東京の真ん中にあるオフィスから地下鉄の駅へと急ぐ
階段を足早に駆け降り、下り電車に滑り込む
これで1つ目のスイッチがoffになる
自宅のある駅へ繋がる電車への乗り継ぎがスムーズにいった
ラッキー!
これで2つ目のスイッチがoffになった
電車に揺られながらたまったメールのチェックをしている間に、外の景色が少しずつ長閑になってくる
華やかな広告のネオンの明かりから、マンションのそれぞれの営みがそこにあろう暖かな灯りに変わってくる
僕の降りる駅ももうすぐだ
僕の街の見慣れた灯りが見えてきた
この灯りを見ると何故かホッとする
「やれやれ…」
ここでため息と共に、3つ目のスイッチがoffになり、体の緊張がほどけるのを感じる
「よし、家まであとひと息だ」
改札を抜けた瞬間目の前に広がる街の景色、灯り、匂い…
半日前にここを通っているのに、
毎日同じ繰り返しなのに、
なのに、なのに…
いつもと変わらない街がいつもの様に僕を迎えてくれる
こんな当たり前のことに、毎回僕は鼻の奥がツン!とするような感傷にひたる
そして僕は完全にoffモードになり
家路を急ぐ
この街が好きだ
『街』
生きることが辛くてたまらない時期があった
生きたくても生きられない境遇の人々が多くいる中で、そんな罰当たりな自分が生きるのは申し訳なくて、ますます生きるのが辛くなった
そんな自分が「やりたいこと」を考えるなんて、そんな資格はないとずっと思っていた
だから、自分の中からすべての欲を排除しようと過ごしているうちに無感情になった
少しずつ生きる喜びを感じられるようになった今、ようやく気がついた
「やりたこと」があるから明日に繋がること
「やりたこと」があるから生きたいと思えること
この世に生を受けた以上、どんな人にも生きる価値があること
今はまだ、はっきりと「やりたいこと」は見えて来てはいない
だから当分は、「やりたいこと」を探すことがやりたいことなのかも知れない
『やりたいこと』
未だ止まぬ戦闘地域での、遠い国の私達から見たら不毛にも思える残虐な争い
その戦下を逃げ惑う子供たちの瞳は恐怖の色に満ち、虚しく宙を泳ぐ
そんな彼らの元にも、等しく夜は訪れ朝日もまた昇る
ただ、夜の暗闇の中でも砲弾は不意に彼らを襲い、その静寂を掻き乱す
そして、新たな1日の始まりを告げる朝日も地下で身を潜める彼らには届かないのだろう
1日も早く夜の静寂が彼らに心からの安らぎを与え、新しい1日の始まりに希望を感じ、そして朝日の温もりを感じることの出来る穏やかな日々が訪れることを願って止まない
『朝日の温もり』
あるサイトとの出会いが私の「岐路」になった気がする
ちょっとした思い付きで、何気ない日常の軽い感じのエッセイをそのサイトに投稿した
すると、ほどなくしていくつものメッセージが届いた
「こういうものを読みたいと思っていました」
「あなたの作品をもっと読みたい」
「素敵な言葉に感激しました」
自分でも思ってもみない出来事に、何か詐欺紛いのものではないか?と疑ったほどだった
文章らしい文章なんて、大学の卒論以来ぐらいのものだし、もちろん自分に文才があるかなどと思ったこともない
もちろん今でも思っていない
ただ、自分の吐き出した呟きや紡ぎ出した言葉が誰かの元に届き、そこで何かが生まれることの気持ち良さを初めて味わった気がした
それまで生きることに必要最低限以外は、あえて外の世界との交流を避けて生きてきた
いざ、交流を持とうと思っても年々厚く増していた外との壁をうち壊す手段を見つけ出せずにいたというのが正直なところだ
ところが、この1本のエッセイが開けた風穴から次々に溢れ出した言葉の数々が、いつしか外への階段となり、「書く」というひとつの手段に力を借りて、拙いながらも今私はこうして自分以外の世界と繋がっている
生きることに意味を感じることの出来なかった自分が、「書く」ことがそのエネルギーを生み出すことに気付かせてくれた、まさにあの日の出会いが、私の「岐路」になった
『岐路』
晶子 「昨日、彼からプロポーズされた…」
さくら 「え~っ!良かったじゃない! 何て、何て?」
晶子 「世界の終わに君と一緒にいたい…だって」
さくら 「…………」
晶子 「そうなのよ! 私もその反応しちゃったのよ… だってさ、世界の終りにって、そんな言い方されると思わなくて…」
さくら 「確かに…」
晶子 「でもね、そこじゃないのよ 私の引っ掛かりは
もし、本当に愛してたら、生涯離れたくないって心底思っていたら、その言葉は死ぬほど嬉しかったはずなのよ……
それなのに、私、退いちゃったのよね…
その事がショックというか、この人重い…って今まで抱いたことの無い感情が咄嗟に出てきたことに驚いたのよ」
さくら 「深層心理に気付いちゃった…」
晶子 「そうなのかも知れない…」
さくら 「彼の反応は?」
晶子 「黙ったままだった…
彼は彼でショックだったみたい
当然喜んでくれると思っていたのに、私がそんな反応しちゃったから…」
さくら 「うわぁ… 想像しただけでその空気ヤバいわぁ で、どうしたの?」
晶子 「ひきつった顔で、冗談、冗談 そんなセリフ言ってみたかっただけだから気にしたいでって
その後は何か気まずくなっちゃって、出直そうか…って」
さくら 「で?」
晶子 「彼からはまだ連絡ないし、私からもしてない 何て言って良いか分からなくて」
さくら 「なるほどね でもさ、好きじゃないとかじゃなくて、まだ結婚の時期じゃないってことなんじゃないの?」
晶子 「そうなのかなぁ? もっと普通に結婚しよう!って言ってくれたら、素直に答えられた気もするんだけど」
さくら 「いや、これで良かったのよ 何となくノリで答えるんじゃなくて、自分の気持ちの深いところと向かい会えたんだから」
晶子 「世界の終わに君と、なんて最悪の言葉だわ」
さくら 「いやいや、これってある意味最高の、リトマス試験紙みたいな言葉かもよ」
『世界の終わに君と』