『お金より大事なものがある』
冒険者になると言って村を出る時、家族に言われた言葉だ。
昔、流行った言葉らしい。
あくまでもお金というものは道具の一つであって、それで命を賭けるのは馬鹿のすることだと。
ましてや、それで命を蔑ろにするなんて、もっての外だと。
言いたいことは分かる。
冒険者は命がけでダンジョンにもぐり、そこで手に入れた財宝を売って、お金を稼ぐ職業だ。
だがダンジョンは危険が多く、そこで死ぬ奴も多い。
そんなこと分かり切ってはいる。
それでも俺は言ってやる。
お金より大事な物なんてない。
お金さえあれば何でもできる。
強い武器や防具も買えるし、強力な魔法を習得することもできる。
遠くの場所へ行くときも、お金さえあれば一瞬だ。
怪我をしてもお金があれば直せるし、死んでも蘇生魔法がある。
もちろんお高いけども。
もっとお金があれば、立派な家が建てられる。
いい服を着ることだってできる。
おいしいものだって食べさせられる。
それも全てが、お金さえあれば出来るのだ。
家族の手紙で母親の病気が治ったと聞いた。
俺の送ったお金で、いい医者を呼んだらしい。
お金さえあれば何でもできることを分かってもらえたと思ったのだが、手紙には『お金なんていいから、帰ってきて一緒に暮らそう』の一文が書いてあった。
まだお金の正しい価値に気が付いていないらしい。
いつか、お金が全てだと気づいてくれるといいのだが。
そして今日もお金を稼ぐため、ダンジョンへもぐる。
同じ志を持つ仲間ともに、高難易度のダンジョンへ。
リスクが高いほど、リターンも大きい。
Money is all.
お金さえあれば全て思い通りだ。
見てください。
月の灯りで照らされる草原に、一つ動いている影があります。
これが何か分かりますか?
そうニンジャです。
これはニンジャが草原をかける様子を捉えた貴重な映像です。
皆さんはニンジャのことどれくらい知ってますか?
知っているようで知らないニンジャのこと。
いまからお勉強しましょう。
『月夜を駆けるニンジャ』
♪ニ・ニ・ニ♪
♪『日本人が来た』♪
(タイトルコール)
今回のテーマは『ニンジャ』。
ニンジャ、実は我々ヒトの親戚です。
難しい言葉で言うと人類は、哺乳(ほにゅう)類霊長目ヒト科です。
これに対して、ニンジャは哺乳類霊長目ニンジャ科になります。
かなり近いですね。
歴史を勉強するとき、ヒトは猿が祖先と言われたことでしょう。
ニンジャも祖先は同じ猿なんです。
ですが、ある時から昼に活動するものと、夜に活動するものが出てきました。
始めはどうにか一緒に暮らしていたようなのですが、生活リズムが合わないので、やがて昼に活動するグループと、夜に活動するグループに別れてしまいました。
この昼に活動するグループがヒト、夜に活動するものがニンジャの祖先だと言われています。
ですからニンジャは、明るいところには出てこず、専ら暗くなってから行動を開始します。
夜行性なのです。
でも夜は危険がいっぱい。
その危険から身を守るため、忍術という他の生物には見られない武器も獲得しました。
いやあ、生命ってすごいですね。
この忍術を使って、日本中に大きく生息圏を広げていきました。
ですが最近は、ヒトの文明が著しく発達し、夜でも明るいところが増えました。
ニンジャは明るい場所を嫌います。
そのためニンジャは急速に数を減らしてしまい、野生のニンジャは絶滅の危機に瀕していました。
ニンジャを絶滅させるわけにはいかない。
そう考えたヒトたちがいました。
そこでニンジャの個体数を増やす試みを思いつきます。
内容は危険のないヒトの飼育下でニンジャを育て、十分に力を付けさせてから野生に返す。
そしてニンジャの住みやすい環境を整える。
そうすることで、ニンジャの個体数を増やし、絶滅を避けようとしたのです。
この活動が身を結び、今では伊賀と甲賀でたくさんのニンジャを見ることが出来ます。
ニンジャの保護活動を行うヒトたちには頭が上がりませんね。
ニンジャが好きなヒトがいる限り、日本からニンジャがいなくなることは無いでしょう。
これかもニンジャには目が離せませんね
次のテーマは『サムライ』。
明治維新の時に起きた戦争で絶滅してしまった侍。
その侍をDNAで復活させる?
