一人星空の下で、粛々と準備を始める。
これから俺は神聖な儀式を行う。
せっかくなのでと友人も誘ったのだが、『バカなことしてないで、早く寝ろ』と言って怒られた。
お前は俺のオカンかよ。
まあもともと一人でする予定だったので問題は無い。
ただ、儀式を準備するための人員が欲しかっただけである。
別に寂しいわけではない……
儀式の場所は、まだ種をまいていない畑。
もちろん、自分の土地なので犯罪ではないし、迷惑も掛からない。
ただ草刈りをサボっていたので、雑草が気になるところ。
というのも、今回の儀式では火を使う。
まだ寒いので、ポツリポツリ生えているだけだが、延焼の心配がある。
念のため、消火器を持ってきてよかった。
道具は全て持ち込んだので、今度は儀式の準備だ。
まずは火入れ。
これをしなければ、儀式を始めることはできない。
儀式台に炭と着火剤を入れて、ライターで火をつけしばらく待つ。
変化を見逃さないよう観察していると、炭の一部が赤く染まり始める。
どうやら燃料の炭に火が付いたようだ。
この小さな火を絶やさぬように、様子を見ながら風を送り、火を大きくしていく。
慎重に、時に大胆に、風を送る。
地味なように見えて、意外と難しい。
若いころは力加減を間違え、火を消してしまった事は一度や二度ではない。
当時は落ち込んだものだが、今となってはいい思い出だ。
そして順調に火はは大きくなり、側にいるだけで汗をかくほど熱が伝わってくる。
これぐらい火が強くなればいいだろう。
燃料の追加も必要なさそうなので、燃えている炭の上に網を置いて蓋をする。
これで準備は整った。
それでは儀式を始めよう。
クーラーボックスからあるものを取り出す。
それは儀式で捧げる生贄の肉。
肉を敷かれた網の上に置き、哀れな生贄を焼きあげる。
肉が焼ける香りが俺の鼻を刺激し、思わずツバを飲み込む。
体が『早く生贄をよこせ』と欲するが、なんとか押さえつけて、時が来るのを待つ。
そして十分に火が通った肉を、あらかじめ用意していた秘伝のたれに絡めてから、口に運ぶ。
口の中で肉汁が広がり、得も言われぬ幸福感に包まれる。
そして噛めば噛むほど溢れ出る旨味は、俺に生の実感を感じさせてくれる。
そして咀嚼した肉を飲み込むと、気づけば叫んでいた。
「くぅぅぅ、ウマい!全く星空の下のBBQは最高だぜ」
やっちまった。
頭に到来するのは、その一文。
私は地面にうつぶせで寝そべり、大地の感触を体全てを使って味わっていた。
別に好きでやっている訳じゃない。
転んだのだ。
そして転び方が悪かったのか、持病の腰痛が再発し、動けなくなってしまった。
こんな大事な場面で腰をやってしまうなんて。
私はここで終わりだ。
今までの事が走馬灯のように思い出される。
私は弟の拓真と共に、二人力を合わせてつつましく暮らしていた。
しかし拓真の中学校入学式の日、突如宇宙人が侵略が始まり、私たちの幸せな日常は壊れてしまう。
宇宙人の驚異的なテクノロジーになすすべなく、人間の文明も崩壊。
だが諦めない人類は宇宙人に対抗するため、レジスタンスを結成。
私たちも日常を取り戻すため、レジスタンスに参加した。
ある日私たちはレジスタンスのリーダーから重要な任務を与えられた。
任務の目的は、宇宙人の基地に侵入し、機密情報を入手。
それをもって反攻のきっかけとするというのだ。
仲間のため、人類のため。
絶対に失敗できない重大な任務である。
そして敵基地に侵入。
首尾よく情報を入手したものの、敵に見つかってしまう。
だがそれは想定済み。
すでに脱出ルートが確保してある。
追いかけてくる敵を尻目に、予定通り脱出用の通路へ飛び込む。
ここまでは問題は無かった。
だが私は転んでしまった。
それはもう盛大に転んだ。
しかも無いところで転んだ。
恥ずかしすぎて、顔から火が出そう。
年は取りたくないものである。
私が自分の無力さに打ちひしがれていると、弟が走り寄ってくる。
私がついてこないことに気づいたのだ。
