白井墓守

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10/17/2025, 10:16:39 PM

『砂時計の音』

サラサラサラ……。

「砂時計の音ってさ、何かに似てると思わない?」

夜の部室で、いきなり彼女がそう言った。
僕は取り出していたカップ麺の蓋を慎重に開けながら、首を傾げる。

「何かってなんだい?」
「それはちょっと思い出せないけど……」

うーん、と彼女は頭を抱えて悩みこんでしまった。
僕は彼女をよそ目に、砂が流れきった砂時計をひっくり返す。
再び、サラサラ……と砂時計から砂が流れる音がしだした。

僕は、ふとこんな事を思った。
よく人間の残りの命は蝋燭に例えられるけど、もしも実は砂時計のようなタイプだったのならば? と。

体育で走らされたシャトルランのように、一回の砂時計ではなく、何回も何回もひっくり返して命が繋がれていく。
そして、ふと。うっかりと神様がひっくり返し忘れてしまった砂時計が、事故やら病気になって死んでしまうのだ。

……なんて、馬鹿な考えだろうか。
理系で化学部の僕が急に詩人に転向などして、どうなるというのか。きっとどうにもならないだろう。

「そうだ!」
「どうしたの?」

彼女が何かを閃いた様子で立ち上がる。
僕は優しく聞き返しながら、砂が落ちきった砂時計をみながら、蓋を開けていたカップ麺にお湯を注ぐ。
そして、もう一度砂時計をひっくり返すのだ。

「砂時計ってさ、波の音に似てない? ほら、ざっぶーん、ザラザラザラザラ〜みたいな!」

目を輝かせて彼女は僕にそう語る。その様子が微笑ましくって、僕はくすりと笑いながら彼女を優しく見つめ返した。

「どう?」
「まあ、そうかもね」
「でしょ!!」

内心、そりゃあ海で砂が流れるのと、砂が落ちる音は似ているだろうと思いつつも、この満面の笑みを浮かべる彼女を見ると、僕はどうにも言葉が出てこなくなるのだった。

「ほら、カップ麺出来たよ」

滑りきった砂時計を見て、僕は彼女にカップ麺を差し出す。

「本当に? やったあ! ありがとう!!」
「どういたしまして」

きっとなんてことのない、やりとりだ。
でも、僕にはずっとずっと眩しく見えた。

そんなある日の夜だった。


おわり

10/16/2025, 11:17:07 PM

『消えた星図』

「星図ってさ、なんだと思う?」
「チーズ?」
「いや、星図」
「ああ、製図台の製図?」
「いや、星の地図と書いて、星図」
「知らんね……だけど、そのまま星の地図なんじゃないかい?」
「……そっか」

『拝啓、遥かなる昔に語り合った友よ。
 まさか、お互い今のような事が起こるとは、思いませんでしたね。
 あのときに、あなたと星図とは何か、談話したときが懐かしい。
 友よ、今この時から、星図というものは消え去ります。
 ……いえ、はっきりいいます。私が消すのです。
 二つの陣営に分かれ、宇宙を舞台に戦争を続け……
 私はもう、疲れてしまいました。
 だから、全てを灰燼に帰し、宇宙の塵とするのです。
 さようなら、友よ』

私は、したためた紙を紙飛行機の形で宇宙へと飛ばすと、起爆スイッチを押した。

目から涙が溢れ出て止まらない。
爆音が周囲から鳴り響き、もはや阿鼻叫喚以外の感情が人類から消えたみたいだ。
凄まじい震動が起き、皿の上で揺れるプリンのように、次々と建物が揺れ動いて崩壊していく。もはや、まともな文明は残らないだろう。
宇宙には、大量の流れ星が……まるで流星群のように光り輝いた。

