<読まなくていい前回のあらすじ>
青年は因縁の男を探し出し、対峙する。
男からなぜか交渉を持ちかけられるが、男を殺すことにしか興味がない青年は申し出を拒否。
青年は剣を、男は銃を取り出し、一触即発の状況になる。
だが殺し合いになる前に男は戦う気をなくし、そのまま立ち去ろうとする。
青年は男を逃がすまいと、男に切りかかるのだが……
一方作者は戦慄していた。
『もっと知りたい』がお題だったので前回のオチに「無料体験は終わり。続きをもっと知りたければ♡下さい」(意訳)と書いたところ、普段よりはるかに♡が少なかったのだ。
悪ふざけで書いたものだが、たしかに自分もそのフレーズは大嫌いなので、読者の気分を害したのは自明の理。
大変申し訳ありませんでした<m(__)m>。
少ないとはいえ、♡をもらったので続きを書かせていただきます。
<本文>
「ふう」
青年はホテルの部屋に戻るや否や、そのままベットに身を投げ出す。
安ホテルゆえ、硬いマットレスを不快に感じながら、頭に浮かぶのはあの光景。
ようやく探し出した男を見つけ出すが、まんまと逃げられてしまう。
確かに自分はあの男を切った。
だがまるで霞を切るがごとく、なんの手ごたえもなかった。
切られた男は笑いながら、闇に消えていった。
あの男の事を調べたが、まだ知らないことがあるらしい。
あの男は一体何者?
結論が出ない考えに耽っていると、部屋のドアがノックされる。
「誰だ?」
「ルームサービスです」
青年は訝しむ。
ルームサービス?
頼んでないどころか、そんなものがこの安ホテルにあるかどうかも知らない。
もしかしたらあの男の仲間が自分を消しに来たのかもしれない。
殺そうとしてきた相手を捕まえることで情報が得られる。
そのことを確信した青年は、向こうの思惑に乗ることに決めた。
「分かった。今開ける」
青年は愛用の剣を持ち、警戒しながら扉に近づく。
扉を開けた瞬間、青年の顔に向かって拳が向かってくる。
だが青年はその拳を難なくかわし、逆に襲撃者を姿勢を崩して転倒させる。
転んで地を這っている襲撃者の顔を見て、青年は驚く。
襲撃者は青年と同じくらいの年頃の少女。
彼女は青年の幼馴染であった。
「あー、もう。女の子を投げるなんてひどくない?」
少女は自分から襲ったことを棚に上げ、青年に文句を言う。
「俺を殴ろうとしてよく言えるな。
はあ、まあ入れ」
青年はため息をつきながらも、少女を部屋に招き入れる。
その様子を見て、頬を膨らませながら起き上がる
「こういう時、普通手を伸ばして抱き起すもんじゃない?」
「知らん」
少女は青年に文句を言いながら、部屋の奥へと入っていく。
青年はベットに腰かけ、少女は備え付けの椅子に座る。
「で?なんでここにいる?」
先に口を開いたのは青年だった。
「なんで?それは私が聞きたいが?」
「質問に質問を返すな」
はあ、と少女はため息をつく。
「分かってるでしょ。アンタを追いかけてきた」
「追いかけてくるな、と書置きしたはずだが?」
「それに従う理由なんてない」
少女は青年を睨みつける。
その迫力に青年はたじろいでしまう。
「それに約束したじゃん。君を守るって」
「いつの話だよ。それに俺は男だ。女に守られるなんて格好がつかない」
「今どき古いよ、それ」
「だが――」
「約束した。それとも私のほうが弱いとでも言うのか」
少女の言葉に、青年は反論できなかった。
実際に少女は青年より強い。
