陽が落ちて、街に明かりが灯る。
ここから見る景色が何故だか、寂しい。
鞄からスマホを出して、画面を見つめる。
特に通知はなく、ため息をついてカメラを起動させた。
カシャリ。
無機質な音は、私を余計に孤独にさせるのに、
画面に写された景色はとてもとても温かかった。
オレンジの家の灯り、青い街灯、車の黄色いライト、
商店街のネオン、全てがキラキラとして、
闇ですら寄せ付けない気がした。
あの中に戻れたら、
寂しさはなくなるのかな…
戻りたい。
でも、このまま闇に消えてもいいような気もする。
~~~♪
突然鳴ったスマホを見て、私の頬が弛んだ。
「もしもし?
…いま?夜景見てた。…うん。いつもの所。」
通話が終わると、ベンチに腰掛ける。
もうすぐ、私をあの灯りの中に連れ戻してくれる人が来る。
嬉しいような、残念なような、
なんとも言えない気持ちだけど…。
今はもう少しだけ、外側の闇から温かさを見ていよう。
ふんわりと優しい風が吹いた。
いや、背中を押されたのか…
身体が柔らかく包まれるような感覚がした。
目を開けると、見たこともないような景色。
1人でぼんやりと突っ立っていたはずだったのだが、
隣にはまだ幼い女の子が立っていた。
「あっち」
女の子が指を指す先には
色とりどりの花が咲いている。
気が付くと自然と足が動いていた。
「行くの?」
少し心配そうに見つめる女の子に、優しく笑いかける。
「あそこで寝そべったら気持ち良さそうだよね」
「でも……」
女の子は言葉を濁す。
その意味はわかっていた。
「大丈夫だよ。案内してくれてありがとう。」
花畑に足を踏み入れる。
身体が宙に浮いたかと思うほど、軽くなった。
女の子はもういない。
静かな部屋に響く通知音。
「………」
のそのそと腕を伸ばしてスマホを掴む。
「…あー…やっちまった」
ぼんやりとしていた身体が、
急に動くわけでもなく、
しばらく画面を見つめて、
スタンプを1つ押した。
『ごめんなさい』
可愛らしいキャラクターが土下座をしている。
すぐに鳴る通知音。
『早く、来い』の怒りの文字と、
それとは真逆の寂しそうにしているキャラクターのスタンプ。
思わず口元が弛む。
やっと身体の起き上がる準備が出来たところで
軽く身支度を整えて、
部屋を出た。
寝坊は何度目だろう?
今日も君からのLINEに起こされてしまった。
「目覚ましかけたのになぁ‥」
きっとまた、彼女にこってり怒られてしまうだろうな。
その後はきっとスイーツ巡りだ。
「胸焼けしない程度にして欲しいなぁ‥」
ポツリと呟きながら、愛しい人のもとへ。
私は今日も働く…。
今日は小さな子供たちを迎えに行く。
正直、気が進まない。
まぁ、年齢がいくつであっても気は進まないけども。
まだ数年、数ヶ月、数日…の世界しか知らない子供たち。
もっとやりたいことがあっただろう。
もっと家族と一緒に居たかっただろう。
もっともっと…広い世界を見たかっただろう。
そんなことを考えて、足を止める。
白い靄が薄くなると子供たちが不安そうに立っていた。
「おいで。こっちだよ。」
私は努めて優しく言う。
以前、迎えに行った年配の女性に
『死神様は顔が怖いから、声だけは優しい方が良いわよ』
と言われたことがある。
彼女の命も綺麗な色をしていた。
子供たちを優しく手招きして、
靄の先にある湖に連れていく。
1人…また1人…と、静かに湖に吸い込まれて、
小さな小さな炎が浮かぶ。
しばらく浮かんでいた炎がだんだんと消えかかって、
やがて、最期の炎が消えたとき、
キラキラと輝く蒸気が上へ上へと昇っていった。
「さようなら。次に会うときは、もっと大きくなってからがいいかな。」
私は今日も働く。
人の命が燃え尽きるまでを見届ける為に…。
夜が明ける。
月は静かに眠りについて、
太陽はのろのろと起き上がる。
私の長い1日が始まる。
そして、
太陽がそそくさと眠りにつく頃、
月はのんびりと立ち上がる。
私の長かった1日が終わる。
そうして、
毎日は慌ただしくも、
ゆったりと過ぎていく。
夜明け前、
すれ違う太陽と月は何を想うんだろう?