フィロ

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6/7/2024, 5:32:28 AM

今朝の俺は最悪な夢をみている途中で目が覚めた
もちろん、気分は最悪だった

その夢は、朝いつものバス停からバスを乗るところから始まった
乗ろうとすると、右足にネチョッとした嫌な感触を感じた
ガムだった

「マジか~、朝から最悪だ」
と、この嫌な感触のまま1日過ごすことを考えると気分が滅入った

お尻のポケットに何気なく手が行った瞬間、次の「最悪」に気が付いた
会社のIDパスを忘れたのだ

「やっべぇ~、あれ無いと面倒なんだよなぁ
取りに戻るかぁ? でも、会議に遅れるしなぁ… 本当にツイてないわ」
と益々気分が滅入った


会社に着く前に毎朝同じコンビニに寄ってコーヒーを買うことにしていた
何故かそこのコンビニにしか置いていないマイナーなコーヒーが最近のお気に入りだった

「あれ飲むと気分上がるんだよな♪ ヨシ!気合い入れて気持ち切り替えるか!」
とガムの嫌な感触をあえて楽しむかのように力強く踏み締めながらコンビニの中へ入った

「えっ?! 何で、何で? あのコーヒー1本も無いじゃん! 今までそんなこと無かったじゃん 他のが売り切れでもこれが無いなんてこと無かったじゃん」

そこには貼り紙がしてあり、
「商品の製造行程に不具合が見つかり全品回収になりました」
とあった

「そんなことある~? 今日に限って? 他の日ならまだしも、今日の俺にはアレが必要なんだよ~! 本当に、ホトホト今日はツイてないんだな…」


最悪に最悪が重なり、地面にまでのめり込みそうな気分で会社へ向かおうとすると、携帯が鳴った

「お前、今どこにいるんだよ?」

と同僚からの慌てた声が聞こえた
「もう、とっくに会議始まってるぞ!お前今日はプレゼンだよな?」

「えっ?だってまだ時間じゃ…」

「メール見てないのかよ?1 時間繰り上がったんだよ」

「そ、そんな… 直ぐ、直ぐに行きます!!」

何でなんだよ!これが最悪中の最悪じゃんか!
どうなってんだよ、俺?

と何が何だか分からず気が動転しながら慌てて横断歩道を渡った
もう何も聞こえず、何も見えなかった

もの凄い衝撃だけが体に伝わった



「何だよ、夢かぁ それにしてもすんごいリアルだし…
こんなに最悪な気分の夢は参るよなぁ」


あれ、あそこで寝てるのは俺か?
何してるんだよ、家で寝てたはずだろ?
それに、何で俺が俺を見てるんだ?



「先生、この患者意識戻りますかねぇ」

「かなり厳しいだろうな…
ダンプにぶつかったんだろう そのまま逝かなかった方が不思議だよ」

「そうですよね 身元もまだ分からなくてご家族に連絡も出来ないんですよ
携帯も破損してしまっていて せめて会社のIDとかあったら良いんですけどね」

「履いてた靴がさっき届きましたけど、靴裏にガムが貼り付いていて… なんかちょっとぐっと来ちゃいましたよ…
こんな最悪がまだ待っていたなんてね…」






『最悪』

6/5/2024, 10:36:17 AM

誰にも言えないから、言わないから「秘密」って言うんだ

誰かに打ち明けたり文字にして伝えた途端、それは「秘密」ではなくなるよ

例えそれが、こういう場所だとしても…


分かるかな?
「秘密」を打ち明けられないって言ってるんじゃないんだ

打ち明ける1歩手前までは「秘密」だけど、それが自分から出た瞬間「秘密」ではなくなるから、それを表情するのは不可能なんだよ






『誰にも言えない秘密』


6/4/2024, 10:31:51 PM

ここは私の部屋
細長くて狭いけど、知名度も価格も高い都心の一等地

部屋に面した通りは多くの人々が行き交い、そこには昼には昼の夜には夜の全く別の、それぞれに魅力に溢れた街が広がっている

そこを行き交う人々は私の美しい部屋に憧れや羨望の眼差しを向け、私もまたその視線に喜びを感じている


その私の部屋は私が望まなくても常に美しく整えられ、季節感いっぱいに彩られている
そして、私自身も少し季節や流行を先取りした完璧な装いに身を包み、少し物憂げな表情をあえて浮かべ人々の眼差しを誘う


こんな恵まれた環境でこれ以上何を望むの?


