取った杵柄というのはバカにならないらしい。

「バン様、そちらはどうですか?」
 妻のクレアが、魚が入ったバケツを持ってやってきた。
 彼女の顔を見るに、今日は大漁のようだ。

「こっちも何匹か狩ったぞ。
 冬を越すには十分だが、まだ狩るか?」
「やめておきましょう。
 これ以上狩ると生態系を壊すことになります」
「そうだな」

 俺はクレアの言葉に従う。
 確かに狩り過ぎはよくない。
 子供の頃に調子に乗ってウサギを狩りまくったことがるんだけど、次の年ウサギが出なくなったんだよな……
 それで村の大人たちにメチャクチャ怒られたのを覚えている。

 でも次の春、森でウサギが遊んでいるのを見てほっとしたっけ。
 ウサギが繁殖力がすごくて本当に助かった。

「じゃあ、狩りは終わりにしよう。
 いい天気だから一旦休むか?」
「はい、そうしましょう」

 俺たちは手ごろな石を見つけて、向かい合って座る。
 空を見上げれば、遠くまで雲一つない青空。
 こんな綺麗な空を見上げると、胸にこみあげて来るものがある。

「なんかさあ、こういう風にノンビリしていると故郷を思い出すんだよね」
「故郷…… ですか……」
「こうしてウサギを追いかけて、魚も釣ってさ。
 このまま居眠りしようものなら、故郷が夢に出てきそうだよ。
 忘れがたき『ふるさと』だな」
「はあ」

 クレアは困ったような顔になる。
 アレは何を言うべきか迷っている顔だ。
 俺もクレアの立場だったら、そうなると思う。
 クレアは逡巡したあと、決意を決めた顔で俺を見た。

「あの、バン様。
 ここはバン様の生まれ故郷――『ふるさと』ですよね?」
「そうだな」
「それなのに『ふるさと』の事を思い出すんですか?」
「不思議なことにな」
「大丈夫なんですか、それ。
 医者に相談しますか?」
「大丈夫だろ。
 幸運なことに『ふるさと』はすぐそこにあるしな」

 俺は、クレアの懸念を笑って流す。
 どれだけ心配性なんだよ。 

「それより、クレアの事が聞きたい。
 クレアの生まれた場所は、海の向こうって言ってたよな。
 どんな場所なんだ?」
「うーん。
 表現が難しいのですが……
 森が多いですね」
「ここみたいな感じか?」
「そうなんですけど……
 なんというか、木の種類や密度が違うので受ける印象が違うんですよね。
 ここの森は開けて明るいですけど、私の故郷は薄暗い印象ですね」
「はー、森にも種類があるんだな。
 知らなかったよ」

 冒険者としていろんな場場所にいたが、まだまだ知らない所があるらしい。
 知らない場所があると知ると、冒険者の血が騒ぐ。
 ちょっとワクワクしてきた。

「いつか行こうな」
「え?」
「お前の故郷だよ。
 冬を越して、雪が解ける春になったら冒険にでよう」
「……遠いですよ」
「冒険のし甲斐があるな」
「まったくもう」

 俺たちは一緒に笑い合う。
 ひとしきり笑った後は石から立ち上がる。
 村にある家に戻るためだ。

 俺は一歩踏み出す前に、もう一度空を見上げる。
 人は言う、『世界は空で繋がっている』と……

 クレアの故郷も、この空と繋がっているのだろうか?
 俺はクレアの故郷に思いを馳せながら、俺たちの家に戻るのだった

10/18/2024, 3:47:35 PM

 人は忘れる生き物である。
 とある実験で、人は時間が経つほど覚えたことを忘れていくことが証明されている。
 一時間後には半分忘れ、一日経つと三分の二は忘れてしまう。
 驚異の忘却率である。

 だがしかし!
 何事も例外はある。
 この世界には、忘れたくても忘れられない物がたくさんあるのだ。

 それは例えばスマホのロック解除のパスワード。
 スマホを触らない日なんてないこの時代に置いて、パスワードを忘れるわけがないのである!

 俺はそう思っていた。

 今日までは。

 話の流れで分かると思うが、俺はスマホのロックのパスワードを忘れた。
 ちょっと調べ物をしようとスマホを開いたら、いつも打ち込む四桁の数字がどうしても思い出せないのである

 急にスマホのパスワードが、頭から抜け落ちた理由は分からない
 酒は飲んでないし、寝不足でもない。
 ただ、始めから無かったかのように思い出せないのだ。

 だが!
 こんなこともあろうかと、ノートにパスワードを書き留めている。
 『セキュリティに不安がある』と言われそうだが、部屋には誰も入ってこないので問題ない。

 問題があるとすれば一つ。
 ノートが行方不明ということだ。
 ウチのノートは放浪癖があって困る。

 探すが早いか、思い出すのが早いか……
 悩みどころである。

 うーん、こういう時、みんなどうしているんだろうか?
 ツイッター(現X)で聞いてみようか?
 俺はスマホのロックを解除して、ツイッターを起動する。



 ……今ロック解除した?
 ていうか手が勝手に動いたぞ!?
 たまにネットで『勝手に手が動いた』と聞いたことがるが、絶対に嘘だと思っていた。
 まさか自分の身に起こるとはな……

 さてロックを解除したついでに、パスワードが書かれたノートも発見した。
 座っている座布団の下にあった。
 道理で見つからんはずだ。

 まあいい
 終わりよければすべてヨシ。
 ロックも解除出来て、パスワードも分かる。
 何も問題はない。
 
 あとはスマホで、何するつもりだったのかを思い出すだけである

Next