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8/2/2024, 8:25:59 AM

窓から見える、晴れ渡った空に浮かぶ雲。
少し視線を下にずらせば、わらわらとランドセルを背負った低学年の子が出てくるのが見える。

今は、6時間目だ。
黒板にはつらつらと白文字が並んでいる。細い棒を持った先生がこつこつと黒板を叩いているけれど、もごもごと口ごもっていて正直よく聞こえない。
お経みたいな先生の言葉は耳を右から左に通り抜けて、欠伸を呼ぶだけだった。

私はひとつあくびをすると、ノートへと目を落とす。
明日もし晴れたら、何をしようか。
近くの大きな公園を散歩するのもいいかもしれない、それとも親友の美咲とショッピングにでも行こうか。

最近できたというアイスのお店はいわゆる、映えというやつで、せっかくなら青空の元で写真も撮りたい。
それか、お母さんと一緒に庭の水やりもいいかも。愛犬のポチと一緒にドッグランに行ってもいいな。
想像はむくりむくりと膨らんで、思わず笑みがこぼれた。

その時だ、先生が私を当てたのは。

教科書すら違うページを見ていたのだ、当然、答えることができなかった。
くすくす、と周りの子たちが笑う声が聞こえる。

そんなこと言ったって授業がつまらないのが悪いのに、そう言いたい気持ちを抑えて私はしおしおと席に着く。
美咲と目が合った。気の毒そうな顔で小さく拳を握っている。
ドンマイ、ということなんだろう。
決めた、明日はやっぱり美咲とショッピングに行こう。
そして、先生のことをたっぷり愚痴ってやるんだから。

7/25/2024, 2:16:41 PM

鳥かごに詰めたはずの青い鳥。昔、森に住む魔女からもらった、空色の羽が美しい綺麗な鳥。
堅く鍵をかけたはずなのに、気づけばいつの間にかいなくなっていた。
鳥かごを手に一生懸命に呼び回っても声すらも聞こえない。仕方がないから色々な鳥を詰めた。でも何が悪いのか、すぐに死んでしまう。

ある日、鳥かごに押し込んだ黒い鳥がしわがれ声で言った。持っているものを見ない人間に青い鳥は似合わない、と。
あの青い鳥は、私を幸せに導くという鳥だったのだ。それを探し求めて何が悪いのか。私はむっと口を引き結ぶ。

幸せを求めるのがそんなに悪いことなの?それにあれは元々私のものだったのよ。
私の言葉に、黒い鳥は話にならない、とばかりに羽を震わせる。そして、一声鳴くと空へと飛び立っていった。どうせ黒い鳥だ、逃したって惜しくもない。

空っぽの鳥かごを覗くと、そこにはなぜか青い羽根が落ちていた。ずっと探していたあの綺麗な青だった。
私は慌てて窓に駆け寄った。黒かったはずの鳥の羽が抜け落ち、鳥はあの美しい空色に変わっていた。
鳥は一瞥もせず空へと舞い上がる。伸ばした手ももう届かない。
私は青い鳥を逃がしてしまったのだ。幸せを追い求めすぎるあまりに、手にしていた青い鳥に気がつかなかった。
嘆く私の上を通り過ぎ、青い鳥は遠い空へと去っていった。ただ空を見上げ咽び泣くことしかできなかった。

7/17/2024, 8:10:41 AM

空を見上げた。今日は曇り空だ。
空を見上げて思い浮かんだことを書け、なんて宿題が出たけれど、何も思い浮かばない。
強いて言えばあそこだけ雲がちぎれて光が見えているなとか、思っているよりも平たい雲だな、とかそんなことだけだ。
先生はきっと、子どもながらの豊かな感受性とやらに期待したのだろうけど生憎僕はそんなもの持ち合わせていない。想像を膨らませれば、おとぎ話のような話を作ることはできるかもしれないけれど、なんとなく気分じゃなかった。
生ぬるいジュースが喉を通り過ぎる。
宿題、どうしよう。
ぼんやりと空を見上げたまま、そんなことを呟いた。

7/13/2024, 2:42:18 PM

これまでずっと隠していた。
私、本当は貴方が嫌いなの。なのに、私と会う度顔をくしゃくしゃにして笑って。私の愛してるわの言葉に頬を染めて、貴方って本当にバカなのね。
私の作ったご飯を美味しい美味しいとぱくついて。私が毒を盛っていたことも知らずに。だけど、こんな日々ももう終わりだわ。

カラン、とフォークの落ちる音。貴方は口元を押さえている。ああ、ようやくこの時が訪れたのね。
私からあの人を奪った貴方を私は許さない。
椅子ごと床へと倒れ込む貴方。もう息もしていない。

腹の底から笑いが込上げる。やった、やった、とうとうやったのね。あの人の仇をとってやった。

それなのに。

おかしいわ、どうして涙が止まらないのかしら。
後から後から貴方と過ごした日々が思い浮かんでは流れていく。初めて作った不格好な料理を美味しいと褒めてくれたこと、窓から見えた星に目を輝かせていたこと。危ないからと2人で暗い夜道を手を繋いで歩いたこと。
どれもどれも思い返せば、貴方からしか得られない素敵な思い出だった。

ああ、なんてこと。私、貴方を愛していた。
愛してしまったのよ、罪深いことに。
あの人を忘れられないままに貴方を愛し、そして……。

倒れ伏した体はどんどん冷たくなっていく。
ああ、もう、元には戻らない。
二度も愛した人を失うなんて、馬鹿は私の方だったわ。

眠りについた貴方の開けっ放しの目を閉じる。そして、踵を返して暗闇へと消えゆくの。きっと明日になれば誰かが見つけるわ。貴方は近所の人気者だったもの。カツン、と鳴り響くヒールの音。視界に広がるのはただの黒。
星の灯りすらない夜道は私への罰だった。

7/6/2024, 3:33:33 AM

天の川きれいだね、そう言って天高く光る星の川を指さしたのはいつの事か。
あの時から約数十年。自分もすっかりくたびれたおじさんになってしまった。
夜遅く、自分と同じくすっかりくたびれたスーツを肩に引っ掛けて会社を出る。
ふと見上げれば一面に広がる星空。あの時となんら変わらない星の川がそこにあった。
しばし立ち止まってその白銀の星々を眺める。
時間とともに輝きを失った自分とは違って、星たちはあの時のままの輝きを保っていた。
「……帰るか」
そう、呟いて背を向ける。郷愁に浸るにいささか歳をとりすぎてしまったのだ。

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