そして最期。
太陽が一瞬、光を失い辺りが漆黒の闇に包まれたかと思うと、いきなり膨張した真白の光が一面を覆い尽くす。
熱い……なんて感覚はとうに無かった。

こうして全てが失われ、全ての星図が宇宙から消えた。

――願わくば、もしも次に人類が生まれたときには、戦争なんて起こりませんように。
下らない日々が、ずっとずっと、続きますように。

私はそう願いながら、崩壊した身体と共に、意識が宇宙に溶けていった。


おわり

10/15/2025, 10:18:28 PM

『愛-恋=?』

「愛から恋を引くと、いったい何になると思う?」
「あ、だろ」
「……いや、単純にアイからコイで重なってる文字のイを消滅させろっていう、文字パズルを聞いているんじゃなくてだね……?」

ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃと。
巣作り中のキツツキの如き喧しさを持って、目の前の男は言葉を不法投棄し続けている。

「わかった、つまりアレだな? お前は……愛は相手のためのモノで、恋は自分のためのモノって言いたいんだな?」
「あぁ、そういう事になる。やっと君にも伝わったか」

俺はか細い息を長く吐くことで、込み上げて来る怒りを穏便に沈めた。
幼馴染でなければ、三発は腹に入れていた。
……いや、幼馴染でなければコイツの話を聞く必要なんてなかったのだが。
か、考えないようにしよう。

「そんな愛から恋を引けば、いったいそれは何になると……君は思う?」

「――奴隷じゃね?」
「……奴隷??」

幼馴染は眉を顰めて、訝しげな顔をこちらに向けた。

「恋が愛になって、でも恋が冷めたんだろ? なら、あとは惰性で相手のために無償で奉仕する奴隷なんじゃねえの?」
「ほう……一理ある」

そう言って幼馴染が頷くが、指をトントンと机に叩く。
これは、何か言いたいことがある、という事だ。

「で、お前は何だと思ったわけ?」

俺がそう聞くと、幼馴染はすっと指を指した。
俺の前にあるプリントで、期限の遅れた課題だ。
小難しい内容のソレに、俺は頭脳明晰な幼馴染の力を借りていた。

「愛ではあるが、恋ではない……それは、友情というものではないか、とそう思ったんだ」
「………」

俺はヤツの言いたいことが分かり、気まずげに視線を反らし口を噤んだ。

「まさか、今……僕の行為が奴隷だと発覚するとは。目から鱗だったよ」

凍った空気の中、ピーヒョロローと間抜けな小鳥の声だけが辺りに響いた。



おわり

10/14/2025, 10:27:06 PM

『梨』

瑞々しい梨。
一口齧ると、中からじゅわりと甘い果汁が溢れ出る。
シャリシャリという独特な食感。

「でも、俺は梨が怖いんだよね」
「なんで??」

「美味しいからさぁ……」
「良いことじゃん」

「食べ好きちゃって、俺のお財布破産寸前」
「そりゃこわい」

いくらでも食べられる癖のない味。
しかし、食べ過ぎにより散財には、ご注意を。


おわり

10/13/2025, 9:20:09 PM

『ᏞaᏞaᏞa GoodBye』

ラ・ラ・ラ、ラ・ラ・ラ、と小鳥達が歌った。

さよなら、さよなら、あの子は死んだ。

みんなが笑うお葬式。

楽しげに小鳥達は歌う。


ラ・ラ・ラ、ラ・ラ・ラ、と小鳥達が歌った。

さよなら、さよなら、あの子は死んだ。

みんなが泣くお葬式。

悲しげに小鳥達は歌う。


勝って嬉しい花いちもんめ。
負けて嬉しい花いちもんめ。

縄張り争いに告ぐ勝者に向けて。
英雄を称えて、小鳥達は歌う。
おめでとう、おめでとうと。
ありがとう、さようなら、と。

縄張り争いに負けた敗者に向けて。
労いを込めて、小鳥達は歌う。
ありがとう、ありがとうと。
もう辛いことはないよ、よくお眠りよと。


「ああ? 今日も小鳥達がうるせぇなぁ!!」

言葉の通じぬ人間には小鳥達の鎮魂歌も……ただの鳴き声だ。
だが、構わない。

だってこれは、小鳥達のお葬式なのだから。


ᏞaᏞaᏞa GoodBye。
小鳥達が歌う。

人間には分からない、さようならの――お葬式を。


おわり

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