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3/4/2024, 9:47:48 AM

 私は友人の沙都子の家に遊びに来ていた。
「招待してくれてありがとう、沙都子」
 私は沙都子に挨拶をする。
「招待して無いわよ、百合子」
 沙都子は呆れなたような顔をして言い返す。

「あなた、いつもアポなしで来るわよね。連絡してっていつも言ってるでしょ」
「ごめんね」
 私は舌を出しながら謝る。
「反省してないでしょ、もう」
 沙都子は文句を言っているが、なんだかんだで追い返すような真似はしない。

「で、今日は何?」
「今日はひなまつり。
 立派なお雛様を飾っているんでしょ。見に来たよ」
 沙都子がこれ見よがしにため息をつく。
「嘘でしょ、新作のFF7が目当てのくせに」
「そんなことないよ。
 いや、それも目当てなんだけどさ、今日はお雛様がメインなの。
 お雛様、毎年楽しみにしてるんだからね」
「本当かしら?」
「でも見せる相手がいないと、つまんないでしょ?」
「まあ、それはそうなんだけど。
 仕方ないわね、セバスチャン」
「畏まりました。沙都子お嬢様」
 どこからともなく老齢の執事が現れる。
「ではこちらへ」
 そう言ってセバスチャンは私たちを案内してくれる。

 そう、沙都子の家は世界有数のお金持ちだ。
 本来なら私のような普通の家庭の子供とは関わり合いを持つことは無いだろう。
 でもそんなことを気にせずに遊んでくれる器の大きい友人だ。
 そんな期待に応えて、今日も遊びに来たのである。

 お雛さまの所に行くまでの間、沙都子とたわいもない話をしながら歩く。
 そしてしばらくしてある部屋の前で立ち止まった。
「この部屋よ」
 その言葉を合図にセバスチャンが、部屋の扉を開ける。
 沙都子に目で促されながら部屋に入ると、そこには大きなひな壇にきらびやかなひな人形がたくさん並べられていた。

「ほー。相変わらず見事なお雛様ですな。鑑定額はおいくら万円?」
「億は行くと言っておくわ」
「億……」
 ごくりと唾をのむ。
 億もあれば遊んで暮らせるなあ。
 そんなことを思いながらも、どこか違和感を感じる。
 去年見たひな人形と違うような……

「気のせいかもしれないけどさ、これ去年までのやつと違くない?」
「あら、気づいたの?そうよ新しく作ったの」
「じゃあさ、前のやつ頂戴」
 ダメもとでおねだりしてみる。
 ここに飾ってないということは、もしかしたら倉庫に仕舞っているのかもしれない
 たとえ気まぐれでもお雛様をもらうことが出来れば、メルカリで売って大もうけだ。
 メルカリで億を出せるやついるかは知らんけど。
 だが沙都子の答えは、私の予想に反したものだった。

「……やっぱり去年のこと覚えていないのね」
 私は予想外の答えに面食らう。
「えっ、去年何かあった?全く記憶にないんだけど」
「ひな祭りだからと言って、甘酒飲みまくって、酔っぱらって、暴れた」
「マジ?」
「マジ」
 沙都子が感情の無い能面のような顔で言い放つ。
 その顔怖いからやめて。

「ちなみに甘酒って、普通酔わないのよ」
「へ?じゃあ、なんで私は酔って――」
「その場の勢いで酔ってたわ」
 自分は刹那に生きる女だと自負していたが、そのせいで他人に迷惑をかけるとは……
 反省しよう。

「それで暴れて仕方が無いから、家の使用人を呼んで取り押さえようとしたわ。
 でもそれでも抑えきれないほど暴れてね。
 そのうち暴れ疲れたのかそのまま寝たから、使ってない部屋に放りこんだわ。
 それで、そのうち起きてそのまま帰ったわ」
「あーそういえば気がついたら床で寝てたわ。でも、いくら何でも床に直って扱い雑過ぎない?」
「寛大なほうよ。お雛様壊したんだから」
「記憶にありませんが、謹んでお詫び申し上げます」
 私は即座に土下座の姿勢に移行する。

