白井墓守

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2/5/2026, 6:53:21 AM

『Kiss』

柔らかな頬に口付けを落とした。
——瞬間、頬は氷に包まれた。

「ごめんなさい、こんな方法しかとれなくて」

○○○

わたしは雪女だ。
そして、人間の男の恋人が居る。

もうすぐ結婚する予定だったが、おそらく無理だろう。

「おめぇのとこの女、ありゃあ化物に違げぇねぇぜ」
「そんな事、言わないでくれるか? 僕の大事な人なんだ」
「坊ちゃん、悪いことは言わねぇ。止めておきなせぇ」
「彼女は何もしてないじゃないか。子供を救っただけだ」
「熊を一匹、氷漬けにして……でしょう? 恐ろしや」

村の子供が熊に襲われそうになっていた。
だから咄嗟に、吹雪で氷漬けにしてしまった。
そして、わたしはそれを見られてしまったのだ。

もう、無理だ。無理なのだ。
やっぱり、人間と妖の恋は実らない。

「はぁ……駄目だなぁ、こりゃ。……一緒に殺すしかねぇべ」
「だなぁ。村に一人の医者だったが、しゃあねぇべや」

クワを掲げられ、殺されそうになっている彼の前に出る。
熊を氷漬けにしたように、吹雪で二人の村人を凍らす。

「……君は、今のを聞いていたんだね。ごめん」
「いいえ。これは仕方がないことだったのよ」
「なぁ、逃げよう。二人ならきっと」
「いいえ。……ごめんなさいね」

二人で逃げられたらどんなに良いだろう。だが、無理だ。
彼は身体が弱いのだ。逃避行になんて堪えられない。
だから、わたしは彼の柔らかな頬に口付けを落とした。

瞬間、彼が氷漬けになる。
しかし、吹雪と違うのは、彼の氷は溶けること。
溶けたときには、彼は生きているだろう。
——これは足止めの氷だから。

「さよなら」

わたしはその場から去った。
流れ落ちる涙が、氷の粒となり、キラキラと輝いていた。


おわり

2/4/2026, 8:24:42 AM

『1000年先も』

1000年先もずっと君と居たい。
そう思っていた筈なのに……。

そんな思いは露と消えた。

「ごめんなさいね」
「……なんといえばいいか、わからない」

彼女はとても綺麗な笑顔で言った。

「あなたの子が出来たの。私だけでなく、この子も愛してくださるわよね?」

……僕は君だけで良いと思っていた。
だけど、うん。

1000年先もずっと君たちと居たい。
僕はそう思った。思えた。

——たとえ、彼らが100年しか生きない人間で。
——僕が、あと1000年生きるエルフだったとしても。


おわり

2/3/2026, 1:21:21 AM

『勿忘草(わすれなぐさ)』

Forget me not.
(わたしを忘れないでください)

○○○

勿忘草は、青紫の小さな花だ。
僕の最愛である彼女の大好きな花だ、愛した花だ。
彼女が勿忘草を手に笑うことは、もうない。

僕は無言で、勿忘草の花束を墓石に捧げた。

「天国に、勿忘草は生えているのかな」

ポツリと僕はそう呟く。
旅行好きの僕がまだ行ったことのない場所。
いつか僕も行くことになる場所。
天国に思いを馳せつつ、僕は彼女の冥福を祈った。

今日は青天だ。
まるで勿忘草の花畑のような、雲一つない青空。
僕は真冬の冷たい空気をものともせず、ひと呼吸した。
冷たい澄んだ空気が肺に溜まる。
生きている、そう実感した。
もう動かない、感じない彼女と違って。