先ほどは少女の方が投げられたが、それは少女が本気で殴ろうとはしてなかったから。
もし本気なら立場が入れ替わったことだろう。
「あいつの事探しているんでしょ。私たちの両親を殺した、あの男を」
「ふん、そんな男、興味ないな」
「嘘ばっかり。あんた顔に出やすいの治らないね」
「……」
少女は懐かしそうに青年の顔をみる。
「ねえ、私あの時言ったよね『今日から家族だよ。ずっと隣で守ってあげる』って」
青年は何も言わない。
「だからさ、あんただけの問題じゃないの。あなたの問題でもあるし、私の問題でもあるの。だから、一緒に行こう」
青年は少女を危険に巻き込まないため、一人旅立ったのだ。
「ダメだ。もう家族を失うわけには……」
「私が家族を失うのはいいの?」
「それは……」
「大丈夫、私は死なない」
その言葉を聞いた青年は涙があふれた。
今まで自分を押し殺してきたが、不安でいっぱいだったのだ。
不安を男を殺すとう言う一念のみで抑えていたのだった。
少女は席を立ちあがり、青年の隣に座る。
「安心して、わたしたちは家族だから。ずっと隣にいるから、ね」
少女は、泣いている青年の頭を、子供をあやすように撫でる
「昔、いつもこうして慰めてたね」
青年が泣き止むまで、少女はずっと隣で頭を撫でていたのであった。
「もっと知りたくはないか?世界の真理を!」
「別に」
「!」
青年の言葉に男は驚愕の表情を浮かべる。
「馬鹿な。世界の真理だぞ」
「それがどうした?」
男は激高するも、青年は涼しい顔で答える。
「真理を知ればこれから起こることが全て分かる。悲劇も回避できるし、すでに起こった出来事を変えることも――」
「興味ないね」
青年は男の発する言葉に興味を示さず、持っていた剣を構える。
青年は男を殺す気であった。
「言っても分からんか……」
「言いたいことはそれだけか?」
「見込みがあると思ったのだがな」
男は懐に忍ばせた銃を取り出した。
だが青年はそのことにも動じず、逆にニヤリと笑う。
「その代わりに俺の知っている真理を教えてやろう。タダでだ!」
「断る。タダより高いものはない」
「フ……」
そして両者の視線は交差し、この場に静寂が訪れる。
緊張感が極限にまで高まり、青年が足を踏み出そうとした、まさにその時――
「やめだ」
男は殺気を収め、持っていた銃を再び懐へ納める。
さすがの青年も、この男の行動に動揺を隠せなかった。
「どうした?」
「私も最初は君とやり合う気だったんだけどね」
「リタイアか?」
「いや、気が変わったんだ。君をもっと知りたくなってね」
男は青年に背を向けこの場を立ち去ろうとする。
「また会おう」
「待て!」
青年は男を逃がすまいと走り寄り――
無料体験はここまでです。
この先がもっと知りたい方は♡をクリックしてね
俺の家には、開かない扉がある。
俺の家は、婆ちゃんが子供のころから住んでいる古い家だから、開かない扉はいくつかあったりする。
でもその扉は少し変わっていて、外からコンクリートで埋められている。
母さんが生まれる前かららしい。
婆ちゃんに『格好悪いから、内側も埋めたら?』と言ったけど、風水がどうとかで埋めないと言われた。
そんな扉だけど、もともとは裏庭に出るのに使われていたらしい。
だけどある時、古い家なので改装工事をするってときに、工事業者がうっかりコンクリで埋めてしまった、とは婆ちゃんの言。
でも俺は信じていないし、母さんも他の家族も信じていない。
だってそんなことある?
