たやは

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11/25/2024, 8:28:41 PM

太陽の下で

冬が近づくにつれて曇りや雨の日が多くなるため、春先から夏は太陽の下で日光浴をする人たちを公園や浜辺で見かける。

結婚でこの地域に越してきて3年になるが、その習慣にはなかなか慣れない。春のまだ肌寒い日、太陽が少し顔を覗かせると旦那はソワソワし始める。

結婚当初のある日。

「公園に行くから準備をして。早く。」

急に公園に行くことが決まり不思議に思いながらも付いて行くと公園にはすでにたくさんの人が集まっていた。公園の中央の噴水のそはまで来ると旦那はおもむろに服を脱ぎ出し、水着1枚でレジャーシートに横になった。

準備って。水着のことだったのか。たしかに周りの人たちも水着を来てレジャーシートや折りたたみベッドに横になり、日光浴を楽しんでいた。

はは…。

習慣の違いって恐ろしい。
私には無理だ。こんな肌寒い日にビキニで日光浴。海でもビキニなんて着たことはないのにこんな人が密集した公園でビキニ。
無理〜。

仕方がないので海パン1枚で横になる旦那の横に体育座りで座る。旦那が怪訝そう顔をしているが、今は話しかけないで欲しい。
地域によっていろいろな習慣があるのは認識している。どこかの国では、昼休みが、長く、国民全員で仕事も家事もせず昼寝を4時間ぐらいするらしい。楽で良さそうだか、この時間は睡眠の妨げになる音を出すことは禁止されておりトイレに行くのもダメだ。気を使いそう。
子供ころからそれが当たり前の事だと何も思わないのかもしれないが、私のように別の地域からやって来た人にとっては驚きを隠せない。

顔を上げ改めて周りを見回せば、ほぼ裸で日光浴をしている人、人、人。日光浴だからの格好だか、何とも壮観な絵面だ。
あと30年もすれば私もビキニでここにいるのだろうか。

ストール、ひざ掛け、手袋を身に着け、ホットコーヒーを飲む私は、旦那を含め周りの人たちから見たら、不審者に近いのかもしれない。でも寒い。寒いものは寒い。

太陽の日差しが少しぽかぽかしているのが救いだ。

11/24/2024, 1:26:01 PM

セーター

勤めているIT企業は、外資系ということもあって、割と自由なことも多い。出社してもいいしリモートでもいいし、服装ももちろん自由だ。自由なことは多い反面、いろいろな制約もある。なかでも個人情報の漏洩に関しては、どこの会社よりも厳しくなっている。

とは言っても、個人情報だけを扱っている訳ではないので、普通に仕事をしていればそれほど困ることは起こらない。今日も何事もなく順調だ。
お昼休みになり食事のために会社を出ることにした。本日の昼はカレーを食べたい気分だ。久しぶりにあの喫茶店に行ってみようか。会社から5分ほど歩くと新人の頃に同期とよく行った喫茶店ルナが見えてきた。ノスタルジックな昭和の喫茶店だ。

「え?並んでる。嘘でしょ。こんなに混んでたら昼休みが終わる。」

仕方がない。カレーは諦めて…いや、やっぱりカレーが食べたい。別の店を探しながら歩いていると、カレーうどんの文字が見えてきた。もう、カレーうどんでいいや。
のれんを潜り、席に着くとカレーの臭いが鼻を刺激してくる。お腹空いた。

「いただきます。」

カレーうどんをすする。美味しい。うどんでもカレー味はカレー味だ。
ぎゃぁ!
うどんを啜った時にカレーが白いセーターに飛んだ。ちょっとショック。エプロンが欲しかったなぁと慌てて跳ねたカレーを拭くが黄色が広がった。かなりショック。
このままでは帰れないので、近くの量販店で青いスウェットを買い、急いで会社に戻った。はぁ、ギリギリだ。疲れた。

戻った会社では、警戒音がフロア全体に鳴り響いていた。入社して6年になるが始めて聞く音に何が起こっているのかと驚きが隠せない。
席に戻り、近くの同期に聞くと個人情報が持ち出されたらしい。それも、内部の人間の手引きでだ。

「君。ちょっといいかな。」

は?私?

「君。ここを出る時は、たしか白い服を着ていたよね。どうして青い服なの。」

「どういうことでしょうか。」

「防犯カメラに白い服の不審な人物が映っていてね。私たちはその人物が情報漏洩の犯人だと思っている。君がとうして着替えたのか教えて欲しい。」

冗談ではない。私が個人情報を持ち出した犯人なはすがない。服を着替えたのは、カレーうどんがセーターに飛んだからだ。そんな話しするのは恥ずかしいが、そんなことは言っていられない。
上司に服を着替えた理由を話し、その防犯カメラを見せて欲しいとお願いした。
上司は疑いの眼差しと半分呆れた眼差しで私をみていたが、防犯カメラを見せてくれることに同意をしてくれた。

防犯カメラには白いセーターを着た女性が映っていた。でも、私ではない。歩き方が全然違う。歩き方。そうだ、歩き方。
私もエンジニアの端くれだ。舐めんなよ。

「この人は私ではありません。疑うなら歩容認証にかけさせて下さい。」

「歩容認証。なるほど。」

歩容認証は歩き方の特徴を捉えて個人を識別する方法だ。歩き方は人それぞれ個性があると言われており、科学捜査にも使われることがある。

歩容認証の結果、不審人物は私ではないことが証明された。当たり前だが疑いが晴れて良かった。
その後、隣りの部署の係長が個人情報を持ち出していたことが判明した。係長は白いカーディガンを着ていた。

