白井墓守

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『見つめられると』

見つめられると駄目だと、なぜ教えてくれなかったのか。
いや、知らなかったのだろう、おそらく。

八尺様に遭遇したとき、ただ見つめるだけで無力化出来るなんて、いったい誰が想像出来ただろう。

今、俺の目の前には赤面する八尺様が顔を隠して蹲っており、俺はただジッと見つめ続けていた。

○○○

「肝試ししねぇ?」
「しない」
「そんな事言わずにさぁ、お前の分も予約取っちゃったんだってぇ!!」
「…………は?」

高校生、最後の夏休み。
チャラい幼馴染に連れられて、俺は何処ぞの田舎で行われる八尺様体験ツアーに参加させられる事になった。
いや、大学受験の勉強しろよ。たとえお互いにA判定でもさ、しろよ。生まれ持った学力の公平さを保つために、頭良いヤツは遊ぶべき、とか意味わからんだろ。
……だから、こんな酷い目に合うんだ。はぁ。

田舎の八尺様体験ツアーで、八尺様は本当に出た。
チャラい幼馴染は目が合った瞬間、気絶した。おい。

とんでもなく、どうしょうもない愚かな幼馴染だとしても、見捨てて逃げるわけにも行かず、俺は幼馴染と八尺様の間に入って確固たる意思を持って睨みつけた。

「…………ぽ////」
「は?」

くにゃり、と八尺様が体をくねらせる。
顔を真っ赤に染めた彼女は、両手で顔を隠すと、波に揺れるワカメのように、くにゃりくねりと長い体躯を揺らした。

俺は、これはなんなのだろうなぁ、と思いつつ見つめ続けた。

しまいには、崩れ落ちて、蹲ってしまう八尺様。
後ろには気絶した幼馴染。仁王立ちする俺。
……これ、何もしてない俺が悪役みたいじゃないか?

「あー、あの。少し、話をしないか?」

そう声をかけた時だった。
ピャ!っとなった、八尺様が、ビックリした猫のようになって、迅速に逃げ出していく。
あっ、という暇も無かった。遅れて伸ばした手だけが宙を掴む。

「な、なんだったんだ、いったい……?」

少なくとも、幼馴染と俺の命は助かったらしい。
気絶しつつ、むにゃむにゃと幸せそうな幼馴染の姿に呆れて、大きなため息を一つ吐いた。

翌朝。
きっと昨日の出来事は夢だったのだろう、と思い込んだそのとき。
枕元に、一通の手紙を見つけた。

ちょっと、横長の手紙は、何故か昨日の八尺様のことを思い起こさせ、俺は自然と手に取り、中身を読む。

……めちゃくちゃ古語っぽくて、読みにくかったが、読めそうな漢字を拾って意味を推測した。

——これ、八尺様からの手紙だ。

『まずは、文通からはじめましょう』

どうやら、俺は八尺様と文通することになったらしい。
いったい何故こうなった……?


おわり

3/29/2026, 12:38:47 AM