扉をコンクリで《《うっかり》》埋めるてしまうって……
俺はコンクリートの事は知らないけれど、そんなことになったら普通は『元に戻せ』ってなる。
でも、今でも埋まったまま。
婆ちゃんに聞いてもはぐらかされる。
でも、俺知っているんだ。
たまにあの扉のドアノブがカチャカチャ動いているのを……
誰かが扉の向こう側から扉を開けようとするんだ。
扉の向こうはコンクリートで埋まっているっていうのに……
でも開かない。
だって片側がコンクリートで埋まってるから……
誰が扉を開けようとしているのか……
婆ちゃんに聞いてみたけど、やっぱりはぐらかされる。
母さんもよく知らないらしい。
でも埋めた理由はなんとなく分かる。
悪いものがやってくるとか、多分そんな感じ。
もしかしたら悪い物じゃないかもだけど、どっちにしても都合が悪いから埋めたのだろう。
今朝も顔を洗いに行こうと洗面所に行くと、物音に気付いた。
見れば、また誰かがドアを開けようとしていた。
でもドアは開かない。
やがて諦めたのか、ドアノブは動かなくなる。
俺は動かなくなったドアノブを確認して、洗面所に向かう。
今回も特に何も起こらなかった。
おかしなことの無い、平和な朝。
何の変哲もない、いつも通りの一日。
今日も平穏な日常が始まる。
<読まなくてもいい前回のあらすじ>
かつて高ランクの冒険者として名を馳せた主人公のバン。
だが、仲間の裏切られトたラウマからダンジョンに潜れなくなってしまう。
バンの恋人でもある聖女クレアの勧めにより、故郷の村に帰ることとなる。
冒険者の経験を活かし、村で自警団で働いていたバン。
しかしある日、誰も踏み入れたことのないダンジョンを発見する。
そのダンジョンを前に、バンは過去のトラウマを振り切り、クレアと共にダンジョンへ踏み込むのだった
<本文>
「ラブ&ピース」
そう叫びながらクレアは持っていたメイスでモンスターを叩き潰す。
「ラブ&ピース、ラブ&ピース」
叫ぶたびにモンスターたちの儚い命は消えていく。
彼女が潰していくモンスターは、並みの冒険者では歯が立たないほど強いのだが、彼女は歯牙にもかけていなかった。
「ラブ&ピース、ラブ&ピース、ラブ&ピース」
追い詰められていくモンスターの目には恐怖が宿る。
モンスターに特別な感情は無いのだが、さすがに一方的に虐殺される彼らには同情を禁じ得ない。
「ラブ&ピース……ふう、コレで最後ですね」
クレアは息も切らさず、こちらに笑いかける。
聖女と呼ばれるだけあって、彼女の笑顔は何も知らない純真で無垢な少女のものであり、彼女の前では犯罪者すら悔い改めることだろう。
だが忘れてはいけない。
彼女は先ほどまでモンスターを虐殺した張本人である。
返り血一つ浴びていない彼女の姿に、神聖さを通り越して恐怖を感じるほどだ。
高ランクの冒険者の自分よりも、格段に強いのはどういうわけだろうか?
一度聞いてみたことがるが、『神の恩寵です』と言っていた。
意味が分からない。
「どうしましたか?」
彼女が心配そうな顔でこちらを伺う。
「……いや、毎度のことながら頭が痛くなる光景だと思ってな。その光景を繰り広げた聖女とは一体何なのかを考えている」
「バンさんはいつもそう言いますよね。聖女とは、愛を与え心を平和に導く存在なのです」
クレアは胸を張って力説する。
だが俺の心は平和どころか、すさまじく荒んでいた。
「モンスターには与えないのか?」
「まさか!この世界に生きとし生けるものすべてに愛を与えるのが私の使命です。さきほどの行為も、愛を与えているだけなのです」
どうやらクレアのスイッチが入ったようだ。
「いいですか。モンスターは邪悪な存在です。だからといって救いを与えるに値しない存在でもありません。私は彼らに愛を与え、浄化することによって聖なる存在へと生まれ変わらせるのです。そして――」
クレアは一度息を吐き、大きく息を吸った。
「私はそれができるから、聖女と呼ばれるのです」
