たやは

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9/6/2024, 5:18:41 AM

貝殻

魔法使いだったおばあちゃんが亡くなった。110歳だったけど、魔法使いとしては短い人生だったらしい。

ミャオーん。

家の縁側で猫のチイちゃんが寂しそうに鳴いていた。おばあちゃんを探ししているのだろう。

「ごめんください」

誰か来た。
おばあちゃんが亡くなってから、おばあちゃんの昔の友達も何人か訪ねてくる。
玄関に行くとビーフシチューの美味しいレストランに向かうバスの中で会った着物姿の小柄なお婆さんが立っていた。
おばあちゃんの仏壇の前でお茶を出すとお婆さんはそれを啜りながら話し始めた。

「あんたのばあさんが、もし自分が死んだら孫にこれを渡して欲しいと頼まれてな」

お婆さんの手には、貝殻で出来た螺鈿のネックレスがあった。

「これ?」

「あんたのばあさんが魔法使いだったのは知っているだろ。それは妖怪の世界に行くための鍵だ。」

「妖怪?おばあちゃんは魔法使いで妖怪とは関係ない」

おばあちゃんの友達は、フッと笑ってもう一口お茶を飲んだ。
「魔法使いは西洋の妖怪みたいなものさ。妖怪の世界であんたのばあさんが若い頃、暮らしていた世界を見てみるといい。ばあさんもそれを望んでおった。」

みたいなものって。割と適当だな。
でも、魔法使いだった頃のおばあちゃんのことを知ってみたい。

「そうそう。妖怪の世界に行くならあの猫を連れて行きな。あれでも300年近く生きた猫又だ。妖怪の世界のことは詳しいはずだよ。ついでに用心棒をつけてもいい。
ネズミはダメだろうから、目玉の親子とかなら大丈夫かね~。シシシ。その気になったらあのバスに乗るといい。行き方を教えてあげようじゃあないか」

螺鈿のネックレスは、キラキラと七色に光りを放っていた。
私はいつかあの螺鈿のネックレスを使うだろう。。私にもおばあちゃんの血が流れている。私も妖怪や魔法使いの仲間なのだから、自分のルーツを見に行ってみたい。

おばあちゃんありがとう。
おばあちゃんがくれたチャンスだから、いつか猫又のチィちゃんに案内して貰って妖怪の世界に行ってみよう。

9/4/2024, 9:06:15 PM

きらめき

きらめき、トキメキ、夢気分。
つまりは何が何だか分からないってことだ。

今、私はパリコレのオーディションを受けている。これで3社目。本当になんで。私だって分からない。
確かに私は小さなモデル事務所に所属している。でも、何年も泣かず飛ばす状態だった。東京のオーディションだって受けたことがないのにパリコレって頭のおかしい奴だと思われてもしかたがない。

友達の代わりにオーディションを受けたとか、テレビの企画だったとかなら良かったかもしれない。でも違う。今回は自分でオーディションに申し込んだ。パリ1人旅の思い出になればと思っただけ。オーディションを受けさせてくれるなんて思ってもいなかった。

凱旋門の近くにあるカフェの壁に張ってあった広告がパリコレの募集広告だった。さすがはパリ。こんなところにモデル募集、それもパリコレモデルのオーディション広告があるなんて。
広告のQRコードから申し込んで会場に行きオーディションを受けたが見事に落ちた。あたり前だ。隣を歩くフランス人は身長は高く、手も足も首も長い。エイリアンかと思うほどの8頭身以上のスタイル。落ちるに決まっている。

それなのに、会場のスタッフに声をかけられ、2社目のオーディションを受けることになった。英語はかたこと、フランス語は全く分からないから詐欺かと思ったが、指定された場所はオーディション会場だった。まあこれも落ちた。聞いたこともないブランドというかメーカー?のオーディションだったが、英語を要約すれば「あなたはコンセプトに合わない」たった。コンセプト?そんなものがあったのか。

そして懲りずに3社目。また同じスタッフに声をかけられオーディション会場に向かった。さすがに「合格」なんてことはなく落ちた。なんか清々しさを感じる。
でもあのスタッフの人は、何で私に2回もオーディションを勧めたのだろうか?
私を見ても「東洋の神秘」なんて微塵も感じないし、フランス人のような華もない。

ただの思い出作りとしてはとっても楽しかったが、真剣にパリコレを目指す人とは気持ちの在り方が違ったのかもしれない。私も始めは軽い気持ちだったが、3社目は売れないモデルとしてのプライドと意地を見せたつもりだ。合格はできなくも2次審査くらいは通過したかったが、現実は甘くないか。まあ、楽しい思い出になったから好しとする。 

オーディションからの帰り道、あのスタッフがまた声をかけてきた。

「あなたなら受かると思ったけど見る目ないはね。あの人たち。あなたもそれで隠しているつもり。ふ〜ん。あなた純粋な人類ではないでしょ。」

私の顔はみるみる青ざめていく。何この人。頭がおかしい人?

