一度だけ。
全てを投げ出してみようかと思った。
結局それは叶わなかったけど、
今もまだ記憶の中に残っている。
映画好きな貴方と
たった一度だけ、
一緒に観た映画は今でもよく覚えているよ。
映画の後に寄ったカフェも。
そのときに貸した映画の原作の本。
まだ持っていてくれてるのかな?
もうずいぶん昔の事だから、
とっくに処分しちゃってるかな?
たぶん、、二度と逢うことはないだろうけど、
もし、まだ持っていてくれたら、嬉しいな。
最後のメール。
ちょうど、七夕の日。
「お互いの願いが叶いますように」
送り合って、それきり。
私は今、幸せです。
貴方も幸せでいてくれることを願います。
ピリピリ…ビリ。
今日も新しい1日が始まる。
特に変わらない毎日だけれど、月日は変わる。
昔から使うカレンダーは日めくり式。
昔は、おばあちゃんが毎朝めくっては
「無事に、今日が始まるね」
と、嬉しそうに言っていた。
日めくりカレンダーをめくらなくても、
毎日は容赦なくやってくるのに。
昨日の1枚をクシャっと丸めてゴミ箱に捨てる。
そうすると昨日の自分を捨てたような気持ちになる。
「……リセット…」
と言えば聞こえは良いかも。
昨日の自分を捨てて、新しい自分で今日を始める。
おばあちゃんも毎日をリセットしてたのかな。
そんなことを考えながら、今日も生きる。
コッ‥コッ‥コッ‥コッ…
静かな部屋に僕だけが小さく響く。
「もう少し、もう少しだけ。」
全身がピシピシ痛い。
あと少ししたら、きっと僕の役目は終わるんだと思う。
君が小さい時には、僕はもっと威勢よく大きな音で
色々な時間を伝えていたのに。
今じゃ情けないくらいに微かな音でしか、
時間を伝えられない。
『コレもかなり古いよねー。そろそろ買い替えたら?』
君のコドモが僕を見つめて音を出す。
『気に入ってるんだよ。そう簡単には手離せないなぁ。』
『ふーん。でも、音が小さいから父さん聞こえないでしょ?』
僕も気になってることを君のコドモはサラっと言う。
『不思議な事に、そいつの音はわかるんだよ。
…長い付き合いだからね。』
君はそう言うと僕を見つめる。
僕は君の優しい音が好きだった。
いつだって僕を包み込んでくれる温かい音。
君は目を瞑る。
少し微笑んでるように。
僕もあまり痛みを感じなくなってくる。
「あー…そろそろかもしれない。」
最期の時間を君と迎えられて嬉しいな。
そして、時を告げる。
コッ‥コッ‥コッ…コッ…
ポーン…ポーン…ポー…
カタイカタイ殻で覆われて守られていた。
だけど、意外にも殻は脆くて、すぐに割れてしまった。
私はまた新しい殻に潜り込む。
「今度は大丈夫かな?」
すると、可愛らしい音がして、私は空に浮かんだ。
『あんまりキレイじゃなかったぁ!』
フッと、私は落ちていく。
パチンッ!!
また、壊れてしまった。
「……」
なんとも言えない悲しい気持ち。
「キレイだったら、大事に持っててくれたのかな?」
私としては、私の好きな色の貝殻を選んだつもりなのだけど。
そろそろと、壊れてしまった殻から出てみる。
もう空は赤く染まっていて、暗闇がすぐそこまで迫っている。
「早く次のお家探さなきゃ。」
私は急ぐ。
「今度はもっとキレイなお家にしなくちゃ。」
モノクロの世界で。
でも…あれ?
私の選ぶお家はキレイじゃないなら…
「キレイってなんだろう?」
何かあるんだったら、
些細なことでも話してね。
そうすれば、早く治るから。
…それが出来てれば、こんな風にならなかったよ。
何かはあるけど、
うまく言葉にならない。
音に出せない。
自分の事を話すのは昔から苦手。
と、言うかキライなんだよ。
それでも…
治りたいから、
話して、少しでも、
内側にある「何か」を外側に出してかないと。
なかなか、ハードルの高い治療だなー。