俺の家には、開かない扉がある。
俺の家は、婆ちゃんが子供のころから住んでいる古い家だから、開かない扉はいくつかあったりする。
でもその扉は少し変わっていて、外からコンクリートで埋められている。
母さんが生まれる前かららしい。
婆ちゃんに『格好悪いから、内側も埋めたら?』と言ったけど、風水がどうとかで埋めないと言われた。
そんな扉だけど、もともとは裏庭に出るのに使われていたらしい。
だけどある時、古い家なので改装工事をするってときに、工事業者がうっかりコンクリで埋めてしまった、とは婆ちゃんの言。
でも俺は信じていないし、母さんも他の家族も信じていない。
だってそんなことある?
扉をコンクリで《《うっかり》》埋めるてしまうって……
俺はコンクリートの事は知らないけれど、そんなことになったら普通は『元に戻せ』ってなる。
でも、今でも埋まったまま。
婆ちゃんに聞いてもはぐらかされる。
でも、俺知っているんだ。
たまにあの扉のドアノブがカチャカチャ動いているのを……
誰かが扉の向こう側から扉を開けようとするんだ。
扉の向こうはコンクリートで埋まっているっていうのに……
でも開かない。
だって片側がコンクリートで埋まってるから……
誰が扉を開けようとしているのか……
婆ちゃんに聞いてみたけど、やっぱりはぐらかされる。
母さんもよく知らないらしい。
でも埋めた理由はなんとなく分かる。
悪いものがやってくるとか、多分そんな感じ。
もしかしたら悪い物じゃないかもだけど、どっちにしても都合が悪いから埋めたのだろう。
今朝も顔を洗いに行こうと洗面所に行くと、物音に気付いた。
見れば、また誰かがドアを開けようとしていた。
でもドアは開かない。
やがて諦めたのか、ドアノブは動かなくなる。
俺は動かなくなったドアノブを確認して、洗面所に向かう。
今回も特に何も起こらなかった。
おかしなことの無い、平和な朝。
何の変哲もない、いつも通りの一日。
今日も平穏な日常が始まる。
<読まなくてもいい前回のあらすじ>
かつて高ランクの冒険者として名を馳せた主人公のバン。
だが、仲間の裏切られトたラウマからダンジョンに潜れなくなってしまう。
バンの恋人でもある聖女クレアの勧めにより、故郷の村に帰ることとなる。
冒険者の経験を活かし、村で自警団で働いていたバン。
しかしある日、誰も踏み入れたことのないダンジョンを発見する。
そのダンジョンを前に、バンは過去のトラウマを振り切り、クレアと共にダンジョンへ踏み込むのだった
<本文>
「ラブ&ピース」
そう叫びながらクレアは持っていたメイスでモンスターを叩き潰す。
「ラブ&ピース、ラブ&ピース」
叫ぶたびにモンスターたちの儚い命は消えていく。
彼女が潰していくモンスターは、並みの冒険者では歯が立たないほど強いのだが、彼女は歯牙にもかけていなかった。
「ラブ&ピース、ラブ&ピース、ラブ&ピース」
追い詰められていくモンスターの目には恐怖が宿る。
モンスターに特別な感情は無いのだが、さすがに一方的に虐殺される彼らには同情を禁じ得ない。
「ラブ&ピース……ふう、コレで最後ですね」
クレアは息も切らさず、こちらに笑いかける。
聖女と呼ばれるだけあって、彼女の笑顔は何も知らない純真で無垢な少女のものであり、彼女の前では犯罪者すら悔い改めることだろう。
だが忘れてはいけない。
彼女は先ほどまでモンスターを虐殺した張本人である。
返り血一つ浴びていない彼女の姿に、神聖さを通り越して恐怖を感じるほどだ。
高ランクの冒険者の自分よりも、格段に強いのはどういうわけだろうか?
