『二人ぼっち』
「この世界に、二人ぼっちだね」
「うん。お前が全員食べちゃったからね」
僕は、てへへと君に笑った。
君は呆れた顔をして僕を見ていた。
○○○
前略、地球はかくも美しい。
そして、地球人は、みな可愛らしい。
だから、食べることにした。
僕は宇宙人だ。
色んな物を食べるけど、最近は地球人に嵌っている。
地球人は素晴らしい。
手が二本も有るし、目も二つもある。まあ、足が二本しかないのはどうかと思うけど。猫や犬みたいに、あともう二本生えてたら良かったのだけど、文句は言うまい。
なにより、とても可愛い。
黒い毛のヤツや、金髪の毛のヤツ、目が緑なのと、青なのと、茶色なのと、カラフルで色があった楽しい。
僕は、食事はやっぱり見た目が大事だと思ってる。
どんなに美味しい料理でも、見た目が台無しだと、まず食べようという気がおきない。
ちなみに、僕は嗅覚は無いので、香りはよく知らん。
僕は地球人を食べた。とても食べた。
一度食べたら、その感覚が止まらなくなって、スナックを摘むように食べ続けたら……やってしまった。
人間は一人では増えないから、二人は残して置かなければならなかったのに、ついつい美味しすぎて食べてしまった。
「最後の一つだと思うと、どうにも食べるのが惜しいなぁ」
「いや、アンタが食べなくても、人類に希望なんて無いし、どっちみち老いて死ぬだけだが?」
「じゃあ、その前には食べてあげるよ」
「……うん」
今日から人間との生活がスタートした。
僕と、人間の二人ぼっち生活。
人間を飼うのなんて、はじめてだけど、命に責任をもって幸せにしよう!! よし、頑張るぞ!!
おわり
『夢が醒める前に』
夢が醒める前に、やらなければならない事がある。
——それは君を殺す事だ。
○○○
21XX年。
人類の在り方は大きく変化した。
もはや地球に人類は居ない。
宇宙に巨大な太陽光発電システムを飛ばし、
月にコロニーを建て、人々差はすし詰めにされて眠りにつく。
そして、仮想空間の中で生活するのだ。
——地球に似た土地、メタバース“アース”で。
決して人類は幸せになど、ならなかった。
戦争は無くならないし、民の差は埋まらない。
イジメだって、当たり前のように起こっている。
昔、人類には、こんな転換期があった。
工業発明だ。
人力でやっていた事が、機械作業になる。
それにより、多くの人が失業した。
が、それにより……物が溢れかえり、貧困する人は居なくなる。
……まぁ、そんな訳が無かった。
スーパーに売れ残った食材が大量に捨てられ、ハローワークには仕事がない仕事がないと、機械に仕事を取られた物が嘆く。
肉体的なイジメは、精神的なイジメへと変化した。
食べるものに困らないのに、物に溢れているのに、身体的なイジメは無くなったのに、……だから、なんだ??
人々の幸福度は、まったく変わらなかった。
これは、人類の進化……ではない、変化なのだ。
そして、それがAIでも起こった。
人々は、暗記帳を手放し、頭脳労働を止めた。
電卓が生まれソロバンを弾かなくなったように。
難しく考えることを、覚えていることを止めた。
そして、イジメの形態は変化した。
——無視、だ。
悪気がある訳ではない。おそらく。
それよりももっと酷い、のだろう。
好きの反対は、無関心だと、誰かが言った。
拳を振るう事が(自分の腕も痛めるという事を含めるなら)愛情で、誰かの陰口を叩くことが(その人のために自分の時間を潰し、その人が存在していることを認めるというなら)認知ならば、無関心は拒絶……いや、空気だ。
電子は単純だ。
見たくないものは、見なければいい。
だから、誰もが透明人間になれるし、
——誰もが、透明人間にされることを恐れた。
……ところで、だ。
自分の知覚出来ない範囲について、どれだけ知ろうと出来るだろうか、君は。
この国の外の出来事は? 太陽のことは?
太陽に寿命があることは知っているよね? それはいつ? 太陽が亡くなったら、どう生計立てるか考えている?