よく出来た弟だ。
だが――
「来ちゃダメ」
私の叫び声に、弟は驚いて硬直する
「逃げなさい。私はもう動けない。私の事なんて構わずに逃げなさい」
腰をやってしまった私に次は無い。
何としても彼には私を置いて行ってもらわないといけない。
「でも、姉さんを置いて行くなんて……」
「すぐに追手が来る。私に構っていたら、二人とも捕まってしまうわ。
あなただけでも逃げて、みんなに情報を伝えなさい」
私は弟を優しく諭す。
だがそれでも拓真は迷っていた。
「私なら大丈夫。捕まっても脱出して見せるから」
そんな彼を安心させるべく、出来るだけ優しく微笑む。
嘘だ。
何一つ、大丈夫じゃない。
腰をやってしまった以上、もう終わりである。
だけどそんなことを悟られないよう、拓真に激を飛ばす。
「行きなさい!」
拓真は逡巡した後、私に背を向け去っていく。
「それでいい、それで……」
小さくなっていく彼の姿を見て、小さく呟く。
彼がこの場を離れることが出来たのなら、私の勝ちだ。
「これで、大丈夫」
近づいてくる存在を視界の端に捉えながら、私は不敵に笑うのだった。
―――
――
―
「カーーート」
🎬 🎬 🎬
私は撮影を終えた後、スタッフ総出で救助され(笑)、急遽作られた簡易ベットに寝かされていた。
『瑞樹さん、絶対安静だからね』とスタッフ全員から強く念を押されしまったので、大人しくしていた。
まあ暴れたくても、動けないのだけども……
「瑞樹さん、大丈夫ですか?」
声をかけてきたのは拓真――もとい拓真役の子、拓哉君だった。
心配してきてくれたのだろう。
私のせいで迷惑かけたと言うのに、優しい。
「心配させてゴメンね。このまま休んでいれば大丈夫だよ」
私はニカっと笑う。
彼に心配させまいと、精いっぱいの笑顔を作る。
「拓哉君も気を付けてね。
腰は大事。腰をやったら、何もできなくなる」
「あはは。気を付けます」
ジョークと受け取ったのか、面白そうに笑う拓哉君。
笑ってるけど、いつか君も腰の痛みに苦しむからね。
「ああ、そうだ。最後のアドリブすごかったですよ。ものすごい気迫でした」
拓哉君が思い出したとばかりに、話題を切り出す。
私が転んだせいで台本から大きく外れてしまったあのカットは、『こっちのほうが面白い』と監督が言ったことで、めでたく採用された。
撮り直しと言われても、私は動けないので本当に助かった。
「瑞樹さんが予定より早く転んだのを見て、僕は頭が真っ白になっちゃったのに……」
「うん、それはゴメン。本当にゴメンね」
「事故ですから謝らないでください」
私が全面的に悪いのに、責めないとは……
なんて出来た子なんだ!
「でもそれじゃ私の気が済まないなあ。何かお詫びするよ」
というと、彼は少し考えて
「じゃあ、ファミレスでご飯奢って下さい」
拓哉君のお願いに、私は驚く。
「え?それでいいの?」
「はい。それがいいです」
謙虚だなあ。そう思っていたが、彼の次の言葉で感慨が吹き飛んでしまった。
「実は僕、瑞樹さんとゆっくり話してみたいと思っていたんです」
おっと、デートのお誘いだったらしい。
でも彼は未成年……
彼のためにも受け入れるわけにはいかない。
「そういうのは大人に――」
「アドリブのコツ教えてください」
やっちまった。
「あの、何か言いかけて――」
「なんでもない」
よし聞かれてない、セーフ。
不思議そうな顔をしている拓哉君に、深く追及される前に会話を進める。
「分かった。腰が楽になったら行こうか」
「楽しみにしてます。ところで言いかけた――」
「あはは。ご飯奢るの楽しみだなー」
「えっと、瑞樹さん?」
「あははー」
やっちまったことを誤魔化すために、笑う事しかできない私なのであった。
「ねえ、無人島に1つだけ持ち込めるとしたら、何にする?」
隣で一緒に座っていた恋人の美咲が聞いてきた。
「こんな時に聞くの?」
空気を読まない言葉に、俺は少しイラっとする。
だがすぐにキツく答えてしまった事を反省し「ゴメン」と謝る。
