子どもの頃、僕は特撮に憧れていた。
不思議な力を手に入れて、人格も行動も周りの人間に称賛されるヒーロー。
そんな大人に僕はなりたかった。
けれども年を越えるにつれてそんなヒーローなんていないことがハッキリと分かっていった。
助けが欲しい時、助けてあげたい時に都合の良いヒーローが現れるなんてバカな話だ。
それは大人になって世間を多く経験して嫌になるほど理解させられた。
だけど、誰かの「助けてくれてありがとう。」を聞くと自分があの日のヒーローになれた気がする。
そんな現実に無いものを、僕はいつまでも妄想している。
<いつまでも捨てられない物。>
《半袖》
季節は夏。ジリジリとした日光に喧嘩を売りたくなる季節。
夏の窮屈な補講が早く終わり、早く帰れると喜んで後先飛び出した自分が恨めしい。
歩きながら腕時計を見る、帰りのバスが来るまでかなり時間がある。
とりあえずバスが来るまで、隣の公園の日陰に避難するか。
俺はバス停横の自然公園に足を向けた。
コンクリートで舗装された道路と違い。遊具より樹木の数が数十倍多い公園は入った瞬間、緩やかで冷たい自然風が俺を出迎えてくれた。
「涼しい~~。」
俺は公園内のよく生い茂った大木の近くにあるベンチに腰をかけ涼んだ。
ズボっ。
突然自分の脇が一気に冷たくなり、猫の様に跳びはねてしまった。
「お〜、良い反応ね。」
「……先輩何するんですか!。」
振り返るとそこにはワンピース姿の先輩がイタズラが成功したガキ大将みたいな笑顔で立っていた。右手にはラムネの瓶を持っており、きっとあれを俺の脇に突っ込んだんだ。
(逃れられない)
人生100年時代。私と彼女が生きる早さは全く違った。
彼女の1年は私の7年分、産まれが早かった私の歳を彼女はすぐに追い越した。
だから私が大人になる頃には、彼女が先に置いて行ってしまった。
大人になる頃には皆、一人で何でもできる。だけど、彼女が隣にいるのが当たり前だった私は自立できず、フラフラと不安定だった。
だけど、ある日彼女に似た彼を見つけた。その出会いは私にとって大きな転機となった。
あまりに彼女と似ている彼を見るたび、私は思う。
私は彼女に出会って寄り添い支えて貰うことで生きて生ける。きっと彼女は分かって姿を変えて生まれてきてくれたのだと。
それは100年の間何度も訪れる。都合の良い運命か縛られる呪いかもしれない。
どちらにせよ、きっと逃れられない。
私は残り80年間の幾度の彼女との別れと再会に思い馳せながら、甘える彼の柔らかな毛並みを擦った。
Prr。Prr。
昔ながらの黒電話が着信音と共に机を揺らして、職員に伝える。
職員は慣れた様子で受話器を手に取り、受話器の向こう側の人間を想像して笑顔で応対を始めた。
「はい、こちら”ま〜だホテル“予約受け付けセンターです。宿泊のご予約ですか。」
「はい、場所は日本海の孤島の洋館を十名様で貸し切りですね。」
「はい、ええ。確かにその日時だと、次の日から三日三晩は天候が荒れますね。えっ、どれぐらい。そうですね……、海上保安庁でもヘリは出せないくらいですね。」
職員は目の前の開かれたパソコンから、予約日時等を入力しつつ天気予報を確認した。
「はい、はい。以上でご予約は完了です。あっ補足事項として、当ホテルではアメニティグッズとして穴あけドリルに万能ノコギリ弛まない長いロープの入った工具箱と縫合用の針に注射器が入った本格治療キットが洋館内に設置しているので、ご自由にお使いください。」
「えっ、至れり尽くせりで凄いです?。お褒め頂きありがとうございます。当ホテルでは予約者様達が気がねなく過ごして頂けるように、日々研究と改善をモットーとしております。」
「はい。では、またのご利用お待ちしております。」
職員は受話器を黒電話へ戻した。そして、祈るのだ。
どうか、探偵がいませんように。と。
《この場所で》
最近、私が主演の舞台に最前列で何度も見に来てくれるイケメンがいる。
私はそのイケメンを舞台袖で何度もコッソリ見ていた。
彼はこの舞台のお話しが好きなようだけど、何故か私が壇上に立って演技しているシーンは嬉しそうに目を輝かせて私を見ている。
私は女優としてはまだ駆け出しだけど、劇団の中では一番顔が整っていると自負している。
きっと彼は私の事が好きなんだろう。
誰もが羨むイケメンを夢中にできる私。私は彼へのファンサービスとして、舞台で目が合うたび彼にウインクして見せる。
彼は私のウインクを見るたび顔を真っ赤にする。
そして舞台の最終公演の日。私はときめく心を力に主役を演じきった。
彼は相変わらず最前列で見てくれて、幕が降りる頃には大号泣していた。
ああ、泣かないで。すぐに貴方に会いに行くから。
私は幕が降りた後、急いで私服に着替えた。自分の中で一番カワイイと思う勝負服だ。
彼はいつも舞台の後ミュージカルショップで買い物している。
私は買い物帰りの彼を見つけ、腕に抱きついた。
「ねぇ、今日まで応援ありがとう。良かったら私とお茶しない?。」
「何、だれ君。人違いしてない?。」
とびきりの笑顔で彼にデートを誘うけれど、彼は不快そうに顔を歪める。
「悪いけど、俺にはこの子という嫁がいるから。」
彼の反対の腕には、舞台の上で決めポーズを決めている主役の私の写真集が大事に抱えられていた。
《I Love…》