「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!
外国から取り寄せた珍しい品がたくさんあるよ!」
辺りに威勢のいい声が響き渡る。
ここは多くの店が立ち並ぶモウカリマッカ通り。
『ここで手に入らないものは無い』と言われるほど、多くの品が取引される大通りだ。
ここには多くの買い物客がやってくる。
彼らは見たことが無い珍品や、高品質な品々に心を躍らせていた。
そして商人たちは、買い物客に自分の商品を買わせようと、声が枯れるまで――枯れてもなお叫び続けていた
そんな賑やかな場所に一人の少女がやってきた。
彼女の名前はオフィーリア。
この国の第一王女である。
そんな彼女がここにいるのは社会勉強のため。
この国には『王族は国一番の商人であるべし』という教えがある。
その教えに基づき、商売の腕を磨くべくここにやってきたのだ。
とはいえ、商売の道を究めるには、師の教えが必要だ。
ということで、オフィーリアは師のもとへとやって来た。
「こんにちは〜、師匠いますか~」
オフィーリアは店に入るなり、間延びした声を出す。
この喧騒では掻き消されそうな声だったが、目当ての人物は聞こえたようで、商品を並べていた妙齢の女性はオフィーリアの方に振り向いた。
「お、ヒメサマ。
よく来たね」
声をかけられた女性は、気さくにオフィーリアに返事をする。
彼女の名前は、アニー=ゴウショウ。
オフィーリアの商売の師であり、ゴウショウ商会の支店を一つを仕切る女丈夫である
そしてゴウショウ商会は、王家が懇意にしている商会でああり、その繋がりから同性であるアニーが、オフィーリアの教育係に選ばれたのだ。
「ヒメサマ、相変わらず小さな声だねえ。
そんなんじゃあ、客に舐められちまうよ」
アニーは、オフィーリアに砕けた口調で話しかける。
不敬ともとれる態度だが、この国では商人が王族に対して不躾な態度をとっても罪に問われない。
この国では王族に対する敬意より、商売の腕が尊ばれるのだ。
「はあ、大きい声は苦手なもので……」
だがオフィーリアは顔をしかめる。
アニーの言動が気に障ったからではない。
単純に、アニーの指摘が的を得ていたからだ。
「そんなんじゃ立派な商人にはなれないよ!
そうだわ!」
アニーは手をパンと叩く。
それを見たオフィーリアは、とてつもなく嫌な予感がした。
「今日は声を出して呼び込みの練習ね」
オフィーリアは、アニーの言葉を聞いて凍り付く。
さっき言ったようにオフィーリアは、大声を出すのが苦手だ。
彼女はどうすれば大声を出さずに済むか、頭を回転させた。
「えっと、申し訳ありません……
城に帰った後、歌の習い事があるんです。
今喉を傷めるわけにはいきません」
嘘である。
呼び込みをしたくないオフォーリアがでっち上げた、在しない用事だ。
だがアニーは、オフィーリアの心中を知ってか知らずか、おかしそうに笑う。
「安心しな。
よく効くのど飴があるんだ」
アニーは『問題ない』と言わんばかりに、近くの棚を指さす。
そこには『特価』と書かれていた飴が大量に鎮座していた。
「あの……
これって効果はあるけど、すさまじくマズイのど飴ですよね?」
「そうだよ。
マズ過ぎて全く売れないんだよね。
ヒメサマの今日の課題は、このマズイのど飴を売り切る事」
「えええ!」
「ほら、呼び込みをしな!
声が枯れたら、こののど飴舐めていいから」
「いやです」
「帰る時間までに売れ残ったら、残りは全部持って帰っていいよ。
弟子だけの特別価格で売ってあげる」
「絶対、在庫を押し付けたいだけですよねぇ!
最初からこのつもりだったんですか!?」
「ほら、さっさと外に出て呼び込みをしな!」
「私の話を聞いてください~」
こうしてアニーに押し切られ、オフィーリアは呼び込みを行う羽目になった。
マズイ飴を売り切るため、声が枯れるまで呼び込みをした結果、少しだけ大きな声が出せるようになったオフィーリアであった。
10/22/2024, 1:39:45 PM