『君が紡ぐ歌』
世界は大抵、理不尽だ。
いつだって本物の綺麗なモノより、上辺だけのメッキの美しさばかりが賞賛を浴びている。
ほら、今も……大きなステージ上では枕をした大根女優が如何にも清廉な新人ですとばかりに光のスポットライトを浴びている。
逆に、地道に雑用やら何やらとシンデレラの如き下積みを重ねた君は舞台裏でデッキブラシを握っている。
下手くそな調子外れの歌が舞台から聞こえる。
きっとこれも、彼女の愛人のパトロンである評論家が天使の歌声だのなんだのと高く評価するのだ。
下らない。
本物の天上の調べは、舞台の上では行われない。
光の当たらない陰で、誰も居ないところにのみ存在する。
いつもスポットライトを動かす僕は、そう思った。
ほら、まばらなカーテンコールが鳴る。
思っていたのとは違った。
そんな顔の客を見るたびに僕は愉悦に内心ほくそ笑む。
本物の歌が舞台の上では行われない怒りと、そんな本物の歌を自分だけが知っているという仄暗い優越感が僕の中を満たしていた。
ああ、はやく君の紡ぐ歌が聞きたい。
こんな下らない音符の羅列ではなくて。
金色の音色が奏でる本物のハーモニーを。
おわり
10/20/2025, 9:42:15 AM