それに対し美咲は困ったように笑うだけだった。
「いいよ。でも、こんな時だから聞きたいの」
美咲は優しくささやく。
落ち着いた俺は、美咲の言葉には一理あることに気付く。
確かに、今の俺たちはのっぴきならない状況にある。
だからこそ俺達には、少しくらいの遊び心が必要なのだ
少しくらい遊んでもいいだろう。
なぜなら俺たちは、無人島に漂流してしまったのだから……
ことの発端は、俺がクルーザーの運転を取ったから、海のドライブに行こうぜって誘ったから……。
そこから、まさか嵐に巻き込まれるなんて……
いろいろ言いたい事があるだろうに、そんな事をおくびにも出さないのは彼女の強さだろう。
まったく俺にはよく出来た彼女である。
「でもさ」
俺は美咲の提案に対し、懸念することを伝える。
「持ってくる物なんて一つに決まってるでしょ」
「そこだよ。これから迎えるであろう困難に立ち向かう前に、絆を深めようよ」
「へえ、意外と考えているな。少し乗ってやるよ」
マジメに考えてるのか、フザケてるのか、あるいは両方か……
どっちにせよ、することが無いので、美咲の悪ふざけに乗っかってみる。
「分かった。じゃあ、『せーの』で行くよ」
「オッケー」
「「せーの」」
「「四星球《スーシンチュウ》」」
見事なハモリ具合に、俺たちは思わず笑い合う。
「あー、四星球欲しー」
彼女が叫びながら、後ろに倒れ込む。
「俺も欲しー」
彼女に倣って俺も後ろに倒れ込む。
「はあ、私、本当に、心の底から四星球が欲しいのになあ」
「俺もだよ。人生で、こんなにも欲しいと思ったことは無い」
四星球に対する想いを吐露する。
俺たちがこんなにも四星球を切望するのには訳がある。
この無人島に漂流したときの事だ。
俺と美咲は、何か食べ物や脱出の手立てがないかと、島を探索した。
食べ物は豊富に見つかったが、他に役に立つようなものは無かった。
それでも何か無いかと念入りに探したときに見つけたのだ……
四星球以外のドラゴンボールを……
なんでここにドラゴンボールがあるのかは分からない。
もしかしたら、おもちゃかもしれない。
だが、漂流して帰れなくなった俺たちにとって、希望を持つには十分なアイテムではあった。
「ねえねえ」
突然、美咲がご機嫌な声で俺に呼びかける。
「もしかしたら四星球手に入るかも」
「え、マジ?」
驚きのあまり、寝ていた体が跳ね上がった。
「マジマジ。これ見て」
美咲が差し出してきたのはスマホだった。
「使えるの?」
「機種変したばっかりの防水仕様のスマホだよ」
「すげー。それでそれで?」
「アマ〇ンで注文した」
「へえ、でもこんなところに配達してくれるかなあ……」
ここ無人島だしな
「念のため問い合わせしてしてみたけど、大丈夫らしいよ。ぎり配達圏内だったけど」
「すごいな。こんな無人島まで来るのか」
「そして私はプレミアム会員なので、すぐにお届け!」
「何それすげえ」
こんな無人島まで配達するなんて、配達業者も大変だ。
だが、それとは別にとんでもない事に気づいてしまった。
その事に、美咲が気づかないはずが無いのだが……
もしかしたら、非現実的な状況に置かれているせいで、頭が回ってないのかもしれない。
それとなく話題を振ってみよう
「ところで気づいた事があるんだけどいいかな?」
「いいよー。私との仲じゃん。ズバッと言っちゃって」
この反応から察するに気づいていないようだ。
なら美咲の言葉の通り、ズバッと言ってしまおう。
「そのスマホで助け呼んだらいいんじゃないか?」
「……」
美咲は俺の言葉を聞いて動かなくなる。
しばらくしたあと、美咲はようやく再起動しスマホに目線を向ける。
「その手があったか」
⛴
俺達は、救助に来た船に揺られていた。
スマホで助けを呼んだらすぐに来てくれた。
テクノロジーに感謝である。
隣を見れば、疲れて眠っている美咲がいる。
彼女は四星球を抱えて眠っていた。
助けの船が来る前に、注文した四星球が来たのだ。
マジで来るとは……
