自分の体の調子が良くなってくると、ついに冬が始まったと心の中でガッツポーズする。
私は夏のあの暑さが大ッッ嫌いであり、夏など無くなればいいと思う。
あの暑さは、呪いのように私の体を蝕み、体力を常に消耗させ、頭のキレを鈍らせる。
ふつうの人は汗をかいて対抗するけれど、私は体質なのか汗があまり出ない。
出る頃には最早手遅れである
私の体は空冷式なのだ
しかし冬は違う
冬の寒さは、体の熱を取り去ってくれる。
体は羽のように軽く、頭のほうも雲ひとつ無い青空のようにクリアなのだ。
そして冬は暖かい食べものにボーナスがつく
肉まん、ホットコーヒー、鍋、出来立ての料理
ああ、そうだ、イチゴも美味しくなる
すべてが素晴らしい
そしてイベントが目白押し
クリスマス、正月、バレンタイン
これから楽しみだ
なので私は、冬のはじまりを祝福したいと思う。
みんな、冬をもっと評価すべきだ
冬をもっと讃えよ
私の熱くなったハートが訴える
冬、万歳
「はあ、このイベントも今年で終わりか」
「仕方がない。だって人来ないもの…」
そう言って彼女は周囲を見渡す。
人はまばらで、俺たちがサボっても、文句を言う客はいない。
俺と彼女は何年もイベントの実行委員で参加していて、サボる要領がいいのもあるのだが…
町おこしで大大的に宣伝し、初めは客がたくさん来たものの、次第にいなくなった
まあ善戦したほうだろう
「終わらせないで、ってお願いしたら来年もやらないかな」
「ないだろ。こんなんでもカネがかかるんだ。予算が降りない。次はないよ」
そういうと、彼女は少し考えて、
「じゃあ、君と私の自腹で!」
「なんでだ」
「いいじゃん。美少女と一緒にいられるんだよ」
「自分で美少女っていうな」
「なんで終わってほしくないんだよ」
「君と一緒に居たいからかな。楽しいし、終わらせたくないんだよ」
彼女の言葉にちょっとドキッとする。
それでも、今年で彼女とはお別れだ。
俺は動揺を隠しながら彼女を諭す。
「あのな、何事にも終わりがあるんだよ。でも悪いことじゃない。終わるからこそ、新しいものが始まる。そうだろ?」
「…なに言ってんの?」
「俺今いいこと言ったよな」
全然響いてなかった。
「終わらせて始める、ね」
彼女は小さな声でつぶやく。
「じゃあ、パアーっと終わらせますか」
「何を?」
「それはもちろん!」
彼女は俺の正面に向き直る。
「友達同士の関係を終わらせて、私と恋人関係を始めませんか?」
そう言い切ると彼女は笑った。
「恋人関係は終わらせないで、ね」
私はイチゴを愛情込めて育てている。
私はアパートに住んでいて庭がないので、ベランダで育てている。
最初は育つのだが、イチゴがならなかったり、枯らしたりして大変だった。
でも水やりの頻度、日当たり風通しなどが分かってきたときくらいから、大きなイチゴを付けてくれるようになった。
今では見るだけで調子がわかるようになった
これを、愛と呼ばずしてなんと呼ぼう!
込めた愛情を返してくれたのだ、というほど私はロマンチストではない
多分、イチゴはいい感じの水といい感じの土、いい感じの日当たりで自分のしたいことをやっているだけなのだ。
私という存在を認識しているかすら怪しいものである
ならばイチゴのしたいことはなんだろうか
赤いイチゴという魅惑の果物を作り、他の存在に恵みを分け与える
それは実に慈悲深く、愛に溢れた行為だ
もしかしてイチゴは、私よりずっと愛情深い存在なのかもしれない
「懲りないねぇ。今回は誰にお熱なの?」
「サッカー部の杉咲くん」
そう言われて、私は杉咲の顔を思い出そうとする。
「駄目だ。思い出せない。誰よ、杉咲って」
「幽霊部員だからね」
「それ、サッカー部って言っていいのか?」
「試合しか出ないの。数合わせで入ってるだけだし」
「もう一度言うぞ。それサッカー部って言っていいのか?」
このまま続けても不毛そうなので話題を変える。
「なんで好きになったの?」
「んふー。弟が近くの小学生野球チーム入ってるんだけど、杉咲くんがそこで野球教えてるの」
「まさか本当にサッカー関係無いとは…」
「でね。弟に杉咲くんが教えるんだけど、その時の杉咲くんの表情、とってもカッコいいんだ」
「へぇ~」
「ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ」
もちろん聞いているとも。
私はこの子の恋バナを聞くのが好きなのだ。
でも恋バナが好きって訳じゃない
この子の持っている熱が好きなのだ。
恋に興味がない私にさえ、いいかもと思わせるくらいの熱量。
熱が無い私に、彼女の熱が伝わる感覚。
結構気に入っている。
そうして何回も聞いていると、私の中にも熱を感じるようになった
彼女に比べたら、なんてこと無い微熱くらいの熱
気づいた時はびっくりしたけど、悪い気はしない
ちょっとだけ、恋してみようかな
暑い
それが外に出たときの感想
ジリジリと照りつける太陽のもと、道を歩いていく
暦上は冬だと言うのにこの暑さはなんだろう。
道行く人々は大量の汗をかき、ミイラになって転がっているやつもいる。
気温計を見れば、今の気温は100度。
ふざけてる
おれは暑いのが大嫌いだ
たとえお天道様が許しても俺が許さない
ま原因はお天道様なんだけども
だとしたら倒すべきは太陽。
今すぐ破壊しなければ
俺は、持っていたミサイル発射装置を押し、太陽に向かってミサイルを発射。
太陽を破壊に成功する
やった
だが未だに暑いのが消えない。
なぜだ
なぜこんなにも暑いんだ
俺は思わず飛び起きる
自分の体は汗でびっしょりだった。
思わず空を見上げると未だに太陽がある
馬鹿なと思ったが、頭が徐々に覚めてきてあれは夢だと言うことに気づく
そうだ
天気がいいからと言って庭でぼーっとしていたのだが、いつの間にか寝ていたらしい。
しかも太陽は高い位置にあり、一番気温の高い時間帯だ。
汗もかくはずだ。
着替えるために一度家に戻ろう。
部屋に入ってから、もう一度太陽を見る
やっぱり暑すぎるので、一度破壊すべきでは?