『特別な存在』
君は僕にとって、特別な存在だ。
だけど、君は僕こそが特別な存在だという。
○○○
「……王子は、なんでいつも私の元へやってくるのですか?」
君が不思議そうな顔で僕に聞いてくる。
眉間に皺がより、仕事の手は止めないまま。
あからさまに、仕事が忙しいのだから来るな、と物語っているようだ。
「そうだなぁ。宰相が僕にとって特別な存在だから、かな」
「はぁ、またそれですか。私なんて計算が出来るだけの、どこにでもいる存在ですよ」
「そんなことないよ」
宰相は、馬鹿につける薬はない、とばかりに首を振り無言で書類仕事を進める。
彼女はとても優秀だ。
……優秀過ぎて、同僚達から冤罪をでっち上げられるぐらいに。
出る杭は打たれる、とは何処の国の言葉だっただろうか。
そんな言葉が彼女にも、適応された。
彼女は少し……ごめん嘘ついた。かなり世渡りが下手くそだ。
だが、それが彼女の個性でもあるのだろう。
「王子、この書類と書類、ココが間違えています」
「ん? あぁ、確かに。言っておくよ」
「……ありがとうございます」
「いいよ。こっちこそ、いつもありがとうね」
彼女は嘘をつかない。
……つけない、のかもしれない。
別に呪いという訳ではなく、単純に真っすぐで真面目な性格故だろう。
駄目なことは駄目。竹のように真っすぐではっきりとし、割り切った性格は、多少なりとも悪事に手を染めた者達からは疎ましくて仕方がない。
搦手を使う、というのが、どうにも苦手なのだろう。
冤罪に処罰されそうになっていた彼女を救ったのは、僕だった。
『私は! 私は何もしていません!! ただ、この国のために、一心に己の全てを捧げているのです!!』
『! ……その言葉は、本当かい?』
『!! はい、王子』
彼女の言葉に嘘はない。
それが、僕には分かった。
何故ならば、僕には生まれ持った特性がある。
……人の嘘が、分かるのだ。
だからこそ、あのとき彼女が嘘をついていないのが分かった。
彼女は、とても貴重な存在だ。
私欲ありまくりで嘘つきとおべっか共が取りなす、この世界で。
真っすぐに嘘偽りない忠誠を捧げる君。
——特別な存在なのだ。
「特殊な地位も、特殊な能力も、ただの個性だよ」
「……はい? 何か言いましたか?」
「いいや。君は今日もすごいなぁって」
「私は、別に……当たり前に仕事しているだけです」
「ところで、いつになったら僕の求婚を受け付けてくれるの?」
「それとこれとは、別ですので」
……先は、長そうだ。
君は、僕にとって、たった一人しかいない。特別な存在。
この世で一番信頼できる忠臣であり、
——この世でたった一人愛する女性である。
おわり
『バカみたい』
バカみたい。
みんな、みんなバカみたい。
いや、なんで本当に馬と鹿になってんの??
バカなの? 死ぬの??
○○○
馬と鹿スピリチュアル現象。
世界というのは、ブームがある。
『朝、目が覚めたら毒虫になっていた』
なんて本を書いた人が居た。
その人が生きていた当時には、サナトリウムという自然治療がなんかめちゃくちゃブームだったらしい。健康的だと。
ちなみに今はもうない。
世界には流行りというものが、ある。
それはある意味、世界が生きた証で、世界の歴史、文化なのかも、しれない。
……だからといって、これを許容して良いものか、幾ばくも生きていない女子高生の私に分かりかねた。
というかシンプルに嫌だった。
もっとマリトッツォとか、マカロンとか、アサイーとか、お洒落なヤツが流行って欲しかった。
ワガママだろうか??
