白井墓守

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『胸が高鳴る』

世界に胸が高鳴っていた。
……あぁ、この瞬間を待ち望んでいたのだ。

僕は笑った。幽玄に、うっそりと。
君は泣いた。悔しそうに、唇を噛み締めて。

○○○

特別、というのが好きだった。
ハレー彗星、皆既月食、ストロベリームーン。

とうてい、人間の寿命では次は見られない。
そんな偉大なる期間限定の、運命の神秘に心囚われている。

「なぁ、知ってるか? 週末、流星群が見れるらしいぜ。一緒に行かないか?」
「……本当かい? 僕はそんなこと、ちっとも聞いたことが無いけど」
「ここだけの話だ。俺の友人が、こっそり教えてくれたんだよ」

そう言って彼は、ニッと僕に笑いかけてくれる。
陰気な僕には、彼ぐらいしか友人が居ない。
陽気で優しくて頼もしい彼の姿に、いつも僕は感謝している。

「……じゃあ、行こうかな」
「よっしゃ! そうこなくっちゃな!!」

○○○

僕達は、週末、小高い丘の上に居た。
流星群を見るためだ。

……だが、それは流星群などでは無かった。
——地球を侵略しに来た、宇宙人のUFOの大群だったのだ。

「アナタ達ハ、チキュウを汚シスギた。ダカラ、排除スル。ワレワレの方ガ、この星をダイジにデキル!!」

血相を変えた友人が、僕を必死に守ろうとしてくれた。いの一番に僕を逃がそうとしてくれた。
だけど、僕はそれをやんわりと押しのけて、逆に一歩前に出た。

「僕も、お手伝いさせてください」

瞬間、目を大きく見開いた彼の顔を、僕が忘れることは無いだろう。

「なんで……?」
「ごめん。でも——人類が滅ぶ姿なんて、僕の寿命じゃ見られないぐらいレアな事だから」

僕は希少価値の高い物が好きだ。
ハレー彗星、皆既月食、ストロベリームーン。

……そして一度しか人類に訪れないだろう、人類の滅亡。

僕は胸が高鳴っていた。
……あぁ、この瞬間を待ち望んでいたのだ。

僕は笑った。幽玄に、うっそりと。
君は泣いた。悔しそうに、唇を噛み締めて。

「オマエ、イカれてる。ダガ、ミコミある。コイ」

僕は無事に宇宙人達に迎え入れられた。

○○○

さようなら、友人。
こんにちは、宇宙人。

宇宙船の中で、僕は頬杖をついて窓の外を眺めていた。
月って、近くで見ると意外と丸くないな、なんて思う。

………たった一つだけ、言わなかった事。
心に決めた事が、僕にはあった。

僕は人類が滅ぶ姿がみたい。そこは変わらない。
——だけど、友人が死ぬ姿は見たくない。

……どうにか、友人だけでも他の惑星に逃がせる術を探さなきゃ。

僕は友人に睨みつけられた時を思い出しながら、一人固く決心を固めた。


おわり

3/20/2026, 1:06:27 AM