なんだか今日は本当に疲れた。仲間から疑われることが、こんなにも辛く悲しいことだなんて思いもしなかった。
早く帰って寝たい。
カレーうどんに罪はないが、ついていない1日だった。

11/23/2024, 11:52:27 AM

落ちていく

この階段を上がれば屋上に出る。夜の屋上はやや強い風が吹き、暗闇の中に隣りのビルの明かりが差し込んで全体がよく見える。コンクリートが冷たたく光り、あのフェンスを越えれば飛び降りることができる。フェンスまで3m。フェンスに手を掛けて、足を掛けて越えるだけ。越えてしまえば私を隔てるものはない。1歩踏み出せばあとは落ちていくだけ。風が私を吹き抜けていく。3.2.1

「ダメ。」

「え!お母さん。うわぁ。なんでここにいるの。危ないじやん。死んじゃうよ。」

慌てて背中のフェンスを掴み、その場に尻もちをつく。腰が抜けた。何してんだ私。
本当に死んじゃうよ。
帰ろう。お母さんが待っている。
フェンスを乗り越え、屋上をあとにする。


あーあ。残念。
もう少しだったのに。誰が邪魔をしたのか。あの天使か。
ふーん。まあ、今回は見逃してやろうか。
でも次はない。
いくら見習だからといって死神をバカにしてもらっては困る。

屋上の上から下を見下ろせば、あのフェンスに天使が腰掛けていた。

「あの子はまだダメ。ちゃんと順番は守ってもらわないと困るわ。見習いさん。」

ムカつく天使だ。
「ノルマがあるんだよ。邪魔すんな。」

天使がにこやかに笑いながら自分の横をすり抜けて行った。やっぱりムカつく奴だ。

さあ、次の魂を回収しにいこうか。

11/22/2024, 1:39:30 PM

夫婦

我が国の国王ご夫妻は結婚されて50年になるが、今も仲が良い。来年には国王を退任されて皇太子ご夫妻に王位を譲ることが決っている。

私のおばあちゃんが言うには、50年前のご成婚パレードは賑やかで、2頭立ての馬車に乗った国王夫妻のお姿は凛々しくあり、国民みんながご成婚をお祝いしたそうだ。

その後も国王夫妻は仲が良く、国内の公務も海外訪問の時も国王さまが王妃さまの手を取りエスコートしている。何年たってもエスコートは続き、今では足腰がお弱くなられた王妃さまを気づかいながら国王さまが寄り添い歩いている。本当に微笑ましい光景だ。

11月22日はいい夫婦の日らしいが、我が国で1番ベストな夫婦は国王夫婦で間違いない。この微笑ましく心地良い関係が皇太子ご夫妻にも受け継がれていくだろう。

年を取っても手を取り共に歩く老夫婦の姿は、なんて美しいのだろう。私もそうありたい。

11/21/2024, 2:25:54 PM

どうすればいいの

町のスーパーに勤めている。来週は月に一度の半額大感謝セールで、野菜、肉、魚、お菓子などなんでも半額で販売することになっている。このセールは大盛況で朝早くから大勢のお客さんが列を作る。

そんな大事な日の発注を間違えてしまい、キャベツ200個のはすが0を付け足して2000個注文してしまった。
どうしょう。どうすればいいの。


「キャベツ2000個ってどうするよ。収穫も始まってるし今さら返品なんてできないって農協が言ってるよ。困ったなあ。」
店長からお叱りを受けたが、全て私が悪いし弁解の余地はない。

「あの。感謝セールの日、お祭りみたいに屋台とかキッチンカーとか呼んだらどうですか」
パートリーダーさんが声をかけてくれた。

「そうだなあ。人も集まるし募集かけてみるか。キャベツ料理限定にでもすれば少しは消費できそうだな。」
店長は乗り気だが、まだまだキャベツほ残っている。どうしよう。

セール3日前。
屋台やキッチンカーの説明会が開かれ、その中にいつも買い物に来てくれる顔なじみのお客さんがいた。

「キャベツたくさん余っているみたいね。うちの寮でも使うよ。うちの子たち柔道部だからたくさん食べるのよ。そうそう、給食センター紹介しようか。」
顔なじみの寮母さんはキャベツを30個買ってくれた。ありがとうございます。

紹介された給食センターからの注文は850個。すごい。
「いいのよ。気にしないで。市内の小中学校の給食がお好み焼きか焼きそばなんて楽しいでしょ。子供たちも喜ぶわ。遊び心も大切だからいいの。いいの。」

これでキャベツ2000個のうち半分近く売れたが、あと半分をセールの日のうちに売らないとならない。
どうしよう。どうすればいいの。

セール当日。
遅番のため家からトボトボ歩く私を呼び止める人がいた。
「スーパーの人?キャベツ餃子焼いてるキッチンカーの人に聞いたけど、キャベツ余ってるの?俺さあ、養豚と養鶏してて、あの子たちものすごい食うからキャベツ欲しいけど、安くしてくれるの。」
もちろん半額です。
家畜農家さんが200個買ってくれた。

スーパーでセール準備のためキャベツを並べているとまた別の人に声を掛けられた。
「母ちゃんが給食センターに勤めてて聞いたけど、キャベツたくさん余っていて困っているらしいね。良かったらうちで貰うよ。ああ。私ね、動物園の園長してます。
動物園ではね、アフリカゾウやサイ、キリン、カピバラなんかがキャベツを食べるね。」
動物園の園長さんはキャベツを700個買ってくれた。

これでスーパーで売る予定だった100個のキャベツを店頭に並べれば全てさばける。
信じられないが2000個を売ったことになる。
いろいろな人に声をかけてもらい、私は幸運だった。また、人と人との繋がりに感謝しかない。

本当にありがとうごさいました。

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