それって本当に可能なの?
次回『日本人が来た』は「サムライカムバック」。
侍復活プロジェクトに密着します。
学校から帰る前、ゲーム友達の友也にゲームを貸してもらった。
友也は『絶対面白いから』と押し付けるように貸してきたが……
タイトルはキズナ・クエスト。
友人が言うには、文字通り絆を売りにしたゲームとのこと。
これまでもたくさんゲームを貸してもらったが、外れは無かった。
これも期待していいのだろう。
押し付けられたものではあるけど、ちょっとだけ楽しみである。
と言うわけで家に帰ってすぐプレイすることにした。
そしてゲームをプレイし始めてから一時間。
絆を売りにしているだけあって、仲間とのイベントが熱い。
連携技も豊富で、なるほど友也が進めてくるのも分かる。
そして、ついに初めてのボス撃破。
一章のボスながら強すぎず弱すぎず、非常に戦い甲斐のある敵であった。
序盤にもかかわらず、達成感がすさまじい。
これからどんな冒険が待っているのか。
期待に胸を膨らませながら、ボスを倒した報告しに街へ戻る。
すると怪しい人間が近づいてきた。
『あの強敵を倒す場面を拝見させていただきました。思わず見とれていまいました』
初対面にもかかわらず、急にゴマをすってくる不審者。
『貴様、何者だ』
主人公が不審者を問いただす。
何が目的だろうか?
『私、奴隷商人でございます。単刀直入に申し上げます。あなたの仲間を売ってください。高額で買取させていただきます』
仲間を売れだと?
ふざけているのだろうか?
仲間を金で売る?
そんなの出来るわけ――
『10万GOLD出しましょう』
その金額に心臓が高鳴る。
え、10万?
それだけあったら強い武器帰るじゃん。
ちょっとボス厳しかったから、装備充実させたかったんだよね。
じゃなくて。
仲間を売るわけないだろ。
選択肢は「いいえ」だ。
俺は正気に戻る。
まったくだ、仲間を売るなんてありえない。
『分かりました。では15万GOLDでいかがでしょうか』
増えた。
そして出てくる「はい」「いいえ」の選択肢。
そこで俺は気づく。
このゲームて、もしかして『絆が売り』じゃなくて『絆を売る』ゲームなのか?
とんでもないゲームシステムだ。
まったく、友人もとんでもないゲームを貸してきたものだ。
こんな目先の
そして俺は「いいえ」を選択した。
…………………
…………
……
△ ▲ △
翌朝、学校で。
「おっす、ゲームどうだった?」
「面白かったわ」
「ならよかった」
俺の答えに、友也が嬉しそうに笑う。
「いくらで売った?」
「100万GOLDと珍しいアイテム」
「粘ったなあ」
「どうせ、売るんだからと思って、思いっきり吊り上げてやった。商人が最後泣いてたな」
俺の言葉に友也は腹を抱えて笑う。
これだけ笑ってもらえたなら、売られた仲間たちも満足であろう。
「それでさ、ゲームしながら思ったんだよね」
「何を?」
友也が笑うのをやめて、不思議そうな顔でこちらを見る。
「俺と友也の友情、売るとしたらいくらかなって」
「そんなの決まってる。プライスレスだよ」
「俺もそう思った。やっぱ友也は親友だな」
そしてお互いにがっちり抱き合う。
世界よ、これが真の友情だ。
「こほん、盛り上がっているところ悪いが、少しいいか?」
いつのまにか側に立っていた担任が立っていた。
「どちっかに授業の準備を手伝ってほしいんだが――」
「「こいつが行きます」」
俺たちはお互いに指を差す。
休憩がつぶれるのが嫌で、友也に押し付けようとしたのだが、あっちも同じことを考えたらしい。
「さっき親友といったんだから、俺のために役立て」
「は?友達は売ってナンボだ」
言い争いする俺達を見た担任が呆れた顔で言った。
「……その友情、金をもらってもいらない」