「ウチの親、億のお金が払えるほど稼いでないんです。なにとぞ弁償はご勘弁を」
「あなたみたいな貧乏家庭に払えるわけないでしょ。諦めているわ」
「ありがとうございます。その代わりになんでもします」
「ん?今『なんでも』って言った?」
 背筋に嫌なものを感じ、言い直す。
「出来る範囲でなんでもやります」

 私の言葉に沙都子は満面の笑みを浮かべる。
「そう、ちょうど良かったわ。実は私、服のデザイナー目指しているの。
 百合子、あなたモデルになってくれない?」
 提案の形を取ってはいるが、有無を言わせない迫力に思わずたじろぐ。
 いつの間か沙都子の横には、メイド立っていた。
 メイドの手には、私がこれまでの人生で着たことが無いような、かわいらしい服だった。
 そしてセバスチャンの手には、お高そうなカメラが……

「沙都子、そんなフリフリのついた服、私には似合わないからやめよう、ね?」
「大丈夫。恥ずかしいのは最初だけ。それとも弁償のほうにする?
 さあ、立って。」
「ううう」
 私に選択の余地はなく、おずおずと立ち上がる。

「私に任せなさい。
 お雛様なんて霞むぐらい、綺麗にしてあげるんだから」

3/3/2024, 9:42:04 AM

 今日は期末試験の日。
 この結果次第では休み返上で補習がありうるほど重要な試験である。
 俺には休みのスケジュールはぎっしり詰まっているので、この試験だけは落とすわけにはいかないのだ。
 だが俺は答案用紙に何も書き込めないでいた。
 筆記用具が無いわけじゃない。
 純粋に答えが分からないのだ。

 これまでの試験は、授業聞いてちょっと勉強すれば何とかなった。
 それどころか、平均より上を取るのも難しくはない。
 だから今回は全く勉強しなくても大丈夫だろうと思ったのだが、この有様である。
 あと最近面白いゲームが出まくったのでそのせいでもある。
 ……いや、ゲームのせいにするのは良くない。
 すべては期末試験と言う制度が悪いのだ。

 だがそんな現実逃避をしても目の前の解答欄は埋まらない。
 こういう時、凡人ならばカンで答えるだろうが、俺はそんな無粋な真似はしない。
 秘策があるのだ。
 この絶望的な状況を切り開いてくれるたった一つの希望。
 それはサイコロ鉛筆である。
 断面が丸ではなく、六角形の鉛筆。
 これに数字をそれぞれの面に書けばあら不思議、答えを教えてくれる魔法の鉛筆に早変わりだ。

 昨晩寝る前に、『さすがに全く勉強しないというのは、いくらなんでも不味いのでは?』という不安に駆られ急遽《きゅうきょ》作ったものだ。
 使わないに越したことは無いと思っていたが、結局使う羽目になってしまった。
 反省すべきことはたくさんあるが、それは家に帰ってからの話。
 ともかくこれで合格間違いない。

 俺は鉛筆を転がし、解答欄を埋めていく。
 先生もそんな俺の様子を見ているが何も言わない。
 これはカンニングではないから当然だ。
 もしも口出ししようものならSNSで炎上待ったなし!
 最近の先生は大変ですな。

 すべての解答欄を埋めると、ちょうど試験終了のチャイムが鳴る。
 さすがに記述形式のものは埋めることはできなかったが、選択問題は全て埋めた。
 けっこう調子が良かったので、平均は堅いだろう。

 少しの休憩ののち、次の教科の試験が始まる。
 この試験もこの魔法の鉛筆さえあれば、赤点回避は確実だろう。
 配られた解答用紙を受け取り、教師の合図とともに書き込み始める。
 ぱっと見で選択問題が多い。
 これはサイコロ鉛筆の独壇場だな。
 勝利を確信し、回答用紙に名前を書きこもうとして、しかし鉛筆が止まる。
 俺は致命的なミスを犯したことに気が付いたのだ。

