俺は自分の衣装箱を漁っていた。
昨日、彼女との会話で
「寒くなってきたね。去年あげたセーターまだ持ってる?あれ、一緒に着てペアルックしようよ」
と言われ、セーターを探している。
愛する彼女の願いに、俺は断るすべを持たない
しかし、おかしなこと仕舞ったはずのセーター見当たらないのだ。
愛する彼女からもらったセーターを捨てるわけがないのだ。
それに加え、仕舞い込んだはずのヒートテック、長袖のシャツ、防寒用上着も見当たらない。
これは異常事態だ。
冬用の衣装が尽くなくなっている。
間違いない
これは妖怪冬着隠しの仕業だ。
メルカリで買った数珠を握りしめ、部屋の中央に立つ。
「妖怪よ。姿を表わせ」
数珠が光り輝き、部屋を光で満たす。
そうして光が収まった部屋には、俺以外に妖怪が立っていた。
そいつは俺のセーターとヒートテックと防寒用上着を着ていた。
犯人は間違いなくコイツだ!
「ちっ。見つかったか」
妖怪はそう言うと、部屋から逃げようとする。
「逃がすか。悪霊退散」
俺は手の持っていた数珠を妖怪に投げつける。
「ぐわー」
数珠が当たった妖怪は悲鳴を上げながら燃え上がる。
「くそ、ただで死んでたまるか」
そう言うと、妖怪は着ていたセーターを粉々に破いて、そのまま、燃え尽きてきた。
「なんてことだ」
俺は膝から崩れ落ちる。
これでは彼女とペアルックが出来ない。
ということにして、彼女に謝ることにしよう。
…怒られるかな
どっちにしろ、セーターは見つからないので謝るしかない
どうやって謝ったものかと考えていると、彼女からラインが来た
「ゴメン。妖怪冬着隠しにセーターをやられた。セーターのペアルックはまたこんどにしようね」
どこまでも落ちていく夢を見て、思わず飛び起きる。
周りはまだ真っ暗だったので、枕元にあるスマホを手に取り、時間を見ると午前2時の真夜中だった。
寝直そうとすると寒い空気を肌に感じた。
おかしい。
エアコンをつけているので寒くなるはずが無いのだ。
寝ぼけ眼をこすりながら、寒さの元をたどると窓が開いているようだった。
しかも閉まりきってなくて少し開いているというのではなく、窓全開である。
寒いはずだ。
寒さの原因は分かったが、ひとつ疑問が残る。
窓が全開で開いていると言うのに、私が今まで寒さを感じないのはおかしい。
つまりついさっき誰かが開けたということだ。
その瞬間、私は背中に気配を感じ、振り返るが誰もいなかった。
念のため部屋を見渡していると、窓の外からドサッという音がする。
何かを落ちたのだろうか?
そう思い外を見ようとして―
さっと横に体をずらす。
すると後ろから私の背中かを押そうとした人影が、勢い余って人影の体半分が窓の外に出る
人影は驚いたようにこっちを向くが、その顔には何もなく完全な闇であるため、私は相手が悪霊だということを確信する。
悪霊は体勢を立て直そうとするが、その前に私は力いっぱい悪霊突き飛ばし、窓の外に押し出す。
悪霊は何か言おうとしたようだが、そのまま下に落ちていく。
ここはアパート十階だ。
悪霊とはいえ、ただでは済むまい。
ここ最近、さっきの悪霊が毎晩窓を開けるので困っていたのだ。
しかし、悪霊は退治したので、寒くなることはあるまい。
私は清々しい気持ちで眠りに落ちていくのだった。
「今日はいい夫婦の日ですよ、あなた」
「いい夫婦の日だと」
妻が衝撃の事実を告げる。
「いい夫婦の日ということは…夫婦でイチャイチャしろということだな」
「そうです。あなた。夫婦でイチャイチャしなければいけない日です」
付けていたままのテレビに総理大臣が映る
「国民の皆様。今日はいい夫婦の日です。繰り返します。いい夫婦の日です。結婚している方、その予定がある方はイチャイチャして下さい。これは国民の義務です」
「義務と来たか。これはイチャイチャする以外に道はないな」
「ではあなた。イチャイチャしましょう」
「ちょっと待ってくれ」
妻が信じられないといったふうに驚く
「あなた、イチャイチャしないのですか」
「いや、イチャイチャする前に渡すものがある。これだ」
そう言って妻に花束を渡す。
「これは…素敵な花束をありがとうございます」
妻はうっとりした顔で花を見つめる。
「ではイチャイチャしようか」
「待って下さい。あなた」
「何、イチャイチャしたいといったのは、お前だぞ」
妻は台所に行き、冷蔵庫から何かを取り出す。
「あなた、これをどうぞ」
「これは―最高級のいちごではないか。食べていいのか?」
「ダメです」
「なんだと」
「私が食べさせます。ほら、あーん」
「仕方がない。あーん」
だがこれは始まりに過ぎない
俺達夫婦のイチャイチャはまだ始まったばかりだ
どうしたらいいの?
