<読まなくてもいい前回のあらすじ>
かつて高ランクの冒険者として名を馳せた主人公のバン。
だが、仲間の裏切られトたラウマからダンジョンに潜れなくなってしまう。
バンの恋人でもある聖女クレアの勧めにより、故郷の村に帰ることとなる。
冒険者の経験を活かし、村で自警団で働いていたバン。
しかしある日、誰も踏み入れたことのないダンジョンを発見する。
そのダンジョンを前に、バンは過去のトラウマを振り切り、クレアと共にダンジョンへ踏み込むのだった
<本文>
「ラブ&ピース」
そう叫びながらクレアは持っていたメイスでモンスターを叩き潰す。
「ラブ&ピース、ラブ&ピース」
叫ぶたびにモンスターたちの儚い命は消えていく。
彼女が潰していくモンスターは、並みの冒険者では歯が立たないほど強いのだが、彼女は歯牙にもかけていなかった。
「ラブ&ピース、ラブ&ピース、ラブ&ピース」
追い詰められていくモンスターの目には恐怖が宿る。
モンスターに特別な感情は無いのだが、さすがに一方的に虐殺される彼らには同情を禁じ得ない。
「ラブ&ピース……ふう、コレで最後ですね」
クレアは息も切らさず、こちらに笑いかける。
聖女と呼ばれるだけあって、彼女の笑顔は何も知らない純真で無垢な少女のものであり、彼女の前では犯罪者すら悔い改めることだろう。
だが忘れてはいけない。
彼女は先ほどまでモンスターを虐殺した張本人である。
返り血一つ浴びていない彼女の姿に、神聖さを通り越して恐怖を感じるほどだ。
高ランクの冒険者の自分よりも、格段に強いのはどういうわけだろうか?
一度聞いてみたことがるが、『神の恩寵です』と言っていた。
意味が分からない。
「どうしましたか?」
彼女が心配そうな顔でこちらを伺う。
「……いや、毎度のことながら頭が痛くなる光景だと思ってな。その光景を繰り広げた聖女とは一体何なのかを考えている」
「バンさんはいつもそう言いますよね。聖女とは、愛を与え心を平和に導く存在なのです」
クレアは胸を張って力説する。
だが俺の心は平和どころか、すさまじく荒んでいた。
「モンスターには与えないのか?」
「まさか!この世界に生きとし生けるものすべてに愛を与えるのが私の使命です。さきほどの行為も、愛を与えているだけなのです」
どうやらクレアのスイッチが入ったようだ。
「いいですか。モンスターは邪悪な存在です。だからといって救いを与えるに値しない存在でもありません。私は彼らに愛を与え、浄化することによって聖なる存在へと生まれ変わらせるのです。そして――」
クレアは一度息を吐き、大きく息を吸った。
「私はそれができるから、聖女と呼ばれるのです」
「絶対違う」
「これは愛です。平和のためなのです」
俺のツッコミなど意に介さず、彼女の演説は続く。
こうなったら、話長い。
ぶっちゃげ興味もないし、聞き飽きたんだよな。
かくなる上は……
「あ、モンスター」
「また生き残りがいましたか!ラブ&ピース」
クレアは、俺が適当に指さしたほうに向かって走り去っていく。
どうやら危機は去ったようだ。
ようやく俺の元に平和が訪れる。
ため息をつきながら、壁に寄りかかる。
彼女の言説は正直信じていない。
だがクレアは、俺の荒み切った心に、愛と平和をもたらしてくれた。
彼女には感謝しても仕切れない恩があるのだ
だから少しは応援してもいいと思っている。
難しいことは分からないけど、いつの日か彼女は世界を愛と平和で満たすだろう。
俺はそう確信するのだった
3/11/2024, 9:59:30 AM