<読まなくてもいい前回(3月18日分)のあらすじ>
かつて高ランクの冒険者として名を馳せた主人公のバン。
だが、仲間の裏切られトたラウマからダンジョンに潜れなくなってしまう。
バンの恋人でもある聖女クレアの勧めにより、心の傷を癒やすため故郷の村に帰るになった。
冒険者の経験を活かし、村で自警団で働いていたバン。
しかしある日、誰も踏み入れたことのないダンジョンを発見する。
そのダンジョンを前に、バンは過去のトラウマを振り切り、クレアと共にダンジョンへ踏み込むことになった。
そしてバンとクレアの二人は、力を合わせてダンジョンを攻略し、最深部までたどり着く。
だが、そこには最強の代名詞、ドラゴンが巣を作っており……
◆ ◆ ◆
「お前、『人として大切なもの』をどこかに置き忘れたんじゃないか?」
俺の率直な感想を思わず口に出す。
俺の言ったことが分からなかったのか、クレアはコテンと小首をかしげる。
「忘れ物をなんてしてませんが?」
「そうじゃない。後ろを見ろ、後ろを」
「後ろ?」
クレアが、「何か忘れたっけ?」と言いつつ、後ろを振り返る。
だがクレアは相変わらず『何も分からない』といって視線をも戻す。
「あのバン様……特に変ったものはありませんが?」
クレアはどうやら、自分が何をしたか分かってならしい。
あまりの常識外っぷりに頭が痛くなってくる。
「あれが、変じゃないなら、この世界に変な物なんてないぞ」
クレアはなおも『意味が分からない』と困惑顔で、俺を見つめる。
「いいか、よく聞け。
世の中にはな、複数のドラゴンを相手取って、無傷で倒すなんて奴なんて存在しないんだよ!」
そう、ここはダンジョンの最深部。
ダンジョンの主ととしてドラゴンが君臨していた。
ベテランの冒険者パーティでも、一瞬の油断が命とりになるほどの脅威。
そんな存在が、一匹でも危険なのに、ここには五匹のドラゴンがいた。
だが俺の目の前にいるクレアは、そんな危機的な状況をものともせず、朝飯前だと言わんばかりに、一人でドラゴンを全て倒してしまったのである。
伝説級の武器を持っているならまだ分かる。
だが彼女が使うのは、駆け出しの冒険者が使うような安いメイスである。
この使い勝手も、攻撃力も低い安物のメイスでドラゴンを倒したのだ。
もはや人の所業ではない。
「何を言っているのですか?不可能ではありませんよ」
「不可能だよ。実際、俺は出来ねえもん」
これでも、俺の実力は冒険者の中五本の指に入ると自負している。
そんな俺でさえ、複数のドラゴンは逃げの一択しかない。
だが目の前はクレアは、聖女らしく優しく微笑みながら答えた。
「神の加護さえあれば、ドラゴンを倒すことなど造作もありません」
後半物騒だな、おい。
「どうです。バン様。
この機会に、神の加護を受け取りませんか」
「なんか嫌だ。お前の信じる神、恐いもん。
代わりに、なにか大切なものを無くしそうだ」
「まるで悪魔の様に言わないでください」
俺の答えを聞いたクレアは、不服そうに頬を膨らませていた。
このまま話を続けても、面倒なので、話題を切り替える。
「逆にお前がダメな相手がいるのかよ……」
「いますよ」
予想外の言葉に、一瞬耳を疑う。
え、いるの?
「幽霊がダメなんですよ」
「ふうん……これ言ったら失礼だと思うけど、なんか普通だな」
「私は普通ですよ」
「普通のやつはドラゴンを倒すことは出来ない」
本当に何言ってんだコイツ。
「ちなみに理由は?」
「殴れないんですよね」
「だと思ったよ」
「まあ、いいや。そろそろ始めるかね」
「何を――ああ、素材の剥ぎ取りですか?」
「それもあるけど、量が多いから、解体は他に人を呼んでからだな。今回は他にすることがある」
俺は目当てのものが無いか、周囲を見渡す。
ここはドラゴンの巣。
であれば『アレ』があるはずだ。
隅々まで巣を捜索し、お目当ての物を見つける。
「あった」
「……それはドラゴンの卵ですか?」
「ああ」
「食べるのですか?ドラゴンの目玉焼きなるものが存在すると、以前どこかで聞いたことがあります」
「いや、今回は違う」
クレアに振り返り、俺はニンマリ笑う。
「あの卵を孵すんだよ。ドラゴンは生まれて初めて見た生き物を親だと思い込む。
冒険者仲間の中に、ドラゴンを飼ってるやつがいてな。
で、飼ってるドラゴン戦わせたりとか……
俺もやってみたいと思ってたんだよな」
「……モンスターを飼いたい?戦わせる?」
後ろから冷ややかな声が聞こたので振り向くと、クレアは理解できない顔で俺を見つめていた。
「……前々から思っておりましたがバン様は――いえ、冒険者の皆様は、人として大切なものが欠けているように思います」
4/3/2024, 10:10:59 AM