『泣かないよ』
泣かないよ、こんなことで。
泣いてもいいか、こんなとこで。
涙には自浄作用があるらしい、なんて話がある。
嘘か誠かは知らない。
一人の少女が両手を骨折した。
彼女はピアニストで、翌日に大事なコンテストが控えているばかりだった。
可哀想、泣いてもいいのよ。という声に、彼女は言った。
「泣かないよ、こんなことで。人生にトラブルは付き物だわ。泣いている暇があるなら、次のコンテストに何の曲を弾くか考えなくっちゃ!」
一人の男が宝くじに当たった。十億だった。
彼は就職に失敗し掛け持ちバイトのフリーターで生活する極貧の、しかし真面目で優しい男だった。
彼には大学生からの彼女が居た。もう十年の付き合いになる。
宝くじに当たった男は、彼女にプロポーズしようと、ずっと昔に彼女が好きだと言っていたハイブランドの指輪と、彼女が好きな花の花束を持って、初めてのデートの場所に待ち合わせた。
彼女は男と一緒だった。
少しチャラそうな、軽薄な笑みがよく似合う男だった。
アタシ、この人と結婚するから、アンタとは結婚しないわ。
彼女がそう言った。固まる男に、チャラ男が言った。
良いサイフにされちゃってたねぇ~可哀想、お兄さん。
ケラケラと男を笑いながら、二人は去っていく。
男は一人、カップルがイチャイチャする花畑の中で、呆然と空を見上げていた。
もうただシンプルに泣きたかった。こんなカップルが周りに居る中にも関わらず。
泣かない少女と、泣きたい男は、そのときちょうど同じ場所に居た。
二人の目が合う。
これは、そんな二人が出会って、何かが始まるお話。
……続かないよ!!
おわり!!!
3/18/2026, 12:52:28 AM