一度聞いてみたことがるが、『神の恩寵です』と言っていた。
意味が分からない。
「どうしましたか?」
彼女が心配そうな顔でこちらを伺う。
「……いや、毎度のことながら頭が痛くなる光景だと思ってな。その光景を繰り広げた聖女とは一体何なのかを考えている」
「バンさんはいつもそう言いますよね。聖女とは、愛を与え心を平和に導く存在なのです」
クレアは胸を張って力説する。
だが俺の心は平和どころか、すさまじく荒んでいた。
「モンスターには与えないのか?」
「まさか!この世界に生きとし生けるものすべてに愛を与えるのが私の使命です。さきほどの行為も、愛を与えているだけなのです」
どうやらクレアのスイッチが入ったようだ。
「いいですか。モンスターは邪悪な存在です。だからといって救いを与えるに値しない存在でもありません。私は彼らに愛を与え、浄化することによって聖なる存在へと生まれ変わらせるのです。そして――」
クレアは一度息を吐き、大きく息を吸った。
「私はそれができるから、聖女と呼ばれるのです」
「絶対違う」
「これは愛です。平和のためなのです」
俺のツッコミなど意に介さず、彼女の演説は続く。
こうなったら、話長い。
ぶっちゃげ興味もないし、聞き飽きたんだよな。
かくなる上は……
「あ、モンスター」
「また生き残りがいましたか!ラブ&ピース」
クレアは、俺が適当に指さしたほうに向かって走り去っていく。
どうやら危機は去ったようだ。
ようやく俺の元に平和が訪れる。
ため息をつきながら、壁に寄りかかる。
彼女の言説は正直信じていない。
だがクレアは、俺の荒み切った心に、愛と平和をもたらしてくれた。
彼女には感謝しても仕切れない恩があるのだ
だから少しは応援してもいいと思っている。
難しいことは分からないけど、いつの日か彼女は世界を愛と平和で満たすだろう。
俺はそう確信するのだった
俺は恋人のクレアと共に故郷の村に戻っていた。
冒険者になると言って出たっきり、十年ぶりの帰宅である。
不安だったが家族から熱烈な歓迎をされ、母親には号泣された。
その時の罪悪感は半端なかった
今は冒険者だった経験を活かし、警備団で村の警備をしている。
冒険者みたいに緊張感でひりつくことは無いが、静かな村の警備ものんびりして悪くない。
あの頃は思いもしなかった未来だけど、今の生活に後悔は無い。
十年前の自分は若かった。
あの頃はお金がすべてだと思い、お金を稼ぐため村を飛び出したのだ。
『お金より大事な物なんてない』と本気で思っていた。
冒険者になってからは、お金を稼いで稼いで稼ぎまくった。
世界を巡り歩き、いくつものダンジョンを制覇した。
その功績で、俺の名前は広く知られ、お金も使いきれないほど稼いだ。
とても充実していた。
だが天狗になった俺は、自分を妬むやつがいることに気が付かなかった。
、最終的に仲間に裏切られ、ダンジョンで置き去り。
さすがの俺も死を覚悟した。
そこをお人よしの聖女に出会い助けてもらった。
いろいろあったが、今や最愛の恋人である。
コイツのおかげで、まあ『お金と同じくらい愛は大事だ』くらいには思うようになった。
だがあの出来事がトラウマとなり、ダンジョンには潜れなくなってしまった。
ダンジョンを前にすると足が竦むのだ。
そこで恋人の勧めで、故郷の村でスローライフを送ることになった。
故郷の村は心の傷を癒すのに最適だと。
懐かしき過ぎ去った日々。
いつものように周辺の警備をしていた時のこと。
警備団のリーダーがこちらに向かって走ってきた。
息を切らせながら走ってくる様子を見るに、ただ事ではない。
「何かあったのか?」
「おい、昨日まで無かった洞穴がある。ちょっと見てくれないか?」
村の自警団のリーダーに乞われ、その洞穴とやらを見に行く。
「これは……」
見て驚いた。
ダンジョンである。
しかも、生まれたばかりの。
ダンジョンの生成は謎が多いが、分かっていることは一つ。
この中に財宝が眠っている。
自分の中の過ぎ去った日々がささやく。
「行こう」と。
リーダーに振り向く。
「ダンジョンだ。モンスターが出てくかもしれないから、中に入って一度調査すべきだな」
「だけど、この村にダンジョンに潜れる奴なんて……まさか」
「ああ、俺が行く」
「無理だよ。あんた、ダンジョンに入れないんだろ?」
「大丈夫だ。治った」
クレアは、故郷に帰れば心の傷は治ると言っていたが、まさかこんなカタチで治るとはな。
あいつのお気楽思考でも、この展開は想像できなかったに違いない。
ああでも、一度帰って準備しないとな。
クレアは付いてくるだろうか?
『ほっとけない』と言って付いて来るんだろう。
あー、母親がまた泣くなあ。
どう説得するかね。
その時に考えよう。
そして今ならわかる。
『お金が全て』なんてあり得ないと。
なんて思い違いをしていたのか……
お金より大事なもの、それは未知への好奇心《スリル》。
この中には何が待っているのだろうか?