「絶対違う」
「これは愛です。平和のためなのです」
俺のツッコミなど意に介さず、彼女の演説は続く。
こうなったら、話長い。
ぶっちゃげ興味もないし、聞き飽きたんだよな。
かくなる上は……
「あ、モンスター」
「また生き残りがいましたか!ラブ&ピース」
クレアは、俺が適当に指さしたほうに向かって走り去っていく。
どうやら危機は去ったようだ。
ようやく俺の元に平和が訪れる。
ため息をつきながら、壁に寄りかかる。
彼女の言説は正直信じていない。
だがクレアは、俺の荒み切った心に、愛と平和をもたらしてくれた。
彼女には感謝しても仕切れない恩があるのだ
だから少しは応援してもいいと思っている。
難しいことは分からないけど、いつの日か彼女は世界を愛と平和で満たすだろう。
俺はそう確信するのだった
俺は恋人のクレアと共に故郷の村に戻っていた。
冒険者になると言って出たっきり、十年ぶりの帰宅である。
不安だったが家族から熱烈な歓迎をされ、母親には号泣された。
その時の罪悪感は半端なかった
今は冒険者だった経験を活かし、警備団で村の警備をしている。
冒険者みたいに緊張感でひりつくことは無いが、静かな村の警備ものんびりして悪くない。
あの頃は思いもしなかった未来だけど、今の生活に後悔は無い。
十年前の自分は若かった。
あの頃はお金がすべてだと思い、お金を稼ぐため村を飛び出したのだ。
『お金より大事な物なんてない』と本気で思っていた。
冒険者になってからは、お金を稼いで稼いで稼ぎまくった。
世界を巡り歩き、いくつものダンジョンを制覇した。
その功績で、俺の名前は広く知られ、お金も使いきれないほど稼いだ。
とても充実していた。
だが天狗になった俺は、自分を妬むやつがいることに気が付かなかった。
、最終的に仲間に裏切られ、ダンジョンで置き去り。
さすがの俺も死を覚悟した。
そこをお人よしの聖女に出会い助けてもらった。
いろいろあったが、今や最愛の恋人である。
コイツのおかげで、まあ『お金と同じくらい愛は大事だ』くらいには思うようになった。
だがあの出来事がトラウマとなり、ダンジョンには潜れなくなってしまった。
ダンジョンを前にすると足が竦むのだ。
そこで恋人の勧めで、故郷の村でスローライフを送ることになった。
故郷の村は心の傷を癒すのに最適だと。
懐かしき過ぎ去った日々。
いつものように周辺の警備をしていた時のこと。
警備団のリーダーがこちらに向かって走ってきた。
息を切らせながら走ってくる様子を見るに、ただ事ではない。
「何かあったのか?」
「おい、昨日まで無かった洞穴がある。ちょっと見てくれないか?」
村の自警団のリーダーに乞われ、その洞穴とやらを見に行く。
「これは……」
見て驚いた。
ダンジョンである。
しかも、生まれたばかりの。
ダンジョンの生成は謎が多いが、分かっていることは一つ。
この中に財宝が眠っている。
自分の中の過ぎ去った日々がささやく。
「行こう」と。
リーダーに振り向く。
「ダンジョンだ。モンスターが出てくかもしれないから、中に入って一度調査すべきだな」
「だけど、この村にダンジョンに潜れる奴なんて……まさか」
「ああ、俺が行く」
「無理だよ。あんた、ダンジョンに入れないんだろ?」
「大丈夫だ。治った」
クレアは、故郷に帰れば心の傷は治ると言っていたが、まさかこんなカタチで治るとはな。
あいつのお気楽思考でも、この展開は想像できなかったに違いない。
ああでも、一度帰って準備しないとな。
クレアは付いてくるだろうか?
『ほっとけない』と言って付いて来るんだろう。
あー、母親がまた泣くなあ。
どう説得するかね。
その時に考えよう。
そして今ならわかる。
『お金が全て』なんてあり得ないと。
なんて思い違いをしていたのか……
お金より大事なもの、それは未知への好奇心《スリル》。
この中には何が待っているのだろうか?
潜る前から気分が昂って仕方がない。
さあ、冒険の始まりだ。