「たまには別の場所を通って帰ろう」
卒業式の帰り道、隣で歩いていた彼が言った。
突然の提案に、思わあず彼の方を向く。
家が近所なので、付き合い始めてからずっと一緒に帰っている。
けれど、そんなことを言われたのは初めてだった。
もしかしたら彼にも思うことがあるのかもしれない。
なぜなら、こうやって一緒に帰るのも最後なのだ。
私たちは中学校を卒業し、四月から別々の高校に進学する。
だからなのだろうか、彼は見たことのない顔で私を見つめている。
不思議に思いつつも、私はコクリと頷く。
それを見た彼は私の手を取り、いつもと違う道に入る。
彼の大胆な行動に驚きつつも、素直についていく。
いつもはは通学路から見るだけの脇道。
緊張しながらも、彼と二人で入っていく。
脇道に入って、急に雰囲気が変わり少し驚く。
さっきまでいた道より狭く、どこか暗さを感じる。
営業中かどうか分からない個人店やかすれた標識を見て、まるで異国に来たかのような錯覚に陥る。
それでも不安にならないのは、きっと彼が手を握ってくれてるから。
「ここ」
しばらく歩いた先で、彼は公園の前で立ち止まる。
「連れてきたかった場所」
彼が指さしたほうを見ると、そこには見事な赤い梅が咲き誇っていた。
「きれい」
心の中の言葉がそのまま口をついて出る。
「君に見せたくて」
「ありがとう、嬉しい」
彼の気遣いに心が嬉しくなる。
公園の中で静かに立っている梅の木。
いつからいるのか、大きくて立派な梅だ。
それはもうすぐ春の訪れを知らせる、幸運の花。
でもそれは私たちの別れを知らせる、不吉の花。
今日で最後と言うことを思い出して、急に不安になる。
彼はどう思っているのだろうか?」
「四月から別の高校だね」
「そうだな」
彼は素っ気なく言葉を返す。
「でも、引っ越すわけじゃ、ないし。すぐ、会えるし」
少しつっかえながらも、彼の想いを伝えてくれる。
別れる気が無い事に、心の底から安心する。
私はそれが嬉しくて、顔がほころんでしまう。
「また見に来ようね」
「ああ」
次に会う約束をする。
もうこうして一緒に帰ることは無いのは寂しい。
だけど、彼とはまた会える事が、何よりも嬉しい。
もしかしたら、新しい学校の準備で会えるのがずっと先になって、その時には梅の花が終わっているかもしれない。
だけどそれでも構わない。
花の無い花見だって、彼と一緒なら乙なものだ。
<読まなくてもいい前回のあらすじ>
物語の主人公、百合子はひな祭りと言うことで、友人の沙都子の家に遊びに行く。
目的は沙都子が飾っている豪華なひな人形である。
だが、百合子はそこで衝撃の事実を聞く。
その事実とは、一年前のひな祭りの時、百合子が甘酒で雰囲気で酔っぱらって暴れ、ひな人形を壊したというのだ。
莫大な弁償金におののく百合子。
しかし沙都子は自分がデザインした服のモデルになるなら、弁償しなくてもよいと言う。
いやいやながらも、百合子は服のモデルを了承するのだった。
そして今日も着せ替え人形として呼ばれたのだったが……
~以下本文~
「これ、私の気持ちです。受け取ってください」
私は顔を真っ赤にしながら、手紙を渡す。
もし何も知らない人が見れば、告白の場面だと思うことだろう。
でも手紙を渡す相手は、親友の沙都子だ。
色恋沙汰じゃない、友人同士のよくある手紙のやり取りだ。
だが沙都子の反応は冷ややかだった。
「百合子、これは何の真似なの?」
「普段は言えない気持ちを手紙にしました。読んでいただければ」
「ふーん」
私の手紙を、友人は見るからに疑わしげな顔で受け取る。
「悪口書いてるの?」
「まさか!日ごろの感謝の言葉です」
沙都子はまるでゴミをみるようなの目で私を見る。
あれは友人を見る目じゃないな。
私ってそんなに信用ない?
