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 俺は恋人のクレアと共に故郷の村に戻っていた。
 冒険者になると言って出たっきり、十年ぶりの帰宅である。
 不安だったが家族から熱烈な歓迎をされ、母親には号泣された。
 その時の罪悪感は半端なかった

 今は冒険者だった経験を活かし、警備団で村の警備をしている。
 冒険者みたいに緊張感でひりつくことは無いが、静かな村の警備ものんびりして悪くない。
 あの頃は思いもしなかった未来だけど、今の生活に後悔は無い。
 
 十年前の自分は若かった。
 あの頃はお金がすべてだと思い、お金を稼ぐため村を飛び出したのだ。
 『お金より大事な物なんてない』と本気で思っていた。

 冒険者になってからは、お金を稼いで稼いで稼ぎまくった。
 世界を巡り歩き、いくつものダンジョンを制覇した。
 その功績で、俺の名前は広く知られ、お金も使いきれないほど稼いだ。
 とても充実していた。
 だが天狗になった俺は、自分を妬むやつがいることに気が付かなかった。

、最終的に仲間に裏切られ、ダンジョンで置き去り。
 さすがの俺も死を覚悟した。
 そこをお人よしの聖女に出会い助けてもらった。
 いろいろあったが、今や最愛の恋人である。
 コイツのおかげで、まあ『お金と同じくらい愛は大事だ』くらいには思うようになった。

 だがあの出来事がトラウマとなり、ダンジョンには潜れなくなってしまった。
 ダンジョンを前にすると足が竦むのだ。
 そこで恋人の勧めで、故郷の村でスローライフを送ることになった。
 故郷の村は心の傷を癒すのに最適だと。

 懐かしき過ぎ去った日々。

 いつものように周辺の警備をしていた時のこと。
 警備団のリーダーがこちらに向かって走ってきた。
 息を切らせながら走ってくる様子を見るに、ただ事ではない。

「何かあったのか?」
「おい、昨日まで無かった洞穴がある。ちょっと見てくれないか?」
 村の自警団のリーダーに乞われ、その洞穴とやらを見に行く。
「これは……」
 見て驚いた。
 ダンジョンである。
 しかも、生まれたばかりの。
 ダンジョンの生成は謎が多いが、分かっていることは一つ。
 この中に財宝が眠っている。
 
 自分の中の過ぎ去った日々がささやく。
 「行こう」と。
 
 リーダーに振り向く。
「ダンジョンだ。モンスターが出てくかもしれないから、中に入って一度調査すべきだな」
「だけど、この村にダンジョンに潜れる奴なんて……まさか」
「ああ、俺が行く」
「無理だよ。あんた、ダンジョンに入れないんだろ?」
「大丈夫だ。治った」
 クレアは、故郷に帰れば心の傷は治ると言っていたが、まさかこんなカタチで治るとはな。
 あいつのお気楽思考でも、この展開は想像できなかったに違いない。

 ああでも、一度帰って準備しないとな。
 クレアは付いてくるだろうか?
 『ほっとけない』と言って付いて来るんだろう。
 あー、母親がまた泣くなあ。
 どう説得するかね。
 その時に考えよう。

 そして今ならわかる。
 『お金が全て』なんてあり得ないと。
 なんて思い違いをしていたのか……
 お金より大事なもの、それは未知への好奇心《スリル》。

 この中には何が待っているのだろうか?
 潜る前から気分が昂って仕方がない。
 さあ、冒険の始まりだ。

3/10/2024, 9:00:56 AM