「怖い顔してるわよ。大丈夫。私しか気がついてないわ。どうしてって、顔ねぇ。
簡単よ。私も同じだから。同じ仲間に会うのは久しぶりだから楽しくって。また会いましょう。パリコレのステージで」

そう。あのフランス人モデルがエイリアンではない。

エイリアンは私だ。

9/3/2024, 11:14:22 AM

些細なことでも

毎朝、学校に行くためにバスに乗る。家からバス停までせいぜい歩いて10分たらすだが、バスが着く少し前にバス停に着きたいので、いつも早足になる。髪の毛が乱れるのは気になるが、バス停に着いてから直せばいいので問題はない。なぜ早足か。バス停である人に会いたからだ。

バス停でバスを待ちながらあの人を待つ。
毎朝ドキドキだ。学校は同じて同じ2年だが、クラスが違うから話しなんてしたことはない。でもカッコイイのは間違いない。

朝は部活があるから早めのバスに乗る。
私も同じバスだ。
バスの中では音楽を聞いているからいつも1人だし、疲れているのかウトウトしてることもある。このバスで同じ学校なのは私だけだからあの人の寝顔を見れるのも私だけかもしれない。ただし、私はストーキングをするつもりは全くない。あくまでもバスの中だけで、そっと、チラッとみるたけだ。

「声かけてみれはいいしゃん」

友達はそう言うけれど、それもなんか違う感じがする。だって何て声をかけたらいいのか分からないし、そんな勇気はない。
相手は学年一、イヤ学校一有名なモテる人だ。話しかけるなんて無理に決まっている。私もそこまで馬鹿ではない。

ただバスの中でその人を見かけるとその日1日良いことがありそうな気になる。そんな些細なことでも、私にとってはとてつもなく幸せを感じる時間だ。

早く来ないかな。

9/2/2024, 1:01:42 PM

心の灯火

何日も真夏日が続いている。何もしなくても汗がダラダラと滴り落ちるのを感じる。
暑い。とにかく暑い。夏だから仕方がないが、それでも暑いのは暑い。
部活が終わり、帰路に着くために自転車を漕いで行くと始めのうちは風が心地良く快適だが、次第に暑さが増してくる。制服のスカートが足に絡みつき「死にそう」と思うことが何度もあった。

今日も暑いがテスト週間も終わり、明日からは夏休みのため心も体もウキウキしながらいつもとは違う道を走っていく。

「銀座のななかフルーツ寄って行こうよ」

後ろを自転車で走る友達の誘いを断る理由は全くない。私も同じ気持ちだ。

もちろん、銀座と言ってもあの銀座ではなく地元の商店街のことを田舎では銀座商店街などと言うことがある。
私たちの目的は、その銀座の路地にある小さなくだもの屋さんのフレッシュジュースだ。おばちゃんが店の中の小さなジューススタンドで作ってくれるジュースたが、くだもの屋のフルーツを使ったジュースはめちゃくちゃ美味しい。砕いた小さな氷がちよっと入っていて暑い夏にはピッタリだ。

自転車から降りて、今日は何を飲もうかとくだものが置かれたショーケースを覗き込む。

「夏休みだね。夏休みも部活あるのかい」

うんうん。と頷きながらジュースを一口。
美味しい。
イチゴとみかん、リンゴのミックスジュースを頼んだが、甘みと爽やかな酸っぱさが混じり暑さを忘れてしまう。。

ここでおばちゃんのジュースを飲みながら友達と他愛もない話しをしていると暑さが消え、心に灯火が灯るように心の中がホワッと温かくなるのを感じる。優しさが溢れてくるようだ。

ここは私たちの小さな拠り所。
これからもずっとこの銀座にあり続けて欲しと思う。いつも笑顔が溢れ、心温まる場所であり続けて欲しい。

9/1/2024, 11:12:14 AM

開けないLINE

ゲームをしているとスマホの上の方にお知らせが出てくることがある。かなりの頻度でLINEだ。それを読んでLINEは開かず終わりにしてしまうことがある。

例えば、会社の同期メンバーのグループLINEとか、母親からのLINEとかは私の中で、特に開けないLINEの王道だ。

会社の方は同期での飲み会のお誘いがほとんどで、仕事が終わってからも仕事の話しをしたくないのが本音だ。LINEを開かず気がつかなかったことにしている。まあ、私があまりLINEを見ないことはすでにバレているが懲りずに送ってくる同期がいる。優しい人だ。
母親の方は元気かとうかの確認に始まり、今日何を食べたか、彼氏はできたか、などとにかく長い。文章が長くて読むのに疲れる。あまりに面倒なのでそのLINEに「元気」だけ返せば、今度は電話がかかってくる。電話でも内容はかわらず母親が勝手に喋り倒すだけだ。電話に出なかったときは、出るまで鳴らされ疲弊する。

だから開けない。

同期メンバーも母親も嫌いではない。ただどちらのLINEも苦手なだけ。
既読ムシなんてできないし、スタンプを返すだけでは申し訳なく感じる。
気の小さい私には開けないLINEの方が多いのかもしれない。

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