白井墓守

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『Kiss』

柔らかな頬に口付けを落とした。
——瞬間、頬は氷に包まれた。

「ごめんなさい、こんな方法しかとれなくて」

○○○

わたしは雪女だ。
そして、人間の男の恋人が居る。

もうすぐ結婚する予定だったが、おそらく無理だろう。

「おめぇのとこの女、ありゃあ化物に違げぇねぇぜ」
「そんな事、言わないでくれるか? 僕の大事な人なんだ」
「坊ちゃん、悪いことは言わねぇ。止めておきなせぇ」
「彼女は何もしてないじゃないか。子供を救っただけだ」
「熊を一匹、氷漬けにして……でしょう? 恐ろしや」

村の子供が熊に襲われそうになっていた。
だから咄嗟に、吹雪で氷漬けにしてしまった。
そして、わたしはそれを見られてしまったのだ。

もう、無理だ。無理なのだ。
やっぱり、人間と妖の恋は実らない。

「はぁ……駄目だなぁ、こりゃ。……一緒に殺すしかねぇべ」
「だなぁ。村に一人の医者だったが、しゃあねぇべや」

クワを掲げられ、殺されそうになっている彼の前に出る。
熊を氷漬けにしたように、吹雪で二人の村人を凍らす。

「……君は、今のを聞いていたんだね。ごめん」
「いいえ。これは仕方がないことだったのよ」
「なぁ、逃げよう。二人ならきっと」
「いいえ。……ごめんなさいね」

二人で逃げられたらどんなに良いだろう。だが、無理だ。
彼は身体が弱いのだ。逃避行になんて堪えられない。
だから、わたしは彼の柔らかな頬に口付けを落とした。

瞬間、彼が氷漬けになる。
しかし、吹雪と違うのは、彼の氷は溶けること。
溶けたときには、彼は生きているだろう。
——これは足止めの氷だから。

「さよなら」

わたしはその場から去った。
流れ落ちる涙が、氷の粒となり、キラキラと輝いていた。


おわり

2/5/2026, 6:53:21 AM