潜る前から気分が昂って仕方がない。
さあ、冒険の始まりだ。
『お金より大事なものがある』
冒険者になると言って村を出る時、家族に言われた言葉だ。
昔、流行った言葉らしい。
あくまでもお金というものは道具の一つであって、それで命を賭けるのは馬鹿のすることだと。
ましてや、それで命を蔑ろにするなんて、もっての外だと。
言いたいことは分かる。
冒険者は命がけでダンジョンにもぐり、そこで手に入れた財宝を売って、お金を稼ぐ職業だ。
だがダンジョンは危険が多く、そこで死ぬ奴も多い。
そんなこと分かり切ってはいる。
それでも俺は言ってやる。
お金より大事な物なんてない。
お金さえあれば何でもできる。
強い武器や防具も買えるし、強力な魔法を習得することもできる。
遠くの場所へ行くときも、お金さえあれば一瞬だ。
怪我をしてもお金があれば直せるし、死んでも蘇生魔法がある。
もちろんお高いけども。
もっとお金があれば、立派な家が建てられる。
いい服を着ることだってできる。
おいしいものだって食べさせられる。
それも全てが、お金さえあれば出来るのだ。
家族の手紙で母親の病気が治ったと聞いた。
俺の送ったお金で、いい医者を呼んだらしい。
お金さえあれば何でもできることを分かってもらえたと思ったのだが、手紙には『お金なんていいから、帰ってきて一緒に暮らそう』の一文が書いてあった。
まだお金の正しい価値に気が付いていないらしい。
いつか、お金が全てだと気づいてくれるといいのだが。
そして今日もお金を稼ぐため、ダンジョンへもぐる。
同じ志を持つ仲間ともに、高難易度のダンジョンへ。
リスクが高いほど、リターンも大きい。
Money is all.
お金さえあれば全て思い通りだ。
見てください。
月の灯りで照らされる草原に、一つ動いている影があります。
これが何か分かりますか?
そうニンジャです。
これはニンジャが草原をかける様子を捉えた貴重な映像です。
皆さんはニンジャのことどれくらい知ってますか?
知っているようで知らないニンジャのこと。
いまからお勉強しましょう。
『月夜を駆けるニンジャ』
♪ニ・ニ・ニ♪
♪『日本人が来た』♪
(タイトルコール)
今回のテーマは『ニンジャ』。
ニンジャ、実は我々ヒトの親戚です。
難しい言葉で言うと人類は、哺乳(ほにゅう)類霊長目ヒト科です。
これに対して、ニンジャは哺乳類霊長目ニンジャ科になります。
かなり近いですね。
歴史を勉強するとき、ヒトは猿が祖先と言われたことでしょう。
ニンジャも祖先は同じ猿なんです。
ですが、ある時から昼に活動するものと、夜に活動するものが出てきました。
始めはどうにか一緒に暮らしていたようなのですが、生活リズムが合わないので、やがて昼に活動するグループと、夜に活動するグループに別れてしまいました。
この昼に活動するグループがヒト、夜に活動するものがニンジャの祖先だと言われています。
ですからニンジャは、明るいところには出てこず、専ら暗くなってから行動を開始します。
夜行性なのです。
でも夜は危険がいっぱい。
その危険から身を守るため、忍術という他の生物には見られない武器も獲得しました。
いやあ、生命ってすごいですね。
この忍術を使って、日本中に大きく生息圏を広げていきました。
ですが最近は、ヒトの文明が著しく発達し、夜でも明るいところが増えました。
ニンジャは明るい場所を嫌います。
そのためニンジャは急速に数を減らしてしまい、野生のニンジャは絶滅の危機に瀕していました。
ニンジャを絶滅させるわけにはいかない。
そう考えたヒトたちがいました。
そこでニンジャの個体数を増やす試みを思いつきます。
内容は危険のないヒトの飼育下でニンジャを育て、十分に力を付けさせてから野生に返す。
そしてニンジャの住みやすい環境を整える。
そうすることで、ニンジャの個体数を増やし、絶滅を避けようとしたのです。
この活動が身を結び、今では伊賀と甲賀でたくさんのニンジャを見ることが出来ます。
ニンジャの保護活動を行うヒトたちには頭が上がりませんね。
ニンジャが好きなヒトがいる限り、日本からニンジャがいなくなることは無いでしょう。
これかもニンジャには目が離せませんね
次のテーマは『サムライ』。
明治維新の時に起きた戦争で絶滅してしまった侍。
その侍をDNAで復活させる?
それって本当に可能なの?
次回『日本人が来た』は「サムライカムバック」。
侍復活プロジェクトに密着します。