確かにその通りだけれど、
この狭い部屋が私の世界のすべて

この部屋を飛び出して、私だって皆と同じ様に笑いあったり恋もしたい



でも、それは無理…


そう、私は銀座の真ん中の、あの有名なショーウィンドウの中のマネキンだから






『狭い部屋』



6/4/2024, 3:48:36 AM

~長年恋愛ドラマの帝王と言われ、還暦を過ぎた今も尚出演のオファーが後を絶たないスター俳優のインタビューに来ている~


記者 「早速ですが、田川さんは恋愛ドラマには欠かせないという地位に君臨され続けておられますが、やはりそれはご自身の経験が生かされていらっしゃるのでしょうか?
実際に恋の噂は絶えないようですが…」

田川 「僕はね、共演した女優さんに本気で恋するの
クランクインしたその日から、頭の中はその彼女のことで一杯になって、寝ても覚めても彼女のことばかり考えるようになるのよ
だからね、お相手の女優さんも僕に夢中になるわけ
だから、撮影中は相思相愛なわけよ
演じようとしなくても、そのまま彼女への思いを表しているだけなのよ」

記 「そうなんですか! だからあんなに自然なんですね そして、その自然な田川さんの振る舞いに世の女性はメロメロになるわけなんですね」
「失礼なことをお聞きしますが、田川さんご自身は失恋のご経験は?」

田 「撮影がクランクアップを迎えるでしょ? それまであんなに熱い瞳で僕を見つめていた彼女達が、まるで魔法が解けたように一気に熱が退くのよ
そして、僕は失恋するのよ、毎回ね(笑)
そしてまた次の出演以来が来て、また僕は恋をするわけ
そんな度重なる失恋が僕を育ててくれたのね
(笑)」

記 「なぁるほど~ そんな恋愛の積み重ねが田川さんの魅力を深めているのですね! でも、それだとご家族は大変ですね」

田 「僕の奥さんは、初めて共演した女優さんだったのね でもね、僕が毎回共演女優さんに本気で恋しちゃうもんだから、可哀想になっちゃってね ほどなくしてお別れしましたよ」

記 「もうご結婚はなさらないのですか?」

田 「そうねぇ、出演のお話が来なくなって、この世界を去ることになったら、最後の恋をしますかねぇ 二度と失恋をしない恋をね」


と、そのまだまだ色気の溢れる涼やかな目で
茶目っ気たっぷりに微笑んだ

こんな魅力的な男に最後に愛される女は果たしてどんな人なのか…
仕事を抜きにしても知りたくなった

そして彼を失恋させる最後の女優は誰だろう…
記者魄が疼く






『失恋』


6/2/2024, 11:31:30 PM

A 「人間関係で一番大事にしてることって何?」

B 「嘘をつかない、ってことかな」

A 「正直でいるって本当に大事なことよね
でも、嘘をつく ことと、本当のことを言わない とは少し違う気がする」

B 「どういうこと?」

A 「嘘をつくというのは事実ではないことを言うということでしょ?
でも、本当のことを言わないというのは、嘘も言ってないのよ
この事を相手に伝えたら傷ついたり、気分を害することが分かっている時は、あえて言わない選択も必要でしょ?人間関係をスムーズにするには」

B 「確かに、思ったことを全て口にしたらかえって人間関係を壊すわよね(笑)」

A 「それはバカ正直って言うのよ(笑)」

B 「相手を思いやっての優しい嘘もあるしね」

A 「どんなことにも思いやりが必要ということよね
思いやりを持って、その上で正直でありたいものよね」

B 「それ、大事!」







『正直』


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