落ちていく
この階段を上がれば屋上に出る。夜の屋上はやや強い風が吹き、暗闇の中に隣りのビルの明かりが差し込んで全体がよく見える。コンクリートが冷たたく光り、あのフェンスを越えれば飛び降りることができる。フェンスまで3m。フェンスに手を掛けて、足を掛けて越えるだけ。越えてしまえば私を隔てるものはない。1歩踏み出せばあとは落ちていくだけ。風が私を吹き抜けていく。3.2.1
「ダメ。」
「え!お母さん。うわぁ。なんでここにいるの。危ないじやん。死んじゃうよ。」
慌てて背中のフェンスを掴み、その場に尻もちをつく。腰が抜けた。何してんだ私。
本当に死んじゃうよ。
帰ろう。お母さんが待っている。
フェンスを乗り越え、屋上をあとにする。
あーあ。残念。
もう少しだったのに。誰が邪魔をしたのか。あの天使か。
ふーん。まあ、今回は見逃してやろうか。
でも次はない。
いくら見習だからといって死神をバカにしてもらっては困る。
屋上の上から下を見下ろせば、あのフェンスに天使が腰掛けていた。
「あの子はまだダメ。ちゃんと順番は守ってもらわないと困るわ。見習いさん。」
ムカつく天使だ。
「ノルマがあるんだよ。邪魔すんな。」
天使がにこやかに笑いながら自分の横をすり抜けて行った。やっぱりムカつく奴だ。
さあ、次の魂を回収しにいこうか。
11/23/2024, 11:52:27 AM