『ハッピーエンド』
これが最良のハッピーエンド。
最高では、ない。最良のハッピーエンド。
○○○
日本は災害の多い国だ。
そんな当たり前の事は知っていたが、まさか自分の身に降りかかるとは思いもしなかった。
大きな地震が起きて、地下に閉じ込められた。
パッと計算したところ、生き残るには——一人分だけ、数が足りなかった。
争いが起こる直前、それは起こった。
「やめてよ。ボク、いらないから」
小さな男の子だった。
母親とはぐれたのだろう。
どこか汚れた衣服を纏い、あちこちに傷を作っていた。
そんな状態でもニコニコして、他者を気遣う余裕のある子だった。
……そう、“だった”。
「ボクにやさしくしてくれて、ありがとう」
階段の一番上から、小さな体躯が舞っていた。
刹那、ガン!って米俵のように重いものが落ちる音がする。
……恐る恐る振り返った先、そこに“ソレ”はあった。
男の子の死体だ。
即死だった。頭部から真っ赤な液体が流れ出ていた。
一瞬でみんなの血の気が引き、争いの気が無くなる。
当然だ、もうその必要は無いのだから。
○○○
これは最良のハッピーエンド。
最高では、ない。最良のハッピーエンド。
胸くそ悪い、最良のハッピーエンドだった。
おわり
『見つめられると』
見つめられると駄目だと、なぜ教えてくれなかったのか。
いや、知らなかったのだろう、おそらく。
八尺様に遭遇したとき、ただ見つめるだけで無力化出来るなんて、いったい誰が想像出来ただろう。
今、俺の目の前には赤面する八尺様が顔を隠して蹲っており、俺はただジッと見つめ続けていた。
○○○
「肝試ししねぇ?」
「しない」
「そんな事言わずにさぁ、お前の分も予約取っちゃったんだってぇ!!」
「…………は?」
高校生、最後の夏休み。
チャラい幼馴染に連れられて、俺は何処ぞの田舎で行われる八尺様体験ツアーに参加させられる事になった。
いや、大学受験の勉強しろよ。たとえお互いにA判定でもさ、しろよ。生まれ持った学力の公平さを保つために、頭良いヤツは遊ぶべき、とか意味わからんだろ。
……だから、こんな酷い目に合うんだ。はぁ。
田舎の八尺様体験ツアーで、八尺様は本当に出た。
チャラい幼馴染は目が合った瞬間、気絶した。おい。
とんでもなく、どうしょうもない愚かな幼馴染だとしても、見捨てて逃げるわけにも行かず、俺は幼馴染と八尺様の間に入って確固たる意思を持って睨みつけた。
「…………ぽ////」
「は?」
くにゃり、と八尺様が体をくねらせる。
顔を真っ赤に染めた彼女は、両手で顔を隠すと、波に揺れるワカメのように、くにゃりくねりと長い体躯を揺らした。
俺は、これはなんなのだろうなぁ、と思いつつ見つめ続けた。
しまいには、崩れ落ちて、蹲ってしまう八尺様。
後ろには気絶した幼馴染。仁王立ちする俺。
……これ、何もしてない俺が悪役みたいじゃないか?
「あー、あの。少し、話をしないか?」
そう声をかけた時だった。
ピャ!っとなった、八尺様が、ビックリした猫のようになって、迅速に逃げ出していく。
あっ、という暇も無かった。遅れて伸ばした手だけが宙を掴む。
「な、なんだったんだ、いったい……?」
少なくとも、幼馴染と俺の命は助かったらしい。
気絶しつつ、むにゃむにゃと幸せそうな幼馴染の姿に呆れて、大きなため息を一つ吐いた。
翌朝。
きっと昨日の出来事は夢だったのだろう、と思い込んだそのとき。
枕元に、一通の手紙を見つけた。
ちょっと、横長の手紙は、何故か昨日の八尺様のことを思い起こさせ、俺は自然と手に取り、中身を読む。
……めちゃくちゃ古語っぽくて、読みにくかったが、読めそうな漢字を拾って意味を推測した。
——これ、八尺様からの手紙だ。
『まずは、文通からはじめましょう』
どうやら、俺は八尺様と文通することになったらしい。
いったい何故こうなった……?