始まりはこんな事だった。
『賢い人ほど、幸福度指数が低い』
そんな根も葉もない、しかし権威と発言力だけある論文に、世界中が魅了された。
賢い人ほど、様々な事を心配してストレスで過労死する。
陽気でマイペースで楽観的な人ほど、ストレスが無く長生き出来て、しかも小さな事で幸せになれる。
バカは、気が付かないというのは、幸せな事なのだ。
……昔は賢い事が、幸福の証だった。
しかし、今はAI時代だ。
賢さは人間の特権ではない。既に、AIが居れば人間は賢くある必要すら無いのだから。
私達は、幸せになりたかった。
そうだろう、不幸になりたい人は居ない。
そんな時に流行ったのが、馬と鹿信仰だ。
これは、一昔前、コロナという疫病が流行ったときに、アマビエという神が信仰されたのと、類似するナニカだった。
あのブームが、馬と鹿で訪れた。
……みんな、馬や鹿の被り物、アクセサリー、ペットを飼い始めたり、奈良の鹿を拝んだりしている。
今や、馬と鹿の会話は、天気の話ぐらい社会でメジャーな話題だ。共通のコミュニケーションツールとも言える。
私は言いたかった。
『もう既に十分、バカだから、これ以上馬鹿にならないでよ』
と。
鹿の冷たい視線を見てみろ。なんだこの人間は、マジで意味分かんない、アホなの? という呆れた視線を。
そりゃそうだ。いきなり拝まれても鹿だって困るだろう。
馬鹿になりたいと願っているが、その行動自体が、もう既に馬鹿だと気づけない、それが馬鹿なのだ。
……もう、馬鹿がゲシュタルト崩壊して、意味わからん。
私、一人が未だに、このブームに乗れないでいる。
だって、馬と鹿の被り物は可愛くないし。
……でも、私一人、コミュニティに入れないのは、ちょっと辛い。話が合わないし、え? まだ馬と鹿の被り物してないの? 遅れてる、みたいな空気読めないよね、みたいな視線が辛い。
……馬鹿は、誰なんだろう。
賢いとは、いったいなんなんだろう。
この世界には、バカしかいないのかもしれない。
——私も含めて。
本当にバカみたい。
私はフッと、笑うと鹿の被り物に手を伸ばした。
おわり
『二人ぼっち』
「この世界に、二人ぼっちだね」
「うん。お前が全員食べちゃったからね」
僕は、てへへと君に笑った。
君は呆れた顔をして僕を見ていた。
○○○
前略、地球はかくも美しい。
そして、地球人は、みな可愛らしい。
だから、食べることにした。
僕は宇宙人だ。
色んな物を食べるけど、最近は地球人に嵌っている。
地球人は素晴らしい。
手が二本も有るし、目も二つもある。まあ、足が二本しかないのはどうかと思うけど。猫や犬みたいに、あともう二本生えてたら良かったのだけど、文句は言うまい。
なにより、とても可愛い。
黒い毛のヤツや、金髪の毛のヤツ、目が緑なのと、青なのと、茶色なのと、カラフルで色があった楽しい。
僕は、食事はやっぱり見た目が大事だと思ってる。
どんなに美味しい料理でも、見た目が台無しだと、まず食べようという気がおきない。
ちなみに、僕は嗅覚は無いので、香りはよく知らん。
僕は地球人を食べた。とても食べた。
一度食べたら、その感覚が止まらなくなって、スナックを摘むように食べ続けたら……やってしまった。
人間は一人では増えないから、二人は残して置かなければならなかったのに、ついつい美味しすぎて食べてしまった。
「最後の一つだと思うと、どうにも食べるのが惜しいなぁ」
「いや、アンタが食べなくても、人類に希望なんて無いし、どっちみち老いて死ぬだけだが?」
「じゃあ、その前には食べてあげるよ」
「……うん」
今日から人間との生活がスタートした。
僕と、人間の二人ぼっち生活。
人間を飼うのなんて、はじめてだけど、命に責任をもって幸せにしよう!! よし、頑張るぞ!!
おわり
『夢が醒める前に』
夢が醒める前に、やらなければならない事がある。
——それは君を殺す事だ。
○○○
21XX年。
人類の在り方は大きく変化した。
もはや地球に人類は居ない。
宇宙に巨大な太陽光発電システムを飛ばし、
月にコロニーを建て、人々差はすし詰めにされて眠りにつく。
そして、仮想空間の中で生活するのだ。
——地球に似た土地、メタバース“アース”で。
決して人類は幸せになど、ならなかった。
戦争は無くならないし、民の差は埋まらない。
イジメだって、当たり前のように起こっている。
昔、人類には、こんな転換期があった。
工業発明だ。
人力でやっていた事が、機械作業になる。
それにより、多くの人が失業した。
が、それにより……物が溢れかえり、貧困する人は居なくなる。
……まぁ、そんな訳が無かった。
スーパーに売れ残った食材が大量に捨てられ、ハローワークには仕事がない仕事がないと、機械に仕事を取られた物が嘆く。
肉体的なイジメは、精神的なイジメへと変化した。
食べるものに困らないのに、物に溢れているのに、身体的なイジメは無くなったのに、……だから、なんだ??
