<読まなくてもいい前回のあらすじ>
物語の主人公、百合子はひな祭りと言うことで、友人の沙都子の家に遊びに行く。
目的は沙都子が飾っている豪華なひな人形である。
だが、百合子はそこで衝撃の事実を聞く。
その事実とは、一年前のひな祭りの時、百合子が甘酒で雰囲気で酔っぱらって暴れ、ひな人形を壊したというのだ。
莫大な弁償金におののく百合子。
しかし沙都子は自分がデザインした服のモデルになるなら、弁償しなくてもよいと言う。
いやいやながらも、百合子は服のモデルを了承するのだった。
そして今日も着せ替え人形として呼ばれたのだったが……
~以下本文~
「これ、私の気持ちです。受け取ってください」
私は顔を真っ赤にしながら、手紙を渡す。
もし何も知らない人が見れば、告白の場面だと思うことだろう。
でも手紙を渡す相手は、親友の沙都子だ。
色恋沙汰じゃない、友人同士のよくある手紙のやり取りだ。
だが沙都子の反応は冷ややかだった。
「百合子、これは何の真似なの?」
「普段は言えない気持ちを手紙にしました。読んでいただければ」
「ふーん」
私の手紙を、友人は見るからに疑わしげな顔で受け取る。
「悪口書いてるの?」
「まさか!日ごろの感謝の言葉です」
沙都子はまるでゴミをみるようなの目で私を見る。
あれは友人を見る目じゃないな。
私ってそんなに信用ない?
沙都子は大きくため息を吐いた後、折りたたまれた手紙を広げて読み始める。
読み終えて一瞬何かを考えた後、声に出して読み始めた。
「『拝啓 沙都子様。
突然ゴメンね。
沙都子に言いたいことがあるんだけど、恥ずかして言えないので手紙にしました』」
自分が書いたとはいえ、改めて書いたことを聞かされるの恥ずかしいな。
「『沙都子、いつも遊んでくれてありがとう、いつも迷惑かけてごめんね。
沙都子はお金持ちのご令嬢で、私は一般家庭の何の変哲もないただの女の子。
あなたと私は本当は済む世界の違う人間だっていうのに、嫌な顔一つせず遊んでくれて感謝でいっぱいです』
沙都子の可愛い顔が、めっちゃ嫌そうな顔になる。
『嫌な顔一つせず』というのはさすがに言いすぎたか。
「『私はそんな沙都子が大好きです。
これからも一緒に遊んでください。
大好きな君に。
あなたの親友、百合子より』」
沙都子が手紙を読み終える。
そして沙都子は私を見てニコッと笑う。
思いが通じた。
私が勝利を確信したのもつかの間、沙都子は笑顔のまま手紙を破り捨てた。
「ああー。ひどい。一生懸命書いたのに!」
「百合子さん。伺ってもよくてよ、遺言」
沙都子が笑顔を湛《たた》えながら、私に迫ってくる。
やっべ、めちゃくちゃ怒ってる。
「やだなー、百合子『さん』なんて他人行儀。
いつものように呼び捨てにしてよ。友達じゃん」
「心配されなくても大丈夫ですよ。友達ではありませんし」
これは駄目だ。
私は即時撤退を決断する。
「すんません許してください。出来心だったんです」
「嘘おっしゃい。どうせ、モデルが嫌だから、機嫌を取ってなんとか逃げようと思ったんでしょ」
お見通しだった。
沙都子はいつも私の企みを看破する。
「あなたが分かりやすいだけよ」
「え?私ってそんなに顔に出る?」
「うん」
沙都子の言葉に衝撃を受ける。
次から気を付けよう。
「無理だと思うけどね」
だから心読まないで。
「それはともかく、私としては理不尽な要求したわけではない思っているんだけど……
弁償するよりましでしょ」
「それはそうなんだけど、その服がね。可愛すぎると言うか……」
「似合ってるわ」
「いえ、私としてはもっとカッコいい系の服が着たいのです、ハイ」
「なるほど」
沙都子は納得したようにうなずく。
「なら普通にそう言えばいいのに」
「えっ」
「そりゃ、嫌がられるよりは、喜んできてもらった方がいいもの。
セバスチャン、クール系の服持ってきて」
「畏まりました」と言って老齢の執事が部屋を出ていった。
「ありがとう。沙都子、大好き」
私は嬉しさのあまり、沙都子に飛びつく。
「やめて、分かったから離れなさい」
沙都子の力が想像以上に強く、引きはがされてしまう。
私にできる最大限の親愛表現をしたのだが、沙都子のお気に召さなかったらしい。
でもそれじゃ私の気が済まない。
「こんなのじゃ、私の気持ちを伝えることが出来ない。
そうだ、もう一度、大好きな沙都子に手紙を――」
「それはやめて」
沙都子に絶交されそうな勢いで拒否されたので、手紙を書くことは諦めた。
まあ、いつか機会があると思うので、その時に改めて伝えよう。
まったく、沙都子は恥ずかしがり屋さんなんだから。
3/4/2024, 11:10:30 AM