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 四月一日、エイプリルフール。
 今日この会場で世界一の嘘つきを決める祭典が始まろうとしていた。
 嘘やまやかしが蔓延るこの現代社会。
 誰もが誰かを騙し、騙される。
 そして多くの人が心に傷を負い、財産を取られてしまう。
 みんなが嘘に複雑な思いを抱える中、この大会は開催された。

 事の発端は、とある富豪が詐欺にあった事に始まる。
 その際、少なくないお金をだまし取られたのだが、彼は悔しがるどころか『逆に世界一の嘘を聞いてみたい』と言って、この大会を開催したのだ。

 大々的に告知し、広く嘘つきを集め、世界各地で予選を開催。
 あるものは『世界一の嘘つき』と言う名誉のため。
 またあるものは『優勝者に与えられる莫大な賞金』に目が眩んだ者。
 そしてあるものは『人を騙すことに快感』を覚えている者。
 さまざまな嘘つきたちが、大会でおのれの自慢の嘘を披露した。

 そして今ここにはその予選を勝ち抜いた、ツワモノの嘘つきどもがこの地に集まっている。
 だが悲しいかな、この予選を勝ち上がる嘘つきには共通点があった。
 そう詐欺師である。
 多くのアマチュアの嘘つきとは違い、プロの嘘つきである詐欺師との実力差は歴然だった。
 日々嘘を磨いている詐欺師たちに対し、なんとなく嘘をついている一般人が勝てる道理などは無かったのだ。
 結果、本選の参加者は全員が詐欺師。
 この詐欺師たちが、果たしてどんな嘘をつくのか……
 世界中から注目されていた。

 そして開会式の時間になり、司会者のアナウンスが始まる。
「えー、時間になりました。みなさま、お静かに願います」
 司会者の言葉を促すように、会場が静けさで満ちる。

「それは、これより世界一の嘘つきを決める大会を始めます。最初はこの大会の主催者、鐘餅さんから挨拶です」
 司会者から紹介され、鐘餅と呼ばれた男が壇上に立つ。
「えー、皆様。おはようございます。
 『世界一の嘘が聞きたい』という私のわがままに付き合って頂きありがとうございます。
 そして皆様に、一つお詫びをしなければいけないことがあります」
 一拍置いて、会場の参加者たちに鐘餅は爆弾発言をした。

「大会は中止、中止です」
 会場のあちこちからブーイングが巻き起こる。
 無理もない。
 彼らは自分の自慢の嘘を披露するために、ここまでやってきたのだから……
 だが次に鐘餅から発せられた言葉により、詐欺師たちは言葉を失うことになる。

「世界一の嘘つきを決めるなんて、馬鹿な大会。あるわけないでしょ」
 その言葉を合図に、警官隊が入って来て、手際よく会場のすべての出入り口が封鎖される、
 そう最初から鐘餅は警察とグル……
 詐欺師に騙された鐘餅は復讐の機会を伺っていたのだ。
 警察と入念に作り上げられた計画に、詐欺師たちが逃れる術などなかった。

「はい、それではみなさん神妙にお縄についてください」
 警察官たちに次々と捕まっていく詐欺師たち。
 そんな様子を見て、鐘餅はほくそ笑む。
 警察官に組み伏せられた詐欺師の一人が、そんな鐘餅に向かって憎々しげに言い捨てた。

「この大嘘つきめ」

4/2/2024, 10:05:56 AM