 さっきのテスト、名前書いてない

3/2/2024, 9:56:49 AM

  欲望。
 何かを欲しいと思う心。
 人間なら誰しも持ちあわえている心の動き。

 今私はその欲望によって突き動かされていた。
 ここは週一で訪れる、お気に入りのゲームセンター。
 そこに置かれているUFOキャッチャーと格闘していた。
 そのガラス張りの箱の中には私の欲望がそのまま形になったようなぬいぐるみが鎮座している。
 白くてフワフワした可愛いクマのぬいぐるみ。
 上品な赤色のリボン。
 そして私に助けを求めるつぶらな瞳。
 私のストライクゾーンど真ん中である。

 私の中の理性が『取っても置くとこないZE』といっているが無視する。
 欲しいものは欲しいのだから仕方ない。
 オタクたるもの欲望に忠実であれ。
 私の格言である。

 だが、状況は悪い。
 すでに2千円溶かしているのだが、元の位置から半分くらいしか動いていない。
 残弾も心もとない。
 これ以上お金を投入して、果たして勝てるのだろうか。
 撤退すべきか?
 私の心は揺れ動く。

 もしこの世界がラノベなら、『俺が取ってやるよ』と言ってUFOキャッチャーの得意なクラスの男の子がサラッととGETしてくれるのだろう。
 だけどそんな奴はいない。
 現実は非情である。

「あの、いいですか?」
 後ろから男性から声をかけられる。
 救世主来たか?
 だがクラスメイトではなく、店員だった。
 何の用だろう?

「景品少し動かしましょうか?」
 店員の発した言葉に耳を疑う。
 店員の『アシスト』。
 都市伝説だと思っていたが、実在したのか!
 何が目的かは分からないが、断る理由は無い。
「お願いします」

 そう聞いた店員はカギを取り出し、UFOキャッチャーのガラスの扉を開ける。
「ぬいぐるみが好きなんですか?」
 一瞬呆けた後、自分に話しかけているのだと気づく。
「これ人気があるんですよ」
「そうなの?」
「はい、絶妙に不細工なのが可愛いって評判です」
 は?何言ってんだ、この後輩。
 どこから見ても可愛いだろ。
 ……いや、絶妙に不細工だな。
 熱くなってて気づかなかったわ。
 可愛いけど。

「ここで大丈夫ですか?」
 店員は一歩下がり、ぬいぐるみの置いた様子を見せてくれる。
 出口にかなり近い場所に置いてある。
 これならば数回で取れれそうだ。
「ありがとう。これで大丈夫」
「分かりました」
 そういうと、店員はUFOキャッチャーのカギを閉める。

「がんばってください」
 そういってイケメンの店員は帰っていく。
 別にカッコよくはないけれど、助けてくれたのでイケメン認定した。
 私は恩に報いる女である。

 そんなことを思いながら次弾を投入し、UFOキャッチャーを操作する。
 すると、なんと一発でとることができた。
 やったぜ。
 あの店員、仕事が出来ると見える。

 取り出し口から、熊のぬいぐるみを取り出す。
 見れば見るほど絶妙に不細工だが、可愛いので良しとする。
 ぬいぐるみの抱き心地を確かめてから、そのまま家に帰る。

 と、クマのリボンの隙間に、紙が入っていることに気が付いた。
 なにかと思って中を見てみると、書かれていたのは名前とL〇NEのID。
 まさかさっきの店員!?
 何か裏があると思ったが、私が目的だったか!

