白井墓守

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10/24/2025, 11:44:21 PM

『秘密の箱』

秘密の箱には、何が入っている?

私の彼氏は秘密の箱を持っている。
一族の風習のようで、自分の秘密をそこに隠すらしい。

人の秘密を知るのなんて良くない。
しかし私はどうしても気になって、その箱を空けてしまった。
その中身は……。

「あれ、空っぽだわ」

不思議そうに首を傾げる私。
そこに彼氏がやってきて、手に持った箱と私を見て察した様子で口を開いた。

「何も驚くことはないよ。僕は君に対して、何の秘密も無かったってだけの話さ」

そう笑う彼氏に、なんだか気恥ずかしくなった。
真っ赤になる頬を隠して足早にその場を去る。

だから、こそ。
私には彼がその後呟いた言葉が聞こえなかった。

「いやはや。宝箱に宝を隠すほど馬鹿じゃない。隠したい物がある場合は、そもそもソレを持っていると知られない事だ。どんな鍵付き金庫だって場所を知られてたら時間の問題なのだから……」

そう言って秘密の箱の“底の部分”を弄り、中に入っていた自分の秘密をほくそ笑んだ顔でニヤリと笑っていた姿なんて。


おわり

10/24/2025, 4:49:51 AM

『秋風🍁』

しんなりと萎びたニンジンのようだ、

我輩は秋風をそのように説いた。
その言葉に、眉を上げた輩が口を開く。

「そりゃあ、どういうことだい?」

「森や木々が枯れ落ちるは、命が燃え尽きることなりて」

畏まって我輩がそう言うと、輩は手遅れだというように呆れた顔で肩を竦めた。

……どうやら、我輩のセンスは一日千秋を越えて未来の流行を先取りしてしまったらしい。やれやれ。


10/21/2025, 11:17:44 PM

『予感』

予感がした。
あぁ、きっと行くべきだ、と。

理由なんて無い。
むしろ理性は止めろ馬鹿と、けたたましい警報ベルのように鳴り響いていたが、本能がそれ以上に強く、強く欲した。
きっと、この手を掴まねば欲しい物は一生手に入らないぞ。と、それは砂漠で喉をカラカラにした旅人の前に差し出された草臥れて汚い水袋のように、その時確かに思えたのだ。

だから、こそ。
俺は……手を取った。

「俺、アイドルになります」

予感が、した。
きっと俺は、たくさんたくさん後悔する。
見なくて良い闇を見て、無遠慮に吐き出されるファンの皮を被った悪魔の罵詈雑言の心を使い古されたボロ雑巾のようにされる。
……それでも、それ以上に――今、行かないと一生ずっと後悔し続けるのだ。
やる後悔と、やらない後悔なら、俺は前者を選びたい。

差し出された手を強く握った。
その熱さと、自分の固い手、滲み出る自身の手から出る汗の居心地の悪さを、俺は一生忘れないだろう。

秋なのに、まだまだ熱い太陽の日差しに目を焼いた。
そんなよくある、秋の日だった。


おわり

10/20/2025, 9:42:15 AM

『君が紡ぐ歌』

世界は大抵、理不尽だ。
いつだって本物の綺麗なモノより、上辺だけのメッキの美しさばかりが賞賛を浴びている。

ほら、今も……大きなステージ上では枕をした大根女優が如何にも清廉な新人ですとばかりに光のスポットライトを浴びている。
逆に、地道に雑用やら何やらとシンデレラの如き下積みを重ねた君は舞台裏でデッキブラシを握っている。

下手くそな調子外れの歌が舞台から聞こえる。
きっとこれも、彼女の愛人のパトロンである評論家が天使の歌声だのなんだのと高く評価するのだ。
下らない。

本物の天上の調べは、舞台の上では行われない。
光の当たらない陰で、誰も居ないところにのみ存在する。

いつもスポットライトを動かす僕は、そう思った。

ほら、まばらなカーテンコールが鳴る。
思っていたのとは違った。
そんな顔の客を見るたびに僕は愉悦に内心ほくそ笑む。

本物の歌が舞台の上では行われない怒りと、そんな本物の歌を自分だけが知っているという仄暗い優越感が僕の中を満たしていた。

ああ、はやく君の紡ぐ歌が聞きたい。
こんな下らない音符の羅列ではなくて。

金色の音色が奏でる本物のハーモニーを。


おわり

10/19/2025, 9:52:16 AM

『光と霧の狭間で』


突然だが、俺の趣味は登山だ。
そして俺の山での教えは一つ『山では何が起こっても不思議じゃない』だ。
そんな俺のとある登山で起きた話を聞いてほしい。

『――汝、何を望むか』

山登りの最中、これは幻覚だろうか。
にしては、やけに威圧感の漂う超常的存在が、俺達にそう語り方掛けてきていた。
大きな圧を感じて、俺達は誰一人まともに声を上げることすら出来なかった。
……一人を除いて。

光と霧の狭間で、アイツは叫んだ。
この登山中にトラブルばかり起こして一切役に立たなかったやつだった。

「ファミチキくださーーーーい!!!」

光と霧の狭間の奥に居る、超常的存在が動揺したように激しく揺れ動いた気がした。
そのまま超常的存在は消え失せ、僕ら登山隊は何も無かった山に戻ってきていた。

「お前、すごいな」
「え、何が??」

俺達がシンプルにすごいと賞賛するも、アイツは自覚が無いのか何の事だと首を捻っていた。
すごいな、リアルな『僕、なにかやっちゃいましたか?』だ。

俺たちは山を降りた。
無事に一人も欠けることなく。
奇跡だと、俺は思った。

もう一度言おう。
山では何が起こっても不思議じゃない。

……どうだ? お前も山に登りたくなってきたんじゃないか?
そういえば、今週末に山に登る予定があるんだが――お前も一緒に参加するか? 
席は空けておくよ。気が向いたら言ってくれ。

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