……居ないだろう。
人々は自分の暮らしで手一杯だ。
そんなことを考える余裕すら、無いのだ。
だから、忘れている。
自分の体の本体が“月”にあるのだ、と。
ここは、電子空間に作られた仮初の地球“メタバースアース”なのだと。
だから、みんな、今いる此処が“本当の地球”だと思いこんで疑わ無いのだ。
……月にある、コロニーは管理する人が少なくなっていて、もはや残るは私一人だ。
私が死ねば、君達の“メタバースアース”を管理する人が居なくなり、緩やかに、緩やかに滅んで行くことだろう。
——目を、覚ましてくれ。頼む。
夢が醒める前に、やらなければならない事がある。
——それは君を殺す事だ。
そして、本来の君を見つけなければいけない。
君が、死んでしまう、前に。夢から醒めるんだ。
そうでなければ、ギャップの差に生きていけないのだろう。
おわり
○○○
※この物語はSF系のフィクションです。自殺を促すような意図はございません。各自、ご自分の命と人生を、ご自分で大事になさって生きてください。よろしくお願いします。
『胸が高鳴る』
世界に胸が高鳴っていた。
……あぁ、この瞬間を待ち望んでいたのだ。
僕は笑った。幽玄に、うっそりと。
君は泣いた。悔しそうに、唇を噛み締めて。
○○○
特別、というのが好きだった。
ハレー彗星、皆既月食、ストロベリームーン。
とうてい、人間の寿命では次は見られない。
そんな偉大なる期間限定の、運命の神秘に心囚われている。
「なぁ、知ってるか? 週末、流星群が見れるらしいぜ。一緒に行かないか?」
「……本当かい? 僕はそんなこと、ちっとも聞いたことが無いけど」
「ここだけの話だ。俺の友人が、こっそり教えてくれたんだよ」
そう言って彼は、ニッと僕に笑いかけてくれる。
陰気な僕には、彼ぐらいしか友人が居ない。
陽気で優しくて頼もしい彼の姿に、いつも僕は感謝している。
「……じゃあ、行こうかな」
「よっしゃ! そうこなくっちゃな!!」
○○○
僕達は、週末、小高い丘の上に居た。
流星群を見るためだ。
……だが、それは流星群などでは無かった。
——地球を侵略しに来た、宇宙人のUFOの大群だったのだ。
「アナタ達ハ、チキュウを汚シスギた。ダカラ、排除スル。ワレワレの方ガ、この星をダイジにデキル!!」
血相を変えた友人が、僕を必死に守ろうとしてくれた。いの一番に僕を逃がそうとしてくれた。
だけど、僕はそれをやんわりと押しのけて、逆に一歩前に出た。
「僕も、お手伝いさせてください」
瞬間、目を大きく見開いた彼の顔を、僕が忘れることは無いだろう。
「なんで……?」
「ごめん。でも——人類が滅ぶ姿なんて、僕の寿命じゃ見られないぐらいレアな事だから」
僕は希少価値の高い物が好きだ。
ハレー彗星、皆既月食、ストロベリームーン。
……そして一度しか人類に訪れないだろう、人類の滅亡。
僕は胸が高鳴っていた。
……あぁ、この瞬間を待ち望んでいたのだ。
僕は笑った。幽玄に、うっそりと。
君は泣いた。悔しそうに、唇を噛み締めて。
「オマエ、イカれてる。ダガ、ミコミある。コイ」
僕は無事に宇宙人達に迎え入れられた。
○○○
さようなら、友人。
こんにちは、宇宙人。
宇宙船の中で、僕は頬杖をついて窓の外を眺めていた。
月って、近くで見ると意外と丸くないな、なんて思う。
………たった一つだけ、言わなかった事。
心に決めた事が、僕にはあった。
僕は人類が滅ぶ姿がみたい。そこは変わらない。
——だけど、友人が死ぬ姿は見たくない。
……どうにか、友人だけでも他の惑星に逃がせる術を探さなきゃ。
僕は友人に睨みつけられた時を思い出しながら、一人固く決心を固めた。
おわり
『泣かないよ』
泣かないよ、こんなことで。
泣いてもいいか、こんなとこで。
涙には自浄作用があるらしい、なんて話がある。
嘘か誠かは知らない。
一人の少女が両手を骨折した。
彼女はピアニストで、翌日に大事なコンテストが控えているばかりだった。