彼女は笑顔が似合う女性だった。
よく人助けをしている人だった。

僕がなんで、自分の利益にもならないのにそんな事をするのかと聞いたとき、彼女は笑ってこう言った。

『わたし、忘れられるのが怖いの。だけど人に優しくしていたら、死んだときに覚えている可能性が増えるじゃない?』

と。
真夏の太陽のような笑顔が眩しくて、僕は目を細めたのを覚えている。

「僕は、忘れないよ——忘れられるものか」

僕は無言で取り出したエンゲージリングを取り出した。

「あともう少し早ければ、君は奥さんになってくれていたのかな……なんて」

片方のエンゲージリングを花束の横に置く。
あぁ、今日は本当に空が青いな。
きっと天国では勿忘草の花がたくさん咲いているのだろう。

おわり

2/2/2026, 5:30:15 AM

『ブランコ』

「ねぇ、あなたってブランコって漕げるの?」
「ブランコ? あ、ああ……日本一周余裕だぜ!!」
「馬鹿なの?」

おわり


〈他、迷走した没案〉

『ブランコ』
サーカスの空中ブランコが揺れる。
人間が落ちてきて、人々の悲鳴が上がった。

『ブランコ』
僕はブランコを食べた。
ワサビをちょっと付けて食べると美味しかった。

『ブランコ』
公園のブランコが揺れる。
……誰も乗っていないのに。

○○○

今日、ちょっと長文書く気なかった。

2/1/2026, 5:13:04 AM

『旅路の果てに』

旅路の果てに、それはあった。
目が潰れそうなほど光り輝く金銀財宝の山が。

○○○

僕は海賊だ。
亡き父が遺したとされる、金銀財宝の在り処を探している。

「よぉ! 子ども船長! ご機嫌いかがぁ??」
「もうっ! 副船長! 揶揄うのは止めて下さい! 僕はたしかにチビですけど、もう子どもじゃないんですよ!!」

僕がぷくっと頬を膨らませて、彼を睨みつける。
彼は蓬莱のさんばらな褪せた長い金髪をかきあげながら、ヘラヘラとした笑みで僕の頭を撫でてくれた。
僕が子供の頃から、彼はこうやって僕の頭を撫でてくれた。
……父の代わりに。

「わりぃ、わりぃ。あまりに船長がチビでよぉ……飴ちゃんいるかぁ?」
「こらぁ!!」
「あはは!! 元気でいいねぇ! 子どもは元気が一番!!」

父とこんなやり取りをした事は一度もない。
父にとって、僕は息子では無かったからだ。

「そういや、母ちゃんの様子はどぅ? 生きてるかぁ?」
「……はい。ギリギリですが、お医者様が良いお薬を紹介してくださって」
「貴族令嬢も没落したら貧民ってこたぁな。金は?」
「もう無いです。だから、次の航海で……僕は亡き父の遺産を手に入れなければなりません」
「そっか……じゃあ頑張んなきゃなぁ!」
「……はい!!」

父が陸に上がったとき、貴族令嬢だった母に手を出して生まれた子、それが僕だ。
僕は父のたくさん居るであろう子どもの一人に過ぎず、父と離れて貴族令嬢の母の元で育った。

ある日、政略により母の実家が没落し、僕らは生活が困難になった。母は幼い僕のために必死に働いて体を壊してしまった。
……父からの支援は一切無かった。

「父親って、なんなんでしょうね……」

思わず、ボソリと呟いた。
副船長は無言で僕の頭を撫でてくれた。
その大きな手のひらの温もりに、じわりと涙が溢れてきて鼻を啜った。

○○○

数カ月後、とある洞窟にて。
僕らは様々なトラブルを乗り越え、亡き父の財産が隠されたとされる洞窟にやってきた。

先が見えない暗い洞穴、ちゃぷりと小波が船に当たり音を立てる。

「行くか、船長」
「はい、行きましょう。副船長」

長い長い旅路の果てに、それはあった。
目が潰れそうなほど光り輝く金銀財宝の山が。

僕は、それを見つけたときの心境を、言葉には出来なかった。
それほど、色々な気持ちが僕の中でぐるぐるとしていたから。

ただ、突っ立って涙を一筋流した。

「ほら、船長……はやく帰らなくっちゃ、だろ?」
「!……すん、そうですね! 母さんが待っていますから!」

二人で手分けして麻袋にお宝を詰め込む。
お互いに言葉は交わさず、無言の時が過ぎた。

「あれ、これって……?」

そのときだった。
僕は知ることになる。海賊の宝に手を出すというのはどういうことなのか。海賊の財産への執着の恐ろしさというものを。

「バカ! 坊主!!」
「え……ふく、せんちょ、う??」

彼が僕の体を強引に無理やり押しのけ、僕は体勢を崩した。
振り返った僕が見たのは、槍に串刺しにされた……副船長の姿だった。

罠だった。それも、致死性の。

「あーあー。かはっ……こりゃ、ダメだな。うん」
「え、え? まって、なに、え……え?」
「坊主……悪いことは言わねぇ。コレ持って立ち去れ。な?」
「それって、どういう……副船長は? ねぇ」
「坊主……俺は後から、いくよ」

彼は僕に向けて笑う。
まるで父親のような優しい笑みだった。

○○○

それからの事はよく覚えていない。
僕は必死に掴んだ麻袋を持って、一人で船に戻って洞窟を出た。
そして街で財宝を換金し、お金を手に入れ、母の薬代にした。
母は助かった。それは嬉しい。

だけど、僕は素直には喜べなかった。
あのあと作った、粗末な墓の前で僕は花束を置いた。

「…………副船長」
「呼んだか? 子ども船長」
「……え」


おわり

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