白井墓守

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『光と霧の狭間で』


突然だが、俺の趣味は登山だ。
そして俺の山での教えは一つ『山では何が起こっても不思議じゃない』だ。
そんな俺のとある登山で起きた話を聞いてほしい。

『――汝、何を望むか』

山登りの最中、これは幻覚だろうか。
にしては、やけに威圧感の漂う超常的存在が、俺達にそう語り方掛けてきていた。
大きな圧を感じて、俺達は誰一人まともに声を上げることすら出来なかった。
……一人を除いて。

光と霧の狭間で、アイツは叫んだ。
この登山中にトラブルばかり起こして一切役に立たなかったやつだった。

「ファミチキくださーーーーい!!!」

光と霧の狭間の奥に居る、超常的存在が動揺したように激しく揺れ動いた気がした。
そのまま超常的存在は消え失せ、僕ら登山隊は何も無かった山に戻ってきていた。

「お前、すごいな」
「え、何が??」

俺達がシンプルにすごいと賞賛するも、アイツは自覚が無いのか何の事だと首を捻っていた。
すごいな、リアルな『僕、なにかやっちゃいましたか?』だ。

俺たちは山を降りた。
無事に一人も欠けることなく。
奇跡だと、俺は思った。

もう一度言おう。
山では何が起こっても不思議じゃない。

……どうだ? お前も山に登りたくなってきたんじゃないか?
そういえば、今週末に山に登る予定があるんだが――お前も一緒に参加するか? 
席は空けておくよ。気が向いたら言ってくれ。

10/19/2025, 9:52:16 AM