Herz Meer

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5/13/2025, 4:37:44 PM

仕事終わりに会社を出て、彼女の元へ向かう。お団子にしていた髪を解いて、ネックレスと、リングを外して。今日は焼肉でも食べようと話したから、ベルトも緩めておく。
後輩に譲った割引券、貰っとくんだったな。

音と光に溢れている夜の街はやはり苦手だ。酒に酔った大人が、自分に酔った子供が、人に酔った私が、気持ち悪い。
あぁ、不思議だ。混ざりすぎて色を失った世界で、あんたのヒールの音だけは鮮やかに届く。

「あれ、髪下ろしたんだ?」

うん、だって、そっちの方が好きでしょ?


いっぱい食べたし、話した。御手洗に立ったタイミングで、服に着いた煙の匂いに気が付く。お互い旦那に内緒で来ているため、これは不味いなと笑う。名残惜しくも焼肉屋を出て、コンビニで消臭剤を買って、休憩場を探す。「私たちお姫様だから」悪戯に笑って指した先は、ピンク色のお城。「ねぇ、ダメ?」そんな目で見ないでくれ。

お城の中の大きなベッドで2人、横たわる。スーツはハンガーにかけて、消臭剤をかけて。
お風呂上がりの肌が吸い付いて心地よかった。軽く湿った長い髪が私の頬を、貴方の肩を撫でる。珍しく巻いてる髪は、誰のためだろうか。

額、頬、首、そして指。順番にキスをする。
似合わない紅には、私の願いが詰まってる。
あんたの薬指、世界で唯一憎らしいその輝きを、私が奪ってしまえるように。

不思議よね。お互い旦那が居るはずなのに、指輪をするのは
ただ、あんただけ。

5/11/2025, 8:51:17 AM

この森は静かである。

蟻は、蟷螂を運んでいる。
狐は、鼠を咥えている。
人の炊いた火に、蝿が飛び入る。
いつもどこかで命が絶えているこの森は、静かである。

四十雀の卵が孵る。
小鹿が落ち着きのない足で立つ。
柔らかい土から、若葉が顔を出す。
いつもどこかで命が芽吹くこの森は、音に溢れている。

溢れた音の中で、母の声を探す。
今日私は、静かな森へ帰る。

4/28/2025, 1:34:39 PM

反芻。

一度飲み込んだはずのそれは、ふとした瞬間込み上がる。
忘れたはずの熱が、辛さが、再び口の中に広がる。

いつだって一緒に飲み込んできたはずの甘い言葉は
なぜだか思い出せないでいる。

だから私は、じっくりと味わってみることにした。
辛いも甘いも、忘れないように。

同じ辛さに出会わないように。そして次の反芻で
甘い言葉も思い出せたら、きっと少し辛くない。

4/13/2025, 1:51:48 PM

「私、この桜と共に散ります。」

そう言って君は、春風のように吹き抜けた。
僕は、きっと酷い顔をしているから、
ただ静かに、遠のく風声に耳を澄ませる。

 微かに、花弁の落ちる音がした。

あれから4年、今年も桜が咲いている。
公園のベンチで本を読みながら、
彼女と、未来の話をした。
栞を挟んで、本を閉じる。

「その栞、もうボロボロじゃない?
でも素敵ね、桜の押し花だなんて。」

これから僕は幸せになる、君の分も、
取り返すように生きていくんだ。

あの時のひとひらを、二度と落とさないように。

4/13/2025, 1:18:42 PM

窓の外は
ゆっくりと着実に変わって行くのに
この部屋は何も変わらない

それを安息の地と思うか
抜け出すべき場所と思うか

移り変わる風景が、私を外へ誘う。

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