 周りを見渡すが、彼の姿はどこにもない。
 逃げられたか。
 まあいい。

 それはともかく、この紙どうしたものか。
 よく知らない相手に連絡するなと、親からもよく言われている。
 だが心の中では連絡してもいいと思っている自分がいた。
 理由はともかく助けてくれたので、もう一度お礼を言うのもいい。
 よく思い出してみれば、普通にイケメンだった気もする。

 あの店員、あのアシストだけで私にここまで意識させるとは只者ではない
 私のハートは、彼にがっちり掴まれたのだった。
 UFOキャッチャーだけにね。

2/29/2024, 12:48:23 PM

 みんな元気かー?
 みんなのアイドル、世直し系ユーチューバーTADASHIです。
 さっそくファンからのコメントが――っておい、迷惑系じゃなくて世直し系だと言ってるだろ。
 何回言ったらわかるんだ!

 では気を取り直して。
 今日、俺はとある人から世直しを依頼され、列車に乗ってとある駅にいます。
 みんな分かりますかね?
 分かんないかな?

 正解者がいないので答えを言いますね。
 ここはあの伝説の『きさらぎ』駅です。
 はい、証拠の駅名の看板ね。
 見える?
 ちゃんと『きさらぎ』って書いてるでしょ。

 この駅はみんなも知っての通り、たくさんの人を招き入れて、閉じ込めているという、悪ーい駅なんです。
 そこで俺に懲らしめて欲しいって依頼が来たわけ。

 おっとコメントがたくさん来てますね。
『危ない』、『帰れなくなるぞ』、『無理しないように』みんな心配してくれてありがとう。
 でも大丈夫、依頼者から注意事項とか、対策とかばっちり聞いているんで、何が来ても問題ないぜ。
 『どうやって行ったの?』それは秘密。
 誰かが真似したら大変だからな。
 何よりもファンの安全が第一だからさ。
 『いつから迷惑系から怪談系に転向したの?』っておい!
 よ・な・お・し。
 二度と迷惑系と間違えるんじゃねえ。
 まったくアンチはコレだから……
 アンチに構って目的が果たせなくなるのも本末転倒なので、次行きます。

 ます最初にするのは、駅員に天誅を下すこと。
 ここで働いている時点で悪人確定なので、罰を与えないとな。
 改札口は――あそこだな。
 よっしゃ、悪の駅員め、俺の必殺剣をくらえ!
 いざ、天ちゅ――
 あれ?誰もいないじゃん。
 というか使われている形跡がない。
 ここ無人駅じゃん!

 『きさらぎ駅はもともと無人駅』だって?
 いや、依頼人から駅員がいるって聞いてたんだよ。
 駅の外も聞いてた話と違うし、全然話が違うじゃんかよ……

 それに依頼人もここで待ってるって言ってたのにさ。
 どこにもいねぇじゃんか。
 騙しやがったか。

 はあ、なんか白けたな。
 いったん帰るわ。
 『ビビった?』、いやビビってねえよ。
 嘘つきやろうの思い通りが気に食わないだけ!
 まあ世直しやってれば、こういう事もあるわな。
 じゃあグダグダだけど、配信終わりまーす。



 ……ちょっとも待ってくれ。
 まだ見てる奴いる?
 よかった、何人かいるな。
 ここからどうやって帰るのか、だれか知らない?
 依頼人のやつが、帰る方法は会ったときに教えるって言ってて、俺知らないんだよね。

 『煙を出す』、オッケー。
 ライター持ってるから、それで――
 あー、燃やすもんないな。
 とりあえず、ポケットに入ってたレシート燃やすか。
 
 『お前はそこにいた方が、世のため人のため』、なんだと!?
 アンチのやろう、まだいたのか。
 『俺が依頼してそこに行くよう仕向けた』だと!
 ここ出たらお前の所に行ってやるからな。
 覚悟しろ!