おわり
『ないものねだり』
ないものねだりをしている。
そんなことは、わかっている。
それでも、欲しいものがある。
——でっかいFカップの胸だ。
貧乳の私は自分のまな板を見下ろしながら、深いため息をついた。
おわり
『好きじゃないのに』
好きじゃないのに、嫌いになれない。
……ピーマンの事だ。
○○○
今、私の目の前にはピーマンの乗った皿がある。
今、私はめちゃくちゃ顔を顰めているだろう。
「ほら、食えよピーマン。好きだろ」
「馬鹿を言うなよ。この世で一番ピーマンを食べたくない人間が私だぞ」
私が人を殺せそうな目付きで唸りながら、ピーマンを出してきた友人を睨みつける。
すると、友人が不思議そうな顔で小首を傾げた。
「へぇ。俺はお前がピーマン好きだと思ってたよ、じゃあお前はピーマンが嫌いなのか?」
「……嫌いになれたら良かった」
「なんだそりゃ」
ふいっと視線を逸らす私に対して、ケラケラと友人は笑い出す。そして、いともたやすく私の目の前に置いてあったピーマンを口にした。
「う~ん。やっぱり、お前が作ったピーマンが一番美味いな。なんで、ピーマン好きじゃないのに、ピーマンの世話なんてしてんだ? 俺はピーマンが好きだから、美味いピーマンが食えて嬉しいけどよ」
「……それは」
「それは?」
ジッと見つめられ、私はお手上げだと言うように、ぼそりと本心を口にした。
「私が、この世で一番好きな人間がピーマン好きだからだよ」
そう言った私の視線は、きょとんとした顔の目の前の男に向いていた。
……本当、嫌いになれならどれだけ楽だったろうか。
おわり
『ところにより雨』
雨が降っている。
——俺の頭上にだけ、…………。
今日の天気は雲一つない快晴、ただし。ところにより雨。
主に俺の頭上がな。
○○○
俺は、どこにでも居る大学生だ。
朝起きて、大学行って、友達と遊んで、課題やって、寝る。
そんな当たり前の行動しかしてない俺が、なんでこんな目にあってるのだろうか。
「やっぱ、あれなんじゃないの~? 雨女ちゃんの呪い」
「馬鹿か、この世に呪いなんて存在しない」
「じゃあ今の不っ思議~な状態に対する説明は~?」
「…………」
友人がヘラヘラとした顔で俺に話し掛けてくる。
チャラチャラしたヤツだが、それなりに友情に篤いらしく俺の周囲に雨が降るという異常が起きても、変わらずに話し掛けてくれた良い友人の一人だ。
「雨女、か……」
「ちょっと地味な子だったよね~」
「……よく覚えてない」
「ひっど~!!」
雨女、とは。たしか大学に所属する一人の女学生を指す言葉だ。
随分な雨女らしく、彼女が居るところには常に雨が降るという。
大学入学時に遅れて来た際、彼女がやって来た途端に、雲一つない快晴が土砂降りのゲリラ豪雨になり、病弱な彼女が倒れて運ばれたのち、また直ぐ様に立派な虹のかかった晴天になったのは、この大学で有名な話だ。
俺はよく知らないんだが。
「なぁ、あのときの雨の話は本当の話なのか?」
「ん~? あ、そっかぁ。君は、あの雨女ちゃんを運んでたから、虹が掛かるのを見てないんだっけ~?」
「ああ、正直疑っている」
「あ~、まあ、ね。うん、うん。仕方ないかあ~。でも、アレじゃない? たぶん、君が雨女ちゃんに告白された、惚れられた理由ってソレだと思うよ~きっと」
俺は少し眉を潜めた。
不快だったからではない。理解出来ず、意味が分からなかったからだ。
「……普通に人助けしただけだろ? 何故、それで惚れた晴れたの話になるのか分からん」
「そういうとこ~」
……どちらにしても、このままでは埒があかない。
「彼女と話をしてみようと思う」
「頑張れ~」
○○○
友人と別れ、ツテを辿り、彼女の家の前に辿り着いた。
彼女の家、青い屋根の一軒家に対して、俺は一つ深い深呼吸を、したあと、覚悟を決めてインターホンを押した。
“ピンポーン”
「はい」
……出たのは、見知らぬ女性だった。
面食らう俺だが気を取り直して、妙齢の女性と少々話をする。
「娘に会いに来たの……」
「はい」
「そうなのね、でも……」
「でも?」
「娘は今、病院で植物状態なのよね」
「…………はい?」
「ちょっと貴方、娘を起こしてきて下さらない??」
「は?」
「お願いね」
手に紙を握らされて、反論の隙もなく扉を閉められる。
手に残る紙には、病院の住所と、病室が書かれていた。
「行くしか、ないのか」
俺はため息一つ吐いて、諦めて病室に向かうことにした。
○○○
これは、局所的に雨が降り注ぐようになった俺が、雨女と言われる“秘密”を生まれ持った彼女と、世界の真実に対して深く関わりながら、仲を深めて行く話だ。
続かない、
おわり!!
○○○
追伸、久々に長くなりそうで、途中で慌てて切った。
長い長文にも関わらず、ご愛読ありがとうございました。