『夢が醒める前に』
夢が醒める前に、やらなければならない事がある。
——それは君を殺す事だ。
○○○
21XX年。
人類の在り方は大きく変化した。
もはや地球に人類は居ない。
宇宙に巨大な太陽光発電システムを飛ばし、
月にコロニーを建て、人々差はすし詰めにされて眠りにつく。
そして、仮想空間の中で生活するのだ。
——地球に似た土地、メタバース“アース”で。
決して人類は幸せになど、ならなかった。
戦争は無くならないし、民の差は埋まらない。
イジメだって、当たり前のように起こっている。
昔、人類には、こんな転換期があった。
工業発明だ。
人力でやっていた事が、機械作業になる。
それにより、多くの人が失業した。
が、それにより……物が溢れかえり、貧困する人は居なくなる。
……まぁ、そんな訳が無かった。
スーパーに売れ残った食材が大量に捨てられ、ハローワークには仕事がない仕事がないと、機械に仕事を取られた物が嘆く。
肉体的なイジメは、精神的なイジメへと変化した。
食べるものに困らないのに、物に溢れているのに、身体的なイジメは無くなったのに、……だから、なんだ??
人々の幸福度は、まったく変わらなかった。
これは、人類の進化……ではない、変化なのだ。
そして、それがAIでも起こった。
人々は、暗記帳を手放し、頭脳労働を止めた。
電卓が生まれソロバンを弾かなくなったように。
難しく考えることを、覚えていることを止めた。
そして、イジメの形態は変化した。
——無視、だ。
悪気がある訳ではない。おそらく。
それよりももっと酷い、のだろう。
好きの反対は、無関心だと、誰かが言った。
拳を振るう事が(自分の腕も痛めるという事を含めるなら)愛情で、誰かの陰口を叩くことが(その人のために自分の時間を潰し、その人が存在していることを認めるというなら)認知ならば、無関心は拒絶……いや、空気だ。
電子は単純だ。
見たくないものは、見なければいい。
だから、誰もが透明人間になれるし、
——誰もが、透明人間にされることを恐れた。
……ところで、だ。
自分の知覚出来ない範囲について、どれだけ知ろうと出来るだろうか、君は。
この国の外の出来事は? 太陽のことは?
太陽に寿命があることは知っているよね? それはいつ? 太陽が亡くなったら、どう生計立てるか考えている?
……居ないだろう。
人々は自分の暮らしで手一杯だ。
そんなことを考える余裕すら、無いのだ。
だから、忘れている。
自分の体の本体が“月”にあるのだ、と。
ここは、電子空間に作られた仮初の地球“メタバースアース”なのだと。
だから、みんな、今いる此処が“本当の地球”だと思いこんで疑わ無いのだ。
……月にある、コロニーは管理する人が少なくなっていて、もはや残るは私一人だ。
私が死ねば、君達の“メタバースアース”を管理する人が居なくなり、緩やかに、緩やかに滅んで行くことだろう。
——目を、覚ましてくれ。頼む。
夢が醒める前に、やらなければならない事がある。
——それは君を殺す事だ。
そして、本来の君を見つけなければいけない。
君が、死んでしまう、前に。夢から醒めるんだ。
そうでなければ、ギャップの差に生きていけないのだろう。
おわり
○○○
※この物語はSF系のフィクションです。自殺を促すような意図はございません。各自、ご自分の命と人生を、ご自分で大事になさって生きてください。よろしくお願いします。
3/21/2026, 12:39:55 AM