 ところで煙を出したら、どうすればいいんだ?
 『知らない』、いや煙を出したら助かるんだろ。
 『調べてもそれ以上の情報が無い』、冗談はよせ。
 もっと何かあるだろ。

 そろそろスマホのバッテリー切れそうなんだよ。
 早く脱出方法を教えてくれ。
 『諦めろ』黙れ、アンチ。

 俺いやだよ。
 こんなところで、ずっとここで暮らすなんて。
 だれかたすけt

2/28/2024, 10:22:27 AM

 日曜日の朝、誰もいないリビングで一人パンを食べながらニュースを見る。
 いつもは妻と二人で昼食をとるのだが、妻は出張でいない。
 そして今日は出張に行ってから、初めての休みの日。
 一人きりで過ごす休日なんて何年ぶりだろうか?

 数年ぶりの一人の時間なので、何をすればいいのか分からず、とりあえず朝からテレビを見ている。
 けれどどうにも落ち着かない。
 結婚してからいつも妻と一緒にいるのが当たり前だったので、一人でいるとなんだか悪いことをしているような気分になる。
 これが寂しいって事なのだろうか?
 テレビを見ていても、何一つ頭に入ってこない。
 結局テレビを見ることをやめて、気分転換に散歩に出ることにした。
 少しは気が晴れるといいけれど。

 玄関を開けて、外に出ると霧が出ていた。
 ここは地形的に霧の出やすいところなので、珍しいものではない。
 珍しいものではないが、ここのところ毎日霧が出て気味が悪い。
 異常気象であろうか?
 自分の小さな身で気にしても仕方が無いので、考えないことにする。

 霧の中、あてもなく近所を歩いていく。
 歩きながら考えるのは妻の事。
 本当は一緒に付いて行きたかった。
 だけど自分の仕事のこともあるので、それは叶わなかった。
 それにしても短い間かから大丈夫だと思っていたが、まさかこんなに心をかき乱されるとは……

 妻と話をしたい。
 そう思って何かメッセージを送ろうと思ったが、何を送ればいいのか分からない。
 しばし熟考した末、この霧を送ればいい事に気が付いた。
 スマホを取り出して写真を撮り、妻にメッセージと一緒に送ってみるとすぐに着信が来たので、通話ボタンを押す。

『君が行く 海辺の宿に 霧立たば 我が立ち嘆く 息と知りませ』
 妻は開口一番、短歌を詠む。
 妻は短歌が好きで、事あるごとに詠んでくるのだが、あいにくこちらは無教養である。
 それを知ってか、短歌を送ってきた後は必ず訳文を言う。

『あなたが行く海辺の宿に霧が立てば、それは私の立ちつくして嘆く私の息と知って下さい』
 なるほど、吐く息と霧を同じものをみなしたのか。
 昔の人はなかなかロマンチックだと感心する。

「じゃあ、この霧は君のため息って事?」
『そう。君がいなくて寂しいの』
 妻は普通恥ずかしくて言えないことを平然と言う。
 聞いているこっちの顔が赤くなりそうだ。
『でも、こっちに霧が出ない。私の事、もしかして寂しくないの?』
「えっと、俺も寂しいです」
『ふふふ』
 電話越しに嬉しそうな声が聞こえる。
『知ってた。君、寂しがり屋だからね』
「お互い様だろ」

 そうして妻と取り留めのないことを話す。
 彼女の声に安心している自分がいる。
 やはり俺は寂しかったのだ。
 朝から感じていた憂鬱な気分は消えていた。
 妻もそうなのか、彼女のため息だという霧がどんどん晴れていく。

『そろそろ、切るね』
 十分くらい話したところで、妻が終わりを切り出す。
 電話の終わりを告げるのはいつも妻だ。
「じゃあ、また」
『うん、またね』

 電話を切ると、さっきまで満ち足りていた気持ちが消え、急に寂しくなる。
 なんとなく昔の人の気持ちが分かる気がする。
 遠く離れていても、ずっと繋がっていたい。
 いつでも話せる電話があるのにコレだから、昔の人はもっと切ない思いだったのだろう。
 俺は昔の人の思いをはせながら、大きな息を吐く。
 どうかこの息が、妻のいる遠くの街へ届きますように。

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