水上バイクで颯爽と現れた配達業者に、さすがに驚きを隠せなかった。
配達業者も大変だ(本日二回目)
だけどドラゴンボールが揃っても、何も起きなかった
偽物だったのだろう。
ちなみに注文した四星球以外の珠は置いてきた。
もしほかの誰かがあの無人島に漂流しても、スマホの便利さに気づくかもしれないから……
もしかしたら、前にも漂流した人間がいて、あえて置いていったのかもしれない。
今となっては分からないけども……
それにしてもスマホはすごいな。
四星球も持って来てくれるし、助けにも来てくれる。
『ねえ、無人島に1つだけ持ち込めるとしたら、何持にする?』
無人島での美咲の言葉が思い出される。
もし今同じことを聞かれたら、こう答えるだろう。
「無人島に持ち込むものはスマホに限る」
<読まなくてもいい前回(3月18日分)のあらすじ>
かつて高ランクの冒険者として名を馳せた主人公のバン。
だが、仲間の裏切られトたラウマからダンジョンに潜れなくなってしまう。
バンの恋人でもある聖女クレアの勧めにより、心の傷を癒やすため故郷の村に帰るになった。
冒険者の経験を活かし、村で自警団で働いていたバン。
しかしある日、誰も踏み入れたことのないダンジョンを発見する。
そのダンジョンを前に、バンは過去のトラウマを振り切り、クレアと共にダンジョンへ踏み込むことになった。
そしてバンとクレアの二人は、力を合わせてダンジョンを攻略し、最深部までたどり着く。
だが、そこには最強の代名詞、ドラゴンが巣を作っており……
◆ ◆ ◆
「お前、『人として大切なもの』をどこかに置き忘れたんじゃないか?」
俺の率直な感想を思わず口に出す。
俺の言ったことが分からなかったのか、クレアはコテンと小首をかしげる。
「忘れ物をなんてしてませんが?」
「そうじゃない。後ろを見ろ、後ろを」
「後ろ?」
クレアが、「何か忘れたっけ?」と言いつつ、後ろを振り返る。
だがクレアは相変わらず『何も分からない』といって視線をも戻す。
「あのバン様……特に変ったものはありませんが?」
クレアはどうやら、自分が何をしたか分かってならしい。
あまりの常識外っぷりに頭が痛くなってくる。
「あれが、変じゃないなら、この世界に変な物なんてないぞ」
クレアはなおも『意味が分からない』と困惑顔で、俺を見つめる。
「いいか、よく聞け。
世の中にはな、複数のドラゴンを相手取って、無傷で倒すなんて奴なんて存在しないんだよ!」
そう、ここはダンジョンの最深部。
ダンジョンの主ととしてドラゴンが君臨していた。
ベテランの冒険者パーティでも、一瞬の油断が命とりになるほどの脅威。
そんな存在が、一匹でも危険なのに、ここには五匹のドラゴンがいた。
だが俺の目の前にいるクレアは、そんな危機的な状況をものともせず、朝飯前だと言わんばかりに、一人でドラゴンを全て倒してしまったのである。
伝説級の武器を持っているならまだ分かる。
だが彼女が使うのは、駆け出しの冒険者が使うような安いメイスである。
この使い勝手も、攻撃力も低い安物のメイスでドラゴンを倒したのだ。
もはや人の所業ではない。
「何を言っているのですか?不可能ではありませんよ」
「不可能だよ。実際、俺は出来ねえもん」
これでも、俺の実力は冒険者の中五本の指に入ると自負している。
そんな俺でさえ、複数のドラゴンは逃げの一択しかない。
だが目の前はクレアは、聖女らしく優しく微笑みながら答えた。
「神の加護さえあれば、ドラゴンを倒すことなど造作もありません」
後半物騒だな、おい。
「どうです。バン様。
この機会に、神の加護を受け取りませんか」
「なんか嫌だ。お前の信じる神、恐いもん。
代わりに、なにか大切なものを無くしそうだ」
「まるで悪魔の様に言わないでください」
俺の答えを聞いたクレアは、不服そうに頬を膨らませていた。
このまま話を続けても、面倒なので、話題を切り替える。
「逆にお前がダメな相手がいるのかよ……」
「いますよ」
予想外の言葉に、一瞬耳を疑う。
え、いるの?