可哀想、泣いてもいいのよ。という声に、彼女は言った。
「泣かないよ、こんなことで。人生にトラブルは付き物だわ。泣いている暇があるなら、次のコンテストに何の曲を弾くか考えなくっちゃ!」
一人の男が宝くじに当たった。十億だった。
彼は就職に失敗し掛け持ちバイトのフリーターで生活する極貧の、しかし真面目で優しい男だった。
彼には大学生からの彼女が居た。もう十年の付き合いになる。
宝くじに当たった男は、彼女にプロポーズしようと、ずっと昔に彼女が好きだと言っていたハイブランドの指輪と、彼女が好きな花の花束を持って、初めてのデートの場所に待ち合わせた。
彼女は男と一緒だった。
少しチャラそうな、軽薄な笑みがよく似合う男だった。
アタシ、この人と結婚するから、アンタとは結婚しないわ。
彼女がそう言った。固まる男に、チャラ男が言った。
良いサイフにされちゃってたねぇ~可哀想、お兄さん。
ケラケラと男を笑いながら、二人は去っていく。
男は一人、カップルがイチャイチャする花畑の中で、呆然と空を見上げていた。
もうただシンプルに泣きたかった。こんなカップルが周りに居る中にも関わらず。
泣かない少女と、泣きたい男は、そのときちょうど同じ場所に居た。
二人の目が合う。
これは、そんな二人が出会って、何かが始まるお話。
……続かないよ!!
おわり!!!
『怖がり』
俺の妹は怖がりだった。
……いつからだろう、妹が俺の後ろから俺の前に立つようになったのは。
最期に見た、俺に笑いかける妹の死に姿が目に焼き付いて離れそうになかった。
○○○
俺は王子、第一王子だ。もうすぐ王になる。
この国には、俺と妹しか王の子どもが居ない。
俺と妹は、とても仲の良い兄妹だ。
「兄さま! みて! ダンゴムシ!!」
「おお、そうだな」
「ねぇ! このダンゴムシを育てて馬の代わりにしましょうよ!!」
「ははは……え、マジで言ってる? 嘘じゃなくて?」
ちなみに、このダンゴムシはマジで大きくなった。
たぶん眼とかたくさん生えてきて赤とか青とかになるやつの幼体だったんだと思う、マジで。別に海は腐らなかったけど。
閑話休題。
「ねぇ、兄さま。どうして人前に出ないといけないの。ずっと二人でお城の中でシロツメクサの冠を作って暮らしましょうよ」
「……ごめんな」
妹は、怖がりだった。
……いや、知っていたのだ。人間の恐ろしさを。俺以上に。
妹はきっと、俺よりずっと聡明だった、だったから、
「ねぇ兄さま。あたし決めたわ、騎士になる」
「……は? いや、お前はね、女の子なの、分かる?」
「だって兄さまを守る信頼できる人なんて居ないじゃない」
「——それは」
「だからあたしがなるの。あたししか居ないのよ、兄さま」
○○○
「兄さ、ま、いき、てる?」
「あ、ああ、おま、お前、お前は……」
「よかっ……た」
俺の頬に妹の手が添えられる。
あついほどに熱の高い体温が急激に冷めていくのを感じる。
ぬるり、と俺の頬が赤の血しぶきに彩られた。
「…………」
笑ったまま、妹は、死んだ。
俺を守って……俺という王を、兄である王を守って、死んだ。
強く、唇を噛み締めた。
それしか出来なかった。
泣くことも、ありがとうと笑うことも。
兄なのに妹を守れずに悔しいと嘆くことも。
なにも、何も……出来なかった。
○○○
「貴方様がご無事で何よりでした。とても素晴らしい兄妹愛ですな!」
……誰もが妹の死を喜んだ。
俺を庇った名誉ある死だと、喜んだ。
俺は、またもや何も、言えなかった。
○○○
一人になってしまった庭で、シロツメクサの冠を編む。
そして、そっと墓石にかけてやった。
何も言わず、何も言えず。
泣きも笑いもせず、じっと見つめた。
「また来る」
そんな俺の姿を、あの怖がりの妹が、墓石の裏に隠れて見守っていてくれる、そんな気がした。
……俺ももう、怖がってばかりじゃいられないんだ。
立派な王にならないと。
お前が自慢できるような、そんな兄でいたいから。
怖がりの俺は、覚悟を決めて一歩前へ踏み出した。
おわり