今私は究極の選択を迫られています。
でも私には選ぶことができません。
誰か助けて―
――――――――――――――――――
先程、私はお腹に強烈な痛みを覚え、近くにあった公園のトイレに駆け込みました。
それが危機的状況の始まりだったのです。
というのも、その個室には紙がありませんでした。
人間の尊厳の危機です。
紙のようなものが入っていないか、カバンを探りますがありません。
解決方法を考えていると、どこからともなく声がしました。
「赤い紙いらんかね。青い紙いらんかね」
なんてことでしょう。
なんと妖怪、赤紙青紙です。
赤い紙と答えると血まみれになって殺され、青い紙と答えると血を抜かれて殺される、恐ろしい妖怪です。
もちろん私には死ぬ予定はありませんので、答えるわけにはいきません。
だからと言って、尊厳の死は避けたいところ。
背に腹は代えられないため、このまま個室の外に出て予備のトイレットペーパーを取りに行くしかありませんでした。
しかしそこでも問題が起こりました。
なんと人が来たのです。
しかもこのトイレは、個室が一つしかないので、他の個室に入るのを待つということができません。
しかも彼女は個室のドアを開けてくれと懇願するほど、危機が差し迫った方です。
紙を持ってきてくれと頼んでも、彼女はそれどころではなく声が届きません。
そして後ろからは、赤紙青紙声が聞こえます。
もはや猶予はありませんでした。
この状況を解決するには、時間を止めて気づかれない内にトイレットペーパーを持って来るしかありません。
しかし私は時を止めることなどできません。
私はパニックでした。
どうしたらいいの?
誰か助けて―
その思いが天に伝わったのか、神が降臨しました。
「あのー。掃除したいんですけど、どういう状況なのかしら、これ。どうしたらいいの?」
清掃員さんでした。
「紙下さい!」
すべてを察した清掃員さんは、紙を投げ入れてくれ、無事個室から脱出することができました。
また清掃員さんに、妖怪がいることを伝えると鮮やかな手際で除霊されました。
さすがはトイレのプロです。
ドアを叩いていた女性も無事に間に合いました。
私は清掃員さんに礼を言い、その場を去りました。
しばらく歩いてから、ずっと清掃員さんのことを考えていました。
清掃員さんの勇姿が頭から離れないのです。
この気持ち、もしかして恋!?
私、どうしたらいいの?
おい、あんた、助けてくれ
あんた優秀な祈祷師なんだろ
宝物に追われているんだ
え、事情が分からない?
分かった、話すから助けてくれ
俺はトレジャーハンターで世界中を飛び回っている
とある遺跡にお宝がたくさんあると聞いてそこに行ったんだ
そこに行くとすごかったぜ
たくさんの金銀財宝があるんだから
家族に楽をさせられるyて喜んだよ
あまりに多すぎて持って帰れないから、袋に入れるだけ入れて帰ったんだ
帰って持って帰ったお宝を売り払った晩のことだ
ホテルの部屋で過ごしていると、宝石が落ちてたんだ
その時は、袋からこぼれて売りそこねたヤツだと思った
でも違ったんだ
翌朝起きると、床一面に宝石とか装飾品とかの宝物が散らばっていた
気味が悪いんで、すぐに売っぱらっちまった
それで売り払ってから帰ると、また部屋の中に宝石が散らばっていたんだ
朝起きたときよりも
俺は怖くなってそのままホテルを飛び出した
だってあんな気味の悪い場所にいられないからな
すぐに違うホテルに行って、部屋を取った
金ならあるからな
でもそも新しい部屋宝石まみれだった
部屋に一度も入らずにホテルから逃げた
それからどこに行っても宝石があるんだ
どこに行ってもどこに行ってもどこに行っても
宝石があるんだ
でもアンタのことを聞いた
こういう時に助けてくれるって
出来るんだろ
本当か
これで安心して家族と過ごせるよ―
ちょっと待ってくれ
俺に家族なんているのか?
え、あの宝石は俺の宝物のような思い出が、現実にお宝になって出てきたものだって
でも俺宝石売っちゃったし、残りも部屋に置いてきたから、一つも持ってない
それだと、記憶は戻せない
そんな馬鹿な
アンタ助けてくれるって
いやちょっと待て、アンタ誰だ
どうしてここに
何も思い出せない
俺はいったい誰なんだ