沙都子は大きくため息を吐いた後、折りたたまれた手紙を広げて読み始める。
読み終えて一瞬何かを考えた後、声に出して読み始めた。
「『拝啓 沙都子様。
突然ゴメンね。
沙都子に言いたいことがあるんだけど、恥ずかして言えないので手紙にしました』」
自分が書いたとはいえ、改めて書いたことを聞かされるの恥ずかしいな。
「『沙都子、いつも遊んでくれてありがとう、いつも迷惑かけてごめんね。
沙都子はお金持ちのご令嬢で、私は一般家庭の何の変哲もないただの女の子。
あなたと私は本当は済む世界の違う人間だっていうのに、嫌な顔一つせず遊んでくれて感謝でいっぱいです』
沙都子の可愛い顔が、めっちゃ嫌そうな顔になる。
『嫌な顔一つせず』というのはさすがに言いすぎたか。
「『私はそんな沙都子が大好きです。
これからも一緒に遊んでください。
大好きな君に。
あなたの親友、百合子より』」
沙都子が手紙を読み終える。
そして沙都子は私を見てニコッと笑う。
思いが通じた。
私が勝利を確信したのもつかの間、沙都子は笑顔のまま手紙を破り捨てた。
「ああー。ひどい。一生懸命書いたのに!」
「百合子さん。伺ってもよくてよ、遺言」
沙都子が笑顔を湛《たた》えながら、私に迫ってくる。
やっべ、めちゃくちゃ怒ってる。
「やだなー、百合子『さん』なんて他人行儀。
いつものように呼び捨てにしてよ。友達じゃん」
「心配されなくても大丈夫ですよ。友達ではありませんし」
これは駄目だ。
私は即時撤退を決断する。
「すんません許してください。出来心だったんです」
「嘘おっしゃい。どうせ、モデルが嫌だから、機嫌を取ってなんとか逃げようと思ったんでしょ」
お見通しだった。
沙都子はいつも私の企みを看破する。
「あなたが分かりやすいだけよ」
「え?私ってそんなに顔に出る?」
「うん」
沙都子の言葉に衝撃を受ける。
次から気を付けよう。
「無理だと思うけどね」
だから心読まないで。
「それはともかく、私としては理不尽な要求したわけではない思っているんだけど……
弁償するよりましでしょ」
「それはそうなんだけど、その服がね。可愛すぎると言うか……」
「似合ってるわ」
「いえ、私としてはもっとカッコいい系の服が着たいのです、ハイ」
「なるほど」
沙都子は納得したようにうなずく。
「なら普通にそう言えばいいのに」
「えっ」
「そりゃ、嫌がられるよりは、喜んできてもらった方がいいもの。
セバスチャン、クール系の服持ってきて」
「畏まりました」と言って老齢の執事が部屋を出ていった。
「ありがとう。沙都子、大好き」
私は嬉しさのあまり、沙都子に飛びつく。
「やめて、分かったから離れなさい」
沙都子の力が想像以上に強く、引きはがされてしまう。
私にできる最大限の親愛表現をしたのだが、沙都子のお気に召さなかったらしい。
でもそれじゃ私の気が済まない。
「こんなのじゃ、私の気持ちを伝えることが出来ない。
そうだ、もう一度、大好きな沙都子に手紙を――」
「それはやめて」
沙都子に絶交されそうな勢いで拒否されたので、手紙を書くことは諦めた。
まあ、いつか機会があると思うので、その時に改めて伝えよう。
まったく、沙都子は恥ずかしがり屋さんなんだから。