人々の幸福度は、まったく変わらなかった。
これは、人類の進化……ではない、変化なのだ。
そして、それがAIでも起こった。
人々は、暗記帳を手放し、頭脳労働を止めた。
電卓が生まれソロバンを弾かなくなったように。
難しく考えることを、覚えていることを止めた。
そして、イジメの形態は変化した。
——無視、だ。
悪気がある訳ではない。おそらく。
それよりももっと酷い、のだろう。
好きの反対は、無関心だと、誰かが言った。
拳を振るう事が(自分の腕も痛めるという事を含めるなら)愛情で、誰かの陰口を叩くことが(その人のために自分の時間を潰し、その人が存在していることを認めるというなら)認知ならば、無関心は拒絶……いや、空気だ。
電子は単純だ。
見たくないものは、見なければいい。
だから、誰もが透明人間になれるし、
——誰もが、透明人間にされることを恐れた。
……ところで、だ。
自分の知覚出来ない範囲について、どれだけ知ろうと出来るだろうか、君は。
この国の外の出来事は? 太陽のことは?
太陽に寿命があることは知っているよね? それはいつ? 太陽が亡くなったら、どう生計立てるか考えている?
……居ないだろう。
人々は自分の暮らしで手一杯だ。
そんなことを考える余裕すら、無いのだ。
だから、忘れている。
自分の体の本体が“月”にあるのだ、と。
ここは、電子空間に作られた仮初の地球“メタバースアース”なのだと。
だから、みんな、今いる此処が“本当の地球”だと思いこんで疑わ無いのだ。
……月にある、コロニーは管理する人が少なくなっていて、もはや残るは私一人だ。
私が死ねば、君達の“メタバースアース”を管理する人が居なくなり、緩やかに、緩やかに滅んで行くことだろう。
——目を、覚ましてくれ。頼む。
夢が醒める前に、やらなければならない事がある。
——それは君を殺す事だ。
そして、本来の君を見つけなければいけない。
君が、死んでしまう、前に。夢から醒めるんだ。
そうでなければ、ギャップの差に生きていけないのだろう。
おわり
○○○
※この物語はSF系のフィクションです。自殺を促すような意図はございません。各自、ご自分の命と人生を、ご自分で大事になさって生きてください。よろしくお願いします。
『胸が高鳴る』
世界に胸が高鳴っていた。
……あぁ、この瞬間を待ち望んでいたのだ。
僕は笑った。幽玄に、うっそりと。
君は泣いた。悔しそうに、唇を噛み締めて。
○○○
特別、というのが好きだった。
ハレー彗星、皆既月食、ストロベリームーン。
とうてい、人間の寿命では次は見られない。
そんな偉大なる期間限定の、運命の神秘に心囚われている。
「なぁ、知ってるか? 週末、流星群が見れるらしいぜ。一緒に行かないか?」
「……本当かい? 僕はそんなこと、ちっとも聞いたことが無いけど」
「ここだけの話だ。俺の友人が、こっそり教えてくれたんだよ」
そう言って彼は、ニッと僕に笑いかけてくれる。
陰気な僕には、彼ぐらいしか友人が居ない。
陽気で優しくて頼もしい彼の姿に、いつも僕は感謝している。
「……じゃあ、行こうかな」
「よっしゃ! そうこなくっちゃな!!」
○○○
僕達は、週末、小高い丘の上に居た。
流星群を見るためだ。
……だが、それは流星群などでは無かった。
——地球を侵略しに来た、宇宙人のUFOの大群だったのだ。
「アナタ達ハ、チキュウを汚シスギた。ダカラ、排除スル。ワレワレの方ガ、この星をダイジにデキル!!」
血相を変えた友人が、僕を必死に守ろうとしてくれた。いの一番に僕を逃がそうとしてくれた。
だけど、僕はそれをやんわりと押しのけて、逆に一歩前に出た。
「僕も、お手伝いさせてください」
瞬間、目を大きく見開いた彼の顔を、僕が忘れることは無いだろう。
「なんで……?」
「ごめん。でも——人類が滅ぶ姿なんて、僕の寿命じゃ見られないぐらいレアな事だから」
僕は希少価値の高い物が好きだ。
ハレー彗星、皆既月食、ストロベリームーン。
……そして一度しか人類に訪れないだろう、人類の滅亡。
僕は胸が高鳴っていた。
……あぁ、この瞬間を待ち望んでいたのだ。
僕は笑った。幽玄に、うっそりと。
君は泣いた。悔しそうに、唇を噛み締めて。
「オマエ、イカれてる。ダガ、ミコミある。コイ」
僕は無事に宇宙人達に迎え入れられた。
○○○
さようなら、友人。
こんにちは、宇宙人。
宇宙船の中で、僕は頬杖をついて窓の外を眺めていた。
月って、近くで見ると意外と丸くないな、なんて思う。
………たった一つだけ、言わなかった事。
心に決めた事が、僕にはあった。
僕は人類が滅ぶ姿がみたい。そこは変わらない。
——だけど、友人が死ぬ姿は見たくない。
……どうにか、友人だけでも他の惑星に逃がせる術を探さなきゃ。
僕は友人に睨みつけられた時を思い出しながら、一人固く決心を固めた。
おわり