「幽霊がダメなんですよ」
「ふうん……これ言ったら失礼だと思うけど、なんか普通だな」
「私は普通ですよ」
「普通のやつはドラゴンを倒すことは出来ない」
本当に何言ってんだコイツ。
「ちなみに理由は?」
「殴れないんですよね」
「だと思ったよ」
「まあ、いいや。そろそろ始めるかね」
「何を――ああ、素材の剥ぎ取りですか?」
「それもあるけど、量が多いから、解体は他に人を呼んでからだな。今回は他にすることがある」
俺は目当てのものが無いか、周囲を見渡す。
ここはドラゴンの巣。
であれば『アレ』があるはずだ。
隅々まで巣を捜索し、お目当ての物を見つける。
「あった」
「……それはドラゴンの卵ですか?」
「ああ」
「食べるのですか?ドラゴンの目玉焼きなるものが存在すると、以前どこかで聞いたことがあります」
「いや、今回は違う」
クレアに振り返り、俺はニンマリ笑う。
「あの卵を孵すんだよ。ドラゴンは生まれて初めて見た生き物を親だと思い込む。
冒険者仲間の中に、ドラゴンを飼ってるやつがいてな。
で、飼ってるドラゴン戦わせたりとか……
俺もやってみたいと思ってたんだよな」
「……モンスターを飼いたい?戦わせる?」
後ろから冷ややかな声が聞こたので振り向くと、クレアは理解できない顔で俺を見つめていた。
「……前々から思っておりましたがバン様は――いえ、冒険者の皆様は、人として大切なものが欠けているように思います」
四月一日、エイプリルフール。
今日この会場で世界一の嘘つきを決める祭典が始まろうとしていた。
嘘やまやかしが蔓延るこの現代社会。
誰もが誰かを騙し、騙される。
そして多くの人が心に傷を負い、財産を取られてしまう。
みんなが嘘に複雑な思いを抱える中、この大会は開催された。
事の発端は、とある富豪が詐欺にあった事に始まる。
その際、少なくないお金をだまし取られたのだが、彼は悔しがるどころか『逆に世界一の嘘を聞いてみたい』と言って、この大会を開催したのだ。
大々的に告知し、広く嘘つきを集め、世界各地で予選を開催。
あるものは『世界一の嘘つき』と言う名誉のため。
またあるものは『優勝者に与えられる莫大な賞金』に目が眩んだ者。
そしてあるものは『人を騙すことに快感』を覚えている者。
さまざまな嘘つきたちが、大会でおのれの自慢の嘘を披露した。
そして今ここにはその予選を勝ち抜いた、ツワモノの嘘つきどもがこの地に集まっている。
だが悲しいかな、この予選を勝ち上がる嘘つきには共通点があった。
そう詐欺師である。
多くのアマチュアの嘘つきとは違い、プロの嘘つきである詐欺師との実力差は歴然だった。
日々嘘を磨いている詐欺師たちに対し、なんとなく嘘をついている一般人が勝てる道理などは無かったのだ。
結果、本選の参加者は全員が詐欺師。
この詐欺師たちが、果たしてどんな嘘をつくのか……
世界中から注目されていた。
そして開会式の時間になり、司会者のアナウンスが始まる。
「えー、時間になりました。みなさま、お静かに願います」
司会者の言葉を促すように、会場が静けさで満ちる。
「それは、これより世界一の嘘つきを決める大会を始めます。最初はこの大会の主催者、鐘餅さんから挨拶です」
司会者から紹介され、鐘餅と呼ばれた男が壇上に立つ。
「えー、皆様。おはようございます。
『世界一の嘘が聞きたい』という私のわがままに付き合って頂きありがとうございます。
そして皆様に、一つお詫びをしなければいけないことがあります」
一拍置いて、会場の参加者たちに鐘餅は爆弾発言をした。
「大会は中止、中止です」
会場のあちこちからブーイングが巻き起こる。
無理もない。
彼らは自分の自慢の嘘を披露するために、ここまでやってきたのだから……
だが次に鐘餅から発せられた言葉により、詐欺師たちは言葉を失うことになる。
「世界一の嘘つきを決めるなんて、馬鹿な大会。あるわけないでしょ」
その言葉を合図に、警官隊が入って来て、手際よく会場のすべての出入り口が封鎖される、
そう最初から鐘餅は警察とグル……
詐欺師に騙された鐘餅は復讐の機会を伺っていたのだ。
警察と入念に作り上げられた計画に、詐欺師たちが逃れる術などなかった。
「はい、それではみなさん神妙にお縄についてください」
警察官たちに次々と捕まっていく詐欺師たち。
そんな様子を見て、鐘餅はほくそ笑む。
警察官に組み伏せられた詐欺師の一人が、そんな鐘餅に向かって憎々しげに